明希~生きられなかった小さな命へ~
私には子供がいます。
お空へ還ってしまった小さな小さな我が子。
明希――生きられなかった君に届きますように…。
ねぇ キミは覚えているかな。
キミがお腹の中に宿った時、
パパもママも、おじいちゃんもおばあちゃんも、
みんなが笑顔でキミの生命の誕生を喜んだ。
辛いことばかりが続いたこの数年を
一瞬でゼロに戻してしまえるくらい
小さなキミの生命は、
私たちみんなの希望だった。
私たちだけじゃない。
ママの職場のみんなも、友達も、従姉弟のちびちゃん達だって。
みんながキミに出会える日を待ち遠しく思っていたよ。
たまにママは無理をして、
重たいモノを持ったりしてたけど、
それでもキミはママのお腹に
しっかりしがみ付いてくれてたね。
「男の子かな?」
「女の子かな?」
パパとママは少しずつ大きくなるキミを見るたびに、
そんな話で盛り上がっては幸せを噛みしめていた。
どうして現実はこんなにも残酷なんだろう。
小さな小さなキミの身体に異常が見つかったのは、
キミがお腹に宿って四ヶ月目のある日のこと。
キミが悪いんじゃない。
じゃあママが悪い?
違う。誰のせいでもない。
突然の出来事に言葉はなくて、
受け入れられない現実に視界は滲んだ。
どうして。どうして。どうして?
こんなにもキミの心臓は力強く脈打つのに、
こんなにもキミは生きようとしているのに、
じゃあ何故、この子は生きる事が出来ないの?
麻痺した頭でキミの生きられる術を探して、
それでも見つかる情報に希望なんて見えなくて、
どれだけ涙を流しても、涙は枯れずに頬を濡らした。
分かってる。
キミの生命を無理矢理繋ぎとめることは、
それだけキミの生命を苦しめると言うこと。
苦しめたその先にあるのは、
必ずしも“希望”ではないと言うこと…。
決断の時は迫るのに、
頭では諦めることを理解しているのに
それでも奇跡が起きる事を願った。
もしかしたら。次こそは。
そんな言葉を言い続けて、
お腹の中のキミを見るたびに絶望と悲しみは広がった。
「きっと辛いよね。苦しいよね。ごめんね」
キミを生かしてあげられる事も、
静かに眠らせてあげる事も出来ない。
弱いママでごめんね。
キミの異常が分かってから半月が経った頃。
ようやくパパとママは決断をしました。
それはキミを“失う”ということ。
これ以上苦しい想いをしないように、
キミをお空に還すと言うこと…。
ごめんね。ごめんね。
キミの生命を産んで上げられなくてごめん。
入院は三日。
あと僅かな時間しかキミと一緒に居られない。
身体に訪れる痛みや辛さよりも、
心が一番痛かった。
入院二日目。
一日がかりでキミを産んだ。
小さな生命はお腹の中で静かに亡くなって、
ママは驚く程陣痛の痛みも、出産の痛みも感じずに“安産”だった。
身長14センチ。
体重52グラム。
小さな小さな可愛い“男の子”。
他人から見たら、まだ人間にもなっていない存在。
でも、パパもママも生まれたキミが可愛くて仕方なかった。
二人でキミに名前を付けた。
キミを失うと分かった時から二人で考えていた名前。
もしかしたら性別が分からないかも知れない。
だから男女どちらでも合う名前。
“明希”
パパとママの明るい希望の子。
キミは皆の希望だった。
だから明希。
ねぇ、明希ちゃん。
キミは今どこにいるのかな?
お空? それともパパとママの傍に居てくれるのかな?
どこにいてもキミが幸せでありますように。
次に産まれて来る時はきっと元気で丈夫に生きられますように。
今はそれだけを願うよ。
キミを忘れることは無いけれど、
今もこんなにキミが大切だけど、
キミがまた新しい生命を生きられるように。
明希――パパとママの所に来てくれてありがとう。
産まれてくることの出来なかった生命は、戸籍に載せる事が出来ません。
私たちにとって初めての子供。
大切な大切な生命に変わりはないのに、その事実はいつしか薄れてしまう。
戸籍に残す事は出来なくても、誰かに彼の事を知って欲しかった。
これから産まれてくる次なる新しい生命にも
「君にはお兄ちゃんがいたんだよ」
そう教えてあげたい。
そういう気持ちで言葉に変えました。
読んで下さった全ての方に感謝を。
ありがとうございました。