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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

このくそったれた世界で

作者: 霧咲 零



 戦闘開始から何分たったのだろうか。その間に死んでいった仲間達は数知れない。当たり前かもしれない。なぜなら、俺達の部隊の役割は友軍の盾となり、友軍のために死ぬためにつくられた戦闘用奴隷部隊なのだから。

 この国は腐っている。孤児を集めて来ては戦闘訓練をして程よくなったら戦場に送り込む。訓練に手加減など存在しない。例えしんだとしても、またたくさんいる孤児を連れてくればいいからだ。

 そうしてつくられたこの部隊は戦闘開始10分を数えた頃には半数が死んだ。ついさっきまで生きていた見知った人間がただの肉塊にかわる。

 俺の右方向に炎魔術が着弾し、砂ぼこりを巻き上げる。狙いもつけずに炎魔術を打ち返す。

 ここでは命は石ころよりも軽い。そして平等だ。奴隷だろうが平民だろうが貴族だろうが、魔術があたり、剣で斬られれば死ぬ。

  炎が向かってくる。考えるより身体が動く。カウンター魔術を構築、平行して魔術を構築する。発動。カウンター魔術で向かってきた炎を相殺し、同時展開していた魔術も発動。向かってきた方向に放つ。

 さらに十の魔術を同時展開する。放つ。

 くそったれなこの世界に。

 くそったれなこの国、アウラスに。

 くそったれな王に。

 くそったれな貴族どもに。

 くそったれな作戦をたてた野郎どもに。

 さっさと死んでいった仲間達に。

 くそが。前にも後ろにも、この戦場に味方なんていない。退却したら退却したで味方に撃ち殺される。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 身体が重い。魔術の精度も下がり始めた。魔力も心もとない。だが生きるためには戦い続けなければならない。

 もしここで生き残ったとしても、また次の戦場に送り込まれるだろう。俺が幾ら魔術に関して強くても、所詮は奴隷。消耗品だ。

 戦闘開始三分に絶対に一緒に生きて帰ると約束した奴は敵の魔術を受けて死んだ。どんなに辛くても笑っていて、みんなを励ましてくれた奴はもういない。

 徐々に相手の国のガスリスタが押し始めた。 どんなに俺ががんばっていたとしても、所詮は個人の力だ。しかもガスリスタには戦乙女と呼ばれる化け物がいるらしい。一人で万の働きをするらしい。さぞかし女に見合わぬ体格なんだろう。

 死ぬつもりはないが、死ぬ前には一度顔を拝みたいものだ。

 退却したくても、退却したら後ろにいる部隊から魔術を打ち込まれて死ぬ。どうしようもない。

 また一人死んだ。死を悼む暇など無く魔術が雨の様に降ってくる。自分に当たる範囲のものだけ迎撃する。

 その時だった。

 綺麗な長い銀髪が目に入った。戦場だというのに思わず目が奪われる。

 馬に騎乗しているようだ。

 年齢は17、8くらいだろうか。その体は線が細く、宝石を思わせる緋い瞳はしかし、鋭い光を放っている。 顔立ちは整っていて、これほど戦場が似合わない少女は居なかった。

 しかしながら、その鎧に付いたおびただしい返り血が、少女がただ者ではないと証明している。

 目があう。

 背筋な冷たいものがはしる。

 マズイマズイマズイっ!

 目が合っただけで分かった。これまで会った事が無いほどの実力者だ。俺が万全の状態で有れば……。

 そんな思いが頭をよぎったが、すぐに打ち消す。

 いつでも万全な状態で戦える事などあり得ない。ましてはここは戦場だ。

 少女は俺を獲物と見定めたようだ。

 一直線に俺に向かってくる。

 相手は馬で、今更逃げて逃げられる訳が無いので、迎撃の準備を整える。雷魔術を放つが、切り捨てられる。小手先の術は通用しないようだ。

 槍が俺を串刺しにせんと迫ってくる。

 まだ早い。まだ……。全てがスローモーションになる。一秒が更に分割される。コマ送りのなかで、向かってくる槍をギリギリで避けた。そして通りすがりにナイフで馬を切り裂く。

