第3話 こんにちは神父さま
あれからしばらくして私は教会に預けられることになりました。
父が教会に連絡を入れ、教会からの迎えが来るまではこのまま家ですごします。
てか、教会迎え遣すの?たった一人の子供のために?
なんで?子供を保護して教育して将来的に教会員にしようってこと?
だから手厚く保護すると?なら先行き明るいかも・・・・・。
いやいや、油断は禁物だ、迎えに来たのが奴隷商のような奴らだったらどうする。
それでなくとも教会の実体がはっきりしないのだ、しばらくはお世話になるが
ずっと厄介になるつもりもない、変に期待をもたれても困るしね。
まぁその辺はおいおい考えよう。
あとは迎えだ、なにごとも最初が肝心、どんな奴が来るにせよ
こちらが主導権を握れればいいのだが・・・・あぁ、ろくに喋れぬこの身が恨めしい。
まぁね、教会に対して先入観で判断してますよ?
ゲームとか漫画で教会って悪役だったりするしね。
裏でいろいろやってたり、上層部は腐敗してボロボロだったり
先入観で判断してはダメなんだろうけど、いかんせん情報がないのだ。
下手な所にあの両親が預けるとは思わないが、不安は日々募るばかりなり。
決断はした、・・・・・・・したけどさ、それでも不安なものは不安なのだ。
だって考えてみてよ、私の前世はニートのオタクだよ?
対人能力皆無だよ?
強がっちゃいるけど怖いです・・・まじで。
まぁ表情には出ないけどね、良いのか悪いのか・・・・。
両親に私の不安を悟られないのは良い事なのだろうけど。
だがおかげで前々から考えてた魔法に関する情報を集める余裕がない。
教会とやらで得られればいいのだが・・・・・はてさて。
side ルシフ
私は聖天教会の神父でモルガナという町の教会に属しています。
歳は58歳、教会に属してかれこれ50年になります。
私はオラクル所持者です、オラクルとは神の与えた奇跡で選ばれた小数しか持ちません。
国の要職や高位の神官など特別な役職につくことがほとんどです。
50年以上教会に属しながら一介の神父の私のほうが稀有なことでしょう。
実際、枢機卿就任要請も受けたことがあります、辞退しましたが。
私が神父でいるのは民と近い場所にいる為です。
私のオラクルは人を癒すもの、身体の傷も心の傷も。
でも私が高位職につけば民との距離が離れてしまいます、私の懸念はそこでした。
なぜ神は私に癒しのオラクルを授けたのか、若かりし頃から考え続けていました。
ずいぶん長い間悩み続けました、オラクルを与えられたことに意味はあるはずだと。
オラクルを与えられるということは大変な意味を持ちます。
特別な力に目がいって余り広くは知られていませんが、オラクルを持つものは総じて
高い身体能力と生命力を得ます。もっとも弱いものでも常人の二倍近い力、特に生命力は
寿命に直結します。
オラクルを持つもので最長で400年生きた記録が残っています。
それほどのものは稀有ですが平均でも130年は生きるのです。
しかも個人差はあれど一定の年齢に達すると歳をとらなくなるのです。
これはおそらく、その者のもっともいい状態で時を留めているのでしょう。
実際、私は50を過ぎてから老いを感じていません。
つまりこの歳が私が最も力を振るうのに相応しいのでしょう。
これほどまでに優遇されるオラクル所持者がなんの意味もない存在であるとは
私にはどうしても思えなかったのです。
だからこそ私は悩み続けました。
そんな時でした、この国アウラスタが戦火に巻き込まれたのは。
ひどい戦いでした。
アウラスタは周辺諸国に比べて小国に位置します。
オラクル所持者が多く生まれる国として知られてはいても国としては小さいのです。
そんなこの国を狙って、東の軍事大国ガハラバードが攻めてきたのです。
ガハラバードはオラクル所持者を軍事利用する国家です。
進んで協力するのならまだいいでしょう。
ですが彼らはオラクル所持者に枷を嵌めて奴隷のように使役するのです。
産まれて間もないオラクル所持者を引き取り子供の内から教育を施し、さらに魔導錠と呼ばれる
首輪を嵌められます。
魔導錠はキーワードによって発動する首枷で命令違反を行ったものは即座に発動され処刑されます。
オラクル所持者を道具のように扱う彼らを我々教会は許せませんでした。
本来であれば国家間の対立に干渉しないのが我々聖天教会です。
ですが今回は違いました、オラクル所持者の解放と人権の回復、その目的のために私たちも参戦
したのです。
戦争は泥沼と化しました。
少数ながら一騎当千でならすアウラスタ騎士団はガハラバードのオラクル所持者を物ともせず
戦場を駆け抜けました。
それに対しガハラバードも圧倒的物量で対応、我々教会が治療を行い物量に質で対抗したのです。
当時、ガハラバード上層部は戦争は早期終結するものと考えていたようです。
しかし、中立でならす教会が今回の戦争に参戦を決めたことから
彼らの予定に大幅な狂いが生じたのです。
結果、戦闘は拮抗し泥沼の様相呈していきました。
ですがこちらは小国、あちらは大国、どちらに有利か明白でした。
あちらの体力が尽きる前にこちらの体力が付きかけていました。
ですがそのときです。
これまで静観を決め込んでいた南のロンバル聖王国がガハラバードに対して宣戦を布告。
瞬く間にガハラバード本国を蹂躙しガハラバードはあえなく滅亡したのです。
まったく見事なまでに漁夫の利を持っていかれました。
オラクル所持者は解放され教会の保護の下回復に努めていきました。
私は戦争で傷ついたもの達の治療に奔走したのです。
特に酷かったのが一人の近衛騎士でした。
恵まれた体躯と才能で勇を馳せた英雄が死に瀕していました。
絶望的な状況下の戦地においても、彼は見事に隊を指揮し戦を有利に進めました。
彼に救われた命は10や20ではないでしょう。
多くの者が彼を英雄と讃えました。
ですが彼は凶刃に倒れました。
彼が倒れたのは戦地ではありません。
国王を狙ったガハラバードの敗残兵の刃から王を守ったのです。
刃には毒が塗られていました。
彼は長い間戦い続けた結果、体力的にも限界だったのでしょう。
毒に抗う体力がなかったため彼は生死の境を彷徨いました。
王は即座に彼を安全な後方に移し医師団に治療をさせ、神官団に治癒術の要請を行いました。
治療に当たったのは私でした。
長き戦闘の中で治療にあっていた他の神官では、満足な治療が施せないと判断した私は
体力的にも余裕があった事から自ら治療に名乗りを上げました。
そう・・・・まるでそうする事が当然だと言わんばかりに私は名乗り出たのです。
そうする事にこそ意味があると言わんばかりに。
治療には時間がかかりました。
毒の除去はすぐ済みましたが彼の体力の低下は深刻なレベルに達していたのです。
おまけに受けた傷も深かった。
治療には細心の注意が必要でした。
彼を心配するものは大勢いました。
王を始とし、彼の同僚や部下、果ては傭兵や使用人まで彼の様子を伺いにきたのです。
多くのものに愛される彼を死なせるわけにはいかない。
私はそう思いました。
特に彼の身を案じていたのがまだ若い美しい女性でした。
聞けば彼女は元々冒険者で今回の戦争に彼を追いかけて傭兵として参加していたそうです。
なんとも情熱的なことだと思いました。
彼女の献身的な看護と私の治療で彼は徐々に回復していきました。
大した生命力です、オラクル所持者も顔負けの生命力ですね。
ですが残念なことに彼の騎士生命は絶たれてしまいました。
受けた凶刃が彼の利き腕の靭帯を切断してしまったのです。
治療を始めたときには手遅れで何とか治療できても二度と剣は握れないでしょう。
彼はその結果を驚くほど冷静に受け止めていました。
「命を拾っただけでもめっけものだ・・・それ以上は望みすぎだろう・・・」
それにと彼は傍らに立つ女性に眼を向け
「剣は振れずとも女の一人くらいは幸せにできるさ」
そう言ってニヤッと笑って見せたのだ。
そのとき私は確信したのです、私の力は民のために振るうものだと。
私は決めました、私は民の近くにあろうと、彼らの営みの傍らにあって
時折手助けをする、私の力の意味をようやく理解した気がした。
魔術とは違う私の力、魔術は基本破壊にしか用いられない。
癒しを与えられた私の意味は民の笑顔を守ること。
ほんの少しでもいい、この笑顔を守る足しになるのなら、私の生に意味はあるのだと。
笑う彼に、同じようにニヤッと返し、驚いた彼と彼女と一緒になって笑ったのだ。
アレから4年。
彼らは結婚し彼の故郷である田舎の農村ハイネンに帰っていきました。
王は彼に騎士団に残るよう懇願し、爵位と騎士団顧問の地位を与えるといったが
彼はそれをあっさり辞退。
「妻ひとり、あと子供の数人くらいなら故郷でも食っていけますから
高望みは身を滅ぼす・・・役立たずは消えるに限る・・・ですよ陛下」
そう言って彼はまた笑った。
陛下は脱力し、それならば偶に俺の愚痴を聞いてくれそれで許そう。
そういって王は彼らを送り出したのだ。
今も二人はやり取りがあるようだ、即位したばかりの王を支え続けた
田舎出の近衛騎士、二人の友誼がどのように結ばれたかは知らないが
これからも彼らの友誼は続くのだろう。
なんとも奇妙な交友関係たが、これはこれで有りなのかもしれない。
そんな私がモルガナの教会に赴任したのは2年前です。
モルガナとハイネンは眼と鼻の先、と行っても馬車で半日はかかるのですが。
そんな私の元に彼から連絡があったのはつい先日の事でした。
私の子供を預かってほしい、そう手紙には書かれていた。
先任の司祭さまから聞いてはいました。
彼らの子供がオラクル所持者だと。
教会はオラクル所持者を保護している。
その力の使い方を教え、道を誤らないように。
教会員として生きる者もいるが、教会は強制はしない、オラクル所持者はなにかしらの
理由を持って生まれてくる、そう私達は信じているから。
だからこそ彼らを縛らない。
自らの道を選び取れるようになるまで保護するだけだ。
だがだからといって全てのオラクル所持者を保護している訳ではないのです。
我々教会とて人の子の組織で、限度はある。
ゆえに我々が保護するのは稀有な力の持ち主や強い力を与えられたものに限るのです。
力の弱いものは暴走の危険も少ないゆえ、力の使い方は各地の教会で施しています。
教会は基本どの町や村にもあるのですから。
規模こそ違えど力の扱いを施すことはできるのです。
だから彼らが子供を預かってほしいと伝えてきたのが驚きでした。
手紙にはその理由が詳細に書かれていたが、やはり自分の目で見るのが一番だと思い
迎えの準備を始めました。
護衛がいたほうが良いだろうか?
道中の道のりは短いとはいえ魔物は出るのですから。
神官戦士を数人連れて行きましょう。
そうして私は農村ハイネン向けて旅立ったのです。
side アウラ
2日たった。
迎えが来ない、なにこれ、焦らし戦法?
くっ、なかなかに姑息な!
こちらの不安を掻き立て限界に達したところで現れ
さも救いに来ましたといって私を懐柔する気ねっ!
そうはいくものか!絆されてなるものか!
必要な知識と技術を習得したらとっとと出で行ってやるんだから!
と意気込んでみたものの、やっぱり不安な訳で。
いやもうマジで早く来てよ・・・・・・。
そわそわ窓の外を覗く私に気付いているのか、最近両親の目が妙に優し気である。
居心地わるっ・・・・。
side テオドール
別れが近づいている。
モルガナは眼と鼻の先だ。
会おうと思えばいつでも会える。
だがやはり別れは辛いし寂しいものだ。
あの夜以来、私たちは共に寝る日々を送っている。
アウラに少しでも私たちの温もりを覚えていてほしいと。
残酷だろうか、これから離れる我子に対して、温もりを与える事が。
でもだからこそ、覚えていてほしい。
私たちがお前をどれほど愛しているのかを。
アウラはここの所毎日窓の外を気にしている。
迎えが来ると教えたあの日からだ。
あの子はあの子なりに私たちとの別れを憂いているのだろう。
感情を表現することが出来ずとも私はあの子の気持ちがわかる。
親としてこれほどうれしいことはない、アウラ、私たちの愛とし子よ
たとえ離れようと私たちはお前を愛しているよ。
side ルシフ
もうすぐハイネンに着く。
予定よりずいぶん遅れてしまった。
本当なら昨日のうちには着いていたのに。
途中魔物の襲撃を受けて馬車が故障し直すのにずいぶん時間がかかってしまった。
テオドール殿には悪いことをした、予定の日時に着かず心配させてしまっただろうか。
あぁ見えた、あれがハイネンですか。
長閑ないい所ですね・・・・。
さて子供の名はアウラといいましたか、どのような子でしょうか?
会うのが非常に楽しみです。
side アウラ
とうとう来た、あの馬車がそうだろう。
神官戦士風の護衛がいるし、まったく焦らし戦法とはやってくれる。
しかしその目論見は失敗に終わったのだ。
見ていろ!ここからが私の反撃の時だ!
取って置きの笑顔(表情に出ないが)とお愛想振りまく挨拶(感情は表に出ないが)で
私の虜にしてやろう!
さぁ来るがいい!!
ギィと扉が開き神官服に身を包んだ壮年の男が入ってきた。
歳の頃は50台くらいだろうか?
背はさほど高くない、父と並ぶと頭ひとつ分は小さいだろう。
人の良さそうな笑顔を浮かべている。
彼がこれからお世話になるルシフ神父らしい。
にこやかに父と母に挨拶を交わし、最後に私と挨拶を交わそうとした。
この時を待っていた!
「こんにちは神父さま」
うむ言えた、笑顔も心の中ではして見せた。
神父はなにやら衝撃を受けたような顔をしている。
ふっ、また一人私の虜にしてしまったようだ
・・・・・・・・・・・なんちゃって