京の叔父様
父の弟である、康二堅は帝都に住んでいる。
持ち前の明るさと社交性で、何だかよく分からないうやむやな商売で成功して、帝都に居を移した。
妻が三人いて、いずれも劣らぬ美女ぞろい。
ただ三人とも我が強いようでしょっちゅう喧嘩になり、その火の粉が降りかかってくると、叔父は私たちの家に逃げてくる。
でも逃げてきたというと聞こえが悪い。叔父はいつも言い訳を言う。「お義姉さんが風邪を引いたって聞いてね」とか「新しく商売を始めるんだけど、兄さんにも相談に乗ってもらいたくて」とか、いろいろ。
今回の言い訳は「皇帝のお妃を募集しているけど、露真ちゃんはどうだい?」というものだった。
ちなみに「康露真」が私の名前。
父もお義母さまも、もちろん聞き流した。叔父も本気ではなかっただろう。
曼珠思想からいうと、質の良い男にはたくさんの妻がつく。
質とは身分。
つまり、国で一番えらい皇帝にはたくさんの妻がつく。多ければ多いほどいい。妻が多ければ、皇帝の質がいいということになる。
今の皇帝はすでに50をすぎた高齢で妻も20人ほどいたはずだが、何かの都合でさらに妻を募集することになったらしい。
妻が多ければ皇帝の質がいい。
逆に言えば、妻を多くすれば皇帝の質が上がるということ。
国の政治がうまくいかなくなると、よくこういうことが行われる。もちろん皇帝一人で何十人もの妻を相手にできるわけがないから、本当に飾りだ。
それでも輿入れできれば、皇帝の親戚になれる。もし万が一皇帝に気に入られて皇子でも生もうものなら、さらに位は上がる。
時の権力者たちはこの行事が大好きだったに違いない。
しかし輿入れする女は悲惨だ。
一度後宮に入れば、二度と出られない。実際どうであれ、名目上皇帝の妻だからだ。
皇帝の妻として、しかし実際の「妻」の役割は一つもなく、ひっそりと後宮で老いていかなければならないのだ。
なので若い娘を皇帝に差し出そうとする親はあまりいない。
本気で皇帝の子を生む気があるか、権力にすがりたいか、誰かに恩を売っておきたいか、まあそんな理由でもなければ。
私はお酒の席で、叔父たちがそんな話をしているのを聞いていた。之盛がこわいから、いつもお義母さまのそばにくっついていたのだ。
父は一切本気にせず、返事もしなかった。叔父も本気ではなかっただろうから、返事がないことに何も言わなかった。
お義母さまは、二人にお酌をしながら、自分もお酒を飲んでいた。
「誰と結婚したって、結婚は墓場よ。結婚したらもう終わり。それならいっそのこと、最高の飾りである皇帝の妻となって、飾りだと割り切って生きるのもいいかもしれないわねえ」
酔ったお義母さんがそんなことを言った。
「またまた、お義姉さん。兄さんにこんなに愛されているのに、どうして毎回そんなこと言うんだろうねえ」
叔父はカラカラ笑っていた。