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無表情少女の歩む道  作者: 日向猫
第一章 異世界再誕
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幕間1 彼女から見た少女(カリーナ視点)

 私の名はカリーナ・ニーチャ


歳は66、モルガナ教会の修道長を務めています。

私はオラクル所持者です。

私の力は植物の成長を促進する力、おかげで野菜等は買う必要がなく

教会の敷地内に菜園を作って自分で育てています。

私の老化は30の時に止まりました。

誰も私を66歳の老女だとは思わないでしょうね。

私が身に纏うのは黒の修道服。

この修道服の色には意味があります。

見習いの修道女は白を

正修道女は青を

そして既婚者、もしくは既婚者だったものは黒を着るのです。


私の修道服は喪服も意味します。

私は23の時、幼馴染みだった夫と結婚し25歳の時、元気な男の子に恵まれました。

でも幸せは長く続かなかった。


私が28歳の時、国内で伝染病が発生したのです。

猛威を振るった病は多くの命を奪っていきました。

私の夫と子供も一緒に・・・。


オラクル所持者は病や毒物への耐性が極めて高いのです。

その結果、私は一人取り残されることになったのです。

茫然自失で生きる気力を失った私を保護したのが聖天教会でした。

与えられた個室に閉じこもり毎日死ぬことを願いました。

でも高すぎる生命力が私を死なせてはくれませんでした。


自害はできません、そんなことをすれば私は二人の元に行けなくなる。

もうなにもする気が起きず、どうすれば死ねるだろうかと考えていたその時。


窓の外から子供の泣き声が聞こえてきたのです。

窓の外を覗くと、まだ歳若いシスターが必死に赤ん坊をあやしていました。

私はまるで吸い寄せられるように、ふらつく身体を引きずってそのシスターの元へと向かったのです。

赤ん坊はオラクル所持者でした。


病によって親が死に絶えてもたった一人生き残ってしまったのです。


・・・・・・・私と一緒だね。


私はシスターから赤ん坊を受け取ると、かつて我子にしたように赤ん坊を抱きしめました。

その時です、私は言い知れぬ感覚に包まれたのは。

後々になってあれが天啓というものだと知りました。









私は天啓を得ました。



私の意味、親の温もりを失った子供たちに、仮初なれど母として温もりを与える事。

時に優しく、時に厳しく。

私は聖天教会に入信する事にしました。


オラクルを持つがゆえに親元から引き離された子供たち。

そんな子供たちと触れ合いたい・・・。

私は多くの子供たちと触れ合いました。

そして多くの子供たちを送り出していったのです。












30年などあっという間に過ぎました。

今私はモルガナの聖天教会にいます。

今日ここに、再び親元から引き離された子供がやってきます。

アウラ・ライヒマン、まだ三歳の子供。

亡くしたあのこと同じ歳の子供。

稀有なオラクルを持つがゆえに、望まぬ別離を迎えた子。

私は今日からこの子母代わりとして、立派に育て上げなければなりません。

道を踏み外さぬように、正しき心根を持つように。

時に優しく、時に厳しく接しなければ・・・・。











それにしても随分と遅いですね、予定ではそろそろ戻ってもいいはずなのに。

なにかあったのかしら。


不安が募る。

不幸な子供がこれ以上の不運に晒されなければいいのだが・・・・。

















馬車が戻ったのは翌日のことでした。

心配しすぎて一睡も出来なかった・・・・。

ルシフ神父め、連絡のひとつも寄越せばいいでしょうに・・・・。

彼の力なら出来たはずだ、まったく。

寝不足のせいで不機嫌な顔になってやしないだろうか。


馬車がやって来る、さて迎えに行こう。


「シスターカリーナ、馬車が戻ったようですよ」


部屋を出ると白服の修道女が私を出迎えた。

彼女はシスターネーナ、まだ歳若い見習いシスターだ。

青い髪と緑の瞳の少しふくよかな少女だ。


「ええ、今からいく所です」


「シスターカリーナ、寝不足ですか?ずいぶんひどい顔をされていますよ?」


シスターネーナに指摘されてやはりかと思った。


「しょうがありません、どこかの神父が禄に連絡を寄越さなかったのですから

 心配で眠ることなど出来ましょうか!」


「あらあら、ルシフ神父も罪作りなお方ですね」


そうほわほわした雰囲気で笑う彼女。

彼女のもつ雰囲気は一種独特の空気を孕む。


「私が心配なのは子供の方であって神父などはどうでもよろしいっ!」


「うふふ、そうですか・・・♪」


楽しそうにシスターネーナが笑う。

教会の扉を開けて馬車を出迎えた。

あの神父め、どうしてくれようか。

そこうする内に、馬車は教会の前に止まった。

護衛についていた神官戦士と帰還の挨拶を交わしつつ、馬車の中の人物が降りるを待つ。

馬車の扉が開いてルシフ神父が降りて来る。

馬車から降りたルシフ神父はすぐに振り返り馬車から小さな人影を降ろした。


あの子がアウラ

今日からここで暮らす子供。

とりあえずまずはルシフ神父に遅れた理由を聞かなければね。


「お帰りなさいルシフ神父、予定よりずいぶん時間がかかりましたね?」


「いや面目ない、道中魔物の襲撃を受けましてね

 半日ほど立ち往生してしまったのですよ」


「そうでしたか、お怪我は?大事ないですか?」


「ええ、問題ありません。

 馬車が破損した程度で済みましたよ」


「なら結構、ものは壊れても代わりがききますから・・・・・

 で、そちらが例の?」


「はい、アウラ・ライヒマン、オラクル黄金瞳の持ち主です」


私は子供を、アウラを見据える。


無表情に私を見つめる子供、その黄金の瞳に感情の色は見えない。

親元から引き離された影響だろうか?

感情の色が見えない子供に私は不安を搔き立てられる。

どう接するべきだろうか?これからの事を考えると甘やかすのはよろしくない。

これからは多かれ少なかれ一人の時間を持つことになるのだ。

瞳に感情の色い見えない、でも、子のこの眼は死んでいないと思った、ならば。


「左様ですか、アウラ、私はカリーナ・ニーチャ

 この教会の修道長を任されています。たとえ貴方が稀有なオラクルの持ち主だとしても

 ここにいる限りは甘やかしたりしませんから、そのつもりでいなさい」


「ん」


そうアウラは頷き返した。

私は少し目を見張ったがすぐさま元の表情を取り繕う。

よかった、私の判断は間違ってなかった。

この子は、気概のある子だ。

私の言葉にしっかりと頷いてみせた。

アウラ、今日から私は貴方の家族になる、ここにいる間私が貴方守るわ。

私は貴方の庇護者になるのだから。


「着いて来なさい、貴方の部屋に案内します」


そう言って私は踵を返す。

しばらくの後、小さな足音が私の後ろを着いて来る。




この日のために準備した部屋を気に入ってくれるだろうか?



自然、笑みがこぼれた。




これからの生活が楽しみだと。










カリーナさんの過去と

カリーナさん視点の初対面でした。

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