 その瞬間に時間が元に戻る。乱れた呼吸を落ち着かせる。

 相手の少女は馬を乗り捨て、こちらに向き直った。


「まさか、今の一撃をよけ、更に馬をやられるとは……。貴様、名はなんという?」


 少女にとっては避けたのは予想外だったようだ。まあ此方も出来たのは驚いたが。

 てか名前聞くなら自分が名乗ってからにしろ。と思ったものの、答える。


「名前か……。強いて言えば、戦闘用奴隷23―0536だ」


「ふざけているのか? 私は名前を聞いたのだ」


 どうやら答えがお気に召さ無かったようだ。


「ふざけるもなにも、奴隷なんて識別番号あれば十分だろ。途中から奴隷なった奴はともかく」


 そうすると少女は驚いた様子でそうかとだけいった。


「それで? あんたの名前は?」


「私は、シャナ=クリクスという。ああ、恥ずかしいが、戦乙女とも言われているな」


「これは驚いた。どんなゴツい女が戦乙女なんて呼ばれているのかと思えば、こんな美少女だとは」


「期待を裏切って悪かったな」


 おれはそんなことはない、と言って続けた。

「自分を殺してくれる相手が美少女ならば、こんなに嬉しいことはないさ」


「そうか……。死の願望でもあるのか?」


 俺は問われたことを自問した。死にたくはない。それは間違い無いはず。だが目の前の相手はどうみても自分より格上だ。足掻いてここを生き残れたとしても、その次で終わる。


「いや、死にたくはないさ。だけど、このくそったれた世界からおさらばできるなら、それも悪くないかもしれない」


 俺がそう答えると、シャナは思案顔になった。


「ふむ……。ならばその手伝いをしてやろう」


「優しく頼むぜ?」


 俺がそういうと、シャナは笑った。一瞬見とれてしまった。美少女は何をしても様になるな。

 戦闘に向けて集中を高める。最後まで足掻いてやろうじゃないか。

 戦乙女シャナ=クリクスにとって強敵だったと記憶に刻み付けてやろう。










 相手の武器は直剣のようだ。対して俺は大型ナイフのみ。どう考えても分が悪い。

 魔術のみで対抗すると瞬時に決定する。

 足に風の魔術を瞬間的に付与し、移動を高速化する。一々展開していてはすぐに殺される。

 その瞬間シャナは動いた。

 速い! 目で追うのがやっとの速さだ。

 袈裟懸けに降り下ろされる剣を紙一重で避ける。そこから横切りに変化する。

 そこから突きに変化した。まさに閃光。なんとか致命傷は避けられたが、身体中を浅く切り裂かれた。

 大きく後ろに跳ぶがすぐに追従される。距離が離れない。

 爆炎の魔術を発動させる。これにはシャナにも予想外だったようで、避けきずに爆炎に飲み込まれ吹っ飛んでいく。もちろん近距離で発動したため、俺も巻き込まれ吹っ飛ぶ。

 だがこれでいい。距離は離れた。少なくない傷を負ったが、予想の範囲内だ。

 魔術を五十同時展開する。俺もやったことはないがいけると判断。

 戦乙女を炎・雷・水・風・氷・土・光・闇様々な魔術の雨が襲う。同時に新たな魔術を展開。残りの魔力全てをぶちこみ、魔術を構築する。五十の魔術の嵐は、これを展開するための時間稼ぎだ。殺れるとはおもっていない。


「くらいやがれ! メテオ・インパクト!」

 空中にいきなり巨大な岩が浮かび、それが戦乙女を潰さんと迫る。同時に魔術の嵐が止むが、いくら戦乙女でもこの魔術の範囲からは今更抜け出せまい。

 シャナが剣を構える。剣に魔力を集中させている。まさか……。


「おいおい、嘘だろ。隕石ぶった斬ろうってのか」


 俺の発言を聞いたのかはわからないが、シャナはこちらをちらっと見て不敵に笑った。

「はああぁぁぁぁぁ!!」


 シャナが剣を降り下ろし、魔力が解放された。剣から放たれた魔力の衝撃波はメテオ・インパクトを一刀両断した。

いや、もう無理だろ。

 もう魔力はほとんど残ってはいない。体から力が抜け、仰向けに倒れた。くそっ、空が嫌みなくらい綺麗だ。

 しばらくすると、足音が近づいてきた。シャナだろう。

 もうすぐで俺は死ぬだろう。でも不思議と恐怖はない。いっそすがしがしいくらいだ。


「最後のは焦ったぞ」


 シャナはそんな事を言いながらやって来た。


「まああんまり効かなかったようだけどな」


「そんなことはないさ。本気を出したのは久方ぶりだ」


 そう言ってシャナはまた不敵に笑った。どうやら俺は彼の有名な戦乙女に本気を出させたらしい。最高じゃないか。


「遺言はあるか?」


 残す相手すらいねえよ。


「ないね。やっとこのくそったれな世界から解放される」


「そうか。ではさらばだ」


 シャナはそういうと剣を降り下ろした。目を閉じた。美少女に殺されるって本当にわるくねえな。



だが死はいつまでたっても襲ってこなかった。

 目を開けると、顔の隣に剣が刺さっていた。


「……どういうつもりだ」


 戦乙女が今更人殺しに抵抗を覚えることはないだろう。


「貴様はいったな。このくそったれた世界から解放されるなら、と」


「ああ、いったな」


「ならば、このくそったれた世界を変えてはみたくはないか」


「は……?」


 言っている事が一瞬理解出来なかった。そんな俺に構わずシャナは続けた。


「私はこのくそったれた世界を少しよくしてみたいと思っている。お前はどうだ?」


「……俺はただの奴隷だ。出来ることなんて無い」


「お前は私に本気を出させたのだぞ? いいか、戦闘用奴隷23―0536は死んだ。お前は私の所有物になれ」


 この女の言っている意味がわからない。でも、そんなバカげて、理不尽なことを言うシャナが眩しく見えた。 そんななか、シャナは勝手に話を進める。

「ふむ。名前がないと不便だよな。よし、私が決めてやろう。……ソラ。この綺麗な空と同じ名前にしよう」


 勝手に名前まで決められてしまった。でも俺はシャナが変えた世界を少し見てみたくなった。まだ生きたいと思ってしまった。


「ソラ。お前のその力が欲しい。私に本気を出させた。断じて奴隷にいていいやつじゃない」


 そう言ってシャナは右手を俺に差し出した。



「戦乙女にそんな評価を頂けるとは。」


 俺は何故かおかしくなって笑いながら立ち上がった。


「いいぜ。あんたにこの命をあげよう。自由に使ってくれ」


 そういいながら俺はシャナの手を握った。

 それが、俺――ソラとシャナの出会いだった。





描写不足過ぎですけど、書ききった感があるので投稿。

お前の力が欲しい。

これを言わせたかっただけかもしれない。そしてそこまでの会話が雑に……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界を書くのが好きなようですね。心の叫び(?)とか、すごくうまいなって思いました。
2012/12/13 21:24 退会済み
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