表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無表情少女の歩む道  作者: 日向猫
第一章 異世界再誕
7/29

第6話 魔物との遭遇



ルシフ神父から色々聞いて、少し落ち込んだ後


私たちは野営の準備を始めました。

行程の半分を過ぎた頃日が沈み始めたので、完全に日が暮れる前に

野営の準備に入ります。




















でも基本的に私のすることはなかった。

当然だが彼らは三歳児の私に手伝わせることはしなかった。

ただ見てるだけ、退屈である。





準備は護衛の神官戦士がおこなっている、神官戦士は三人いて

馬車の操作と警戒役の人は名前を聞いていない。

共に馬車に乗った神官戦士は名をバン・カルメルトスというそうだ。

歳は18歳、長身で大柄な体格を誇る彼なのだが気弱そうな印象を受けた。

なんせ私と眼が合うたびに硬直しているのだ。


そうとう気が弱いのだろう・・・・。


三歳児に怯えるなよ・・・・・神官戦士。




















side バン


自分は聖天教会モルガナ支部所属の神官戦士でバン・カルメルトスという。

歳は18、14歳の時、ある一人の騎士に憧れて自分も騎士になろうと王都に発った。

しかし現実は厳しく、騎士見習い採用試験に落ち仕方なく冒険者として生計を立てていた。


そんな時だ、転機が訪れたのは。


たまたま通りかかった教会の前に神官戦士の公募の看板が出ていたのだ。

仕官戦士は教会に属する戦士団だ。

騎士団と同じく採用は狭き門。

だが冒険者として実戦経験を学んだ今、もしかしたらという思いで公募に応募した。

試験の結果自分は見事採用され、1年の見習い期間を経て神官戦士となったのだ。

そしてその後モルガナに配属された。


そして今回の護衛任務だ。


ハイネンへの道中魔物の襲撃を受けたものの、大した問題もなく目的地に到着。

そして自分は運命的な出会いを得るの事となる。


テオドール・ライヒマン、元王宮近衛騎士団所属の近衛騎士。

4年前の戦争の英雄、自分が憧れた騎士の中の騎士。

黒剣の異名で知られた名騎士が自分の前にいた。


彼はルシフ神父と会話した後、我々神官戦士に労いの言葉をかけてくれた。

我々に温かな食事と今夜の寝床を提供してくれた。


話したい、自分の憧れの人だ。


しかしなにを話せばいいのだろう。

ふと、彼の腕に眼が行った。

刃物によるであろう傷跡が刻まれていた。

彼の騎士生命を絶った傷、彼から剣を奪った傷だ。


それを眼にして自分は何も言えなくなった。






だが翌日、出発の時になって彼の方から自分に話しかけてきたのだ。


「娘をよろしく頼みます」


護衛への言葉だと解かっている、だがこの胸を弾ませるほどの興奮を抑える事ができなかった。

なんとか彼の前では取り繕い


「はっ!お任せ下さい!」


と返したが、上気した頬に気付かれていなかっただろうか?

憧れの人から頼りにされた。

これほどうれしいことはなかった。

道中は交代で警戒に着く。

自分は馬車の中でテオドール殿のご息女と同席する事となった。


無表情の顔と感情を宿さぬ黄金の瞳。

三歳の子供とはいえ整った顔立ちだ、テオドール殿の奥方によく似た顔立ちに

母親譲りの銀髪が映える。

全く感情を宿さぬ瞳を向けられ無表情で見つめられる、ちょっと怖かったが


テオドール殿のご息女だ、なんら問題無い!


なんといっても自分は彼から頼りにされたのだ

ただ見つめられただけで臆してなんとする!

しかし、どう対応していいかわからず腕を組み寝たフリをしたのは情けなかった。


なんとも緊張して上手く対応できなかったのだ。

失礼があったらどうする?もし対応を誤って傷つけてしまったら?

そんなことになったら、自分にご息女を頼むと言ったテオドール殿に申し訳がたたん!

