月
いつもの良くわからない話しです。
――僕は故郷を捨てた。
カーテン越しに朝日が入ってくる。時計を見ると既に6時になろうというところだった。
――また、眠ることが出来なかった。
起きてすぐに机に向かう。引き出しを開けると中には無造作に仕舞われた拳銃。
既製品の銃とも違うフォルムを持つそれを持ちあげ分解、組み立てを繰り返す。
ワンセットの動作を1分もかからずこなす。日常に身を沈めてどんなに忘れ去ろうとしても指は覚えている。体は習慣を求める。
銃を引き出しに再びしまう。そして四葉のシロツメグサを取り出す。かつて友人がお守りとしてくれたものだ。
そうしてカーテン越しの空に目を向ける。視界は閉ざされているが感じる。
――僕が捨てた故郷は蒼い空にうっすらと姿を見せている。
シロツメグサのお守りを引き出しに戻す。何度も捨てようとしたがやはり捨てることはできない。今回も、そして次回もきっと捨てることはできないのだろう。
故郷を捨てさった僕は、そこに残してきた想いを振り切ることが出来ない。
夜になると聞こえるのだ。
友の声が、仲間の声が、家族の声が。
夜になると見えるのだ。
友の姿が、仲間の姿が、家族の姿が。
耳を閉ざしても瞼を閉ざしても、それは消えない。消えてくれない。
そして、朽ちた身体を晒して僕を責めるのだ。その瞳で、その声で。
「裏切り者がッ!!」
僕は一心不乱に眼をそらす。逸らすことなどできないのだけれども。それでも逸らす。
僕は耳を塞ぐ。塞いだところでその声は僕の脳裏に直接響くのだけれども。
そうして夜が明けるのだ。
僕は一日をボーっとして過ごす。
時折聞こえる幻聴に、時折見える幻視に怯えて、僕は外に出ることも出来ない。
僕は鏡を見るのを避ける。
鏡に映った自分は酷く醜い顔をしている。
そうして、その醜い顔で僕を責めるのだ。
鏡の自分が僕は責める。
そうして僕は救いを求める。
自分が狂うように祈り続ける。
死ぬことを何よりも恐れた僕は、死ぬことで安寧を求める。
だが、行動に移すことはできない。そんな勇気など持ち合わせていないのだから。
――そうして、また夜が来る。
月明りがカーテン越しに差し込む。その光は僕を蔑むようだった。
僕は布団をかぶる。
夢の中に逃げ込みたいのだ。そうして薬を嚥下する。
暫くするとまどろみが僕を包み込む。
だが、夢さえも、僕を責め立てるのだ。
「裏切り者がッ!!!」
その瞬間に僕は眼を覚ます。時計を見ると5分と経っていなかった。薬でもたらされた眠気は飛んでた。
僕は何をすべきなのだろう?
何をしたらいいのか分からないまま、僕は膝を抱えて苦しみ続ける。
これが僕の犯した罪に対する罰なのだろうか?
時折、そう考えるようになった。
僕は袋小路にいるのだ。
引き返すことも最早叶わず。先に進むことも出来ない。
狂うことも出来ないまま、この身を焦がしつづけるのだろう。
僕は狂うことが出来ない。
受け入れたつもりで、僕は今も膝を抱えて生きて行く。
――月は今も、僕を見続ける。