遺書ごっこ
「ねえねえ、遺書ごっこやろう!」
「何だよ遺書ごっこって」
目を輝かせながら便箋を持ってくる彼女に、俺は首をかしげる。
「遺書を書く練習!!」
「いや別に俺死ぬ予定ないし」
「でも人間、いつ死ぬか分かんないよ?」
「そうだなあ…」
「やってみようよ!あんた文章書くの下手くそだしさ、練習になるよ!きっと上手くなるって!」
「別にそんなの上手くなりたいとも思ってな「ほら早く!」
彼女に急かされて、俺はペンを執った。
「んー。『おとーさん、おかーさん、先立つ不幸をお許しください』…」
「不幸って漢字、間違えてるよ。不孝だよ不孝」
「あ、そうなの」
俺は不幸と書いた部分をペンでぐちゃぐちゃと塗りつぶし、上に小さく不孝と書いた。
「ちょっと!もっとちゃんときれいに書いてよ!」
「は?別にいいじゃん遊びなんだし」
「やだ!もっかい書き直して!!」
彼女に怒られ、俺は初めから書き直した。
「んー。『大好きだった漫画は棺に入れてください。あとゲームも』…あ、でも燃やしたらもったいないな。『俺の漫画は古本屋に売ってください』っと」
「…そんなことしか書くことないの?」
「急に遺書を書けって言われても、何を書けばいいのか分かんねーよ」
「ふーん。あ、私のことは?」
「お前のことぉ?」
「書いといてよ!!」
「んー…」
彼女の名前を書き、『大好きだ』と書いた。我ながら恥ずかしいと思った。
「最後に、自分の名前と今日の日付書いて」
彼女に言われるまま、俺は自分の名前と日付を書く。
「よし、できたね!!うんうん、なかなかの出来栄え!」
「そ、そうか?」
「うん」
褒められて照れている俺に、彼女は優しく微笑んだ。
「本物の遺書に見える。これがあったらさ、
君が死んでも、自殺だってみんな勘違いしてくれるかなあ」
「…え?」
微笑んでいる彼女の手を見る。握っているのは、包丁。
「…え?」
もう一度、彼女の顔を見る。
「ね、きっと自殺だと思うよね?」
彼女は、笑っていた。
「じゃあね」