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五百文字の小説

二人だけの秘密

作者: 銭屋龍一

 ヨハン・グルト・ヴィットゲンシュタイン博士は、朝起きて一番初めにする髪の手入れをしているとき、そのブラシに多くの抜け毛がついているのを見て溜息をついた。博士の長くて真っ直ぐな髪は若いときからなによりも自慢のものであった。

 私も年を取ったものだ。きょうが十年に一度のあの日であるというのに。

 博士は首を何度も振りながらもクローゼットに向かい余所行きの背広に着替え始めた。


 アスク・ナゼア・マンスフィールド女史は、朝起きて一番初めにする歯磨きをしているとき、不意に涙が零れ落ちてきた。女史の白くて輝く歯は、若いときからチャームポイントのナンバーワンだったのだ。それがいくら磨いても、もうその黄ばみが落ちない。

 私も歳をとったものだわ。きょうが十年に一度のあの日だというのに。

 女史は涙を拭くとお気に入りのワンピースに着替え、襟元に思い出の淡い紫のスカーフを巻いた。


 細い野道を博士は歩いた。遥か向こうからこちらに向う影がある。

 女史は野道を歩いた。遥か向こうからあの人の近づいてくる影がある。

 きょうこそ違う何かが起こるだろうか。二人の胸には、同じ思いが詰まっていた。


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