そう思うと身体が緊張して動いてくれなかった。


寝たふりは苦肉の策だったのだ。


なにやらルシフ神父と話している。

自分もあのように会話ができればいいのだが・・・・・。





















side アウラ


野営の準備が終わり、火を起こし夕食の準備を始めたようだ。

バンとかいう神官戦士もナイフを器用に操って調理に参加している。

あ、目が合った・・・・。

彼は一瞬硬直したようだがナイフで指を切ったようで、すぐに再起動した。


なかなか痛そうだ。


夕食は何事も無く終わりを迎えた。

そうそう、他の二人の神官戦士とも面識を得た。

最年長の神官戦士は、彼らを束ねる隊長格のようだ。

神官戦士としてのもっとも長い経歴を持つようだ。

所謂ベテラン戦士という奴だろう。


名はログス・ハイマン

歳は36だそうだ、赤い髪に緑の瞳の無精髭が目立つ中年男といった感じか。

なんか疲れたサラリーマンみたいな人だ。


もう一人がハワード・メイスン

歳は27、金髪碧眼の美男子だ。

所謂王子様みたいな人だと思ったら、貴族の三男坊だと教えてくれた。

実家に居場所がなかった彼は身一つで教会の門を叩いたのだと言う。

彼には話術に長けた軟弱そうな優男という印象を受けた。

彼らの話を聞きながら夕食を終えた私たちは、就寝の準備に入る。


あたりは既に深い闇に閉ざされていて何も見えない。


ここには街灯などないのだ。

今日は雲が多い、月が雲に隠れて辺りを深い闇に染めているのだ。

焚いた火だけが、我々を照らす光源だった。

神官戦士は交代で歩哨に立つらしい。

私たちが安心して眠れるように周囲を警戒してくれるのだ。


さぁそろそろ寝よう、そんな時だった。


はじめに歩哨に立ったハワードが大きく声を上げたのだ。


「魔物だっ!」


それを聞いて他の二人の神官戦士がすぐさま行動に移った。

私はルシフ神父に手を引かれ


「早く馬車へ!」


馬車に押し込められた。

て、神父あんたどうすんのよ?

そう思っていたら、なんと神父腰に下げてた鉄の棒(後々になって気付いたが

あれってメイスってやつですね)を引き抜くと他の神官戦士の援護に向かった。


私は背伸びをして窓の外に眼を向けた。

あれが魔物、犬か狼のような獣の群れ。

闇の中で魔物の赤い禍々しい瞳が光って見えた。

ルシフ神父に聞いてはいたが、実際に見るのとでは全然違う。

やはりここは、自分が前に生きていた世界とは別物なのだと実感させられた。













神官戦士がどの程度のものなのか、比較対象のない私には解からないが

彼らの実力は本物だった。

特にログスは戦斧(ハルバードのような武器?)を巧みに操り魔物の群れを確実に屠っていく。

ハワードだって負けていない。

ログスが前衛として前に出て魔物の注意を引き付けているうちに

弓をもって次々に獲物を仕留めて行った。

討ちもらしはまるでなし、百発百中とはこのことか。

軟弱そうな優男とか思っててごめんなさい。

そしてあのヘタレ(勝手に認定)のバンも盾を巧みに使って魔物の攻撃を凌ぎ

隙を作っては剣で確実に屠っていった。

あの温和そうなルシフ神父すら、厳しい表情で鉄のメイスで魔物を殴殺していく。


このまま終わりそうかな?

もう魔物の群れも残すところ後僅かだ。

そう思っていたら、ばっちりと目が合った・・・・。


魔物と・・・・。


一際大きな狼のような魔物、たぶんこの群れのボス格のやつだろう。

そんな奴ともろに眼が合ってしまったのだ!


「やば」


緊張感のかけらもない自分の声が口から漏れる。

他の神官戦士や神父には敵わないと理解したのか、やつは私を標的に選んだようだ。

私が潜む馬車目掛けて駆け出してきた!


「いかんっ!」


ログスの叫びが聞こえる。

巨大な魔物が向かってくるのに、私にはそれがとても現実のようには思えなかった。

巨大な魔物が馬車に突進してくる!


私は衝撃に備えようとした。

だが魔物が馬車にぶつかる前に魔物と馬車の間に割り込む者がいた。


バンだ!


あのヘタレ(勝手に認定)のバンが馬車と魔物の間に立ちはだかったのだ!

盾で魔物を抑えたバンは魔物に向かって剣を突きつけた。

魔物は咄嗟に後ろに下がるも、その後ろにはすでにログスが到達していた。

ハワード弓のけん制とログスの戦斧で魔物はあっさりと討ち取られたのだった。





















side バン


危ない所だった。

奴の視線の先に気付いた自分は咄嗟に馬車を守りに走った。

ギリギリ間に合ったからよかったものの、もし間に合わなかったらと思うとゾッとする。


「よくやったぞバン」


そういってログス隊長が労ってくれた。


「本当だね、えらいよバン

 よくぞお姫様を守ったね♪これで君も立派な騎士だよ!」


ハワードさんが笑いながら肩を叩いた。

騎士か、この小さな子供を守る騎士、それも悪くない。

そう思って馬車を見た。


案の定、彼女の感情を宿さない瞳と目が合ったのだった。



























side アウラ


その後は何事もなく朝を迎える事ができた。

だが私は夜の間眠る事ができなかった。



ここは現実だ、ゲームじゃない。


リセットもコンテニューもないのだ。

もしあの時バンが助けに入らなければ、今私はどうなっていただろうか?

そう考えるととたんに怖くなった。

今この闇の中にまだ魔物が潜んでいるかもしれない。

そう考えるだけで私は眠ることができなかった。


力がほしい、この世界で生き抜く力が・・・。

そんなことを思いながら私は眠れぬ夜を過ごしたのだった・・・・・。














モルガナはもう眼と鼻の先だった。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