第21話 秋津無双
無謀だった、そう思った。
我慢が出来なかった、で済ますにはもう遅いだろう。
奴隷商人どもの前に飛び出した俺は、暴行を受けていた子供の襟首を銜えると一目散に出口を目指した。
しかし敵もそうそう甘くは無かった。
俺の乱入に一時呆然としていた奴らだが、すぐに我を取り戻し俺の退路を塞いだのだ。
子供一人分の重さのせいで、本来の機動性を生かせなかった俺は退路を断たれて倉庫の隅に追いやられた。
子供を背に庇い、奴隷商人どもを睨みつけ威嚇する。
なんとか時間を稼がなければならない、神官戦士達が来るまでの時間をなんとしても。
しかし、そんな俺の考えを嘲笑うかの様に一人の男が前に出た。
ローブ姿の男だ。
九人の中でただ一人、頭からすっぽりとフードを被ったローブ姿の男。
ご丁寧に杖まで持っている。
明らかに魔術師だろう。
いかにもな格好だ。
案の定、杖の先を俺に向けてブツブツ唱え始めた。
逃げるのは・・・・・・・・・無理だな。
俺一人ならなんとかなるだろう。
だが俺の後ろには子供いる、この子を見捨てて逃げる訳にはいかなかった。
杖の先に光が灯り勢いよく発射された。
標的は俺だ。
ドォォォン!
【ぐぎぃ!!】
爆音と衝撃が俺の身体を襲う。
激痛、光がぶつかった場所が焼けるように熱く激痛を訴える。
それだけでは終わらず二度三度と立て続けに爆音が響き、その度に身体に激痛が走った。
あ、これ死んだかも。
痛みに苛まれつつそんな軽い思考が脳裏をよぎる。
いやいやいやいや、駄目だろ自分!
飛びかけた意識を頭を振ってハッキリさせつつ、チラリと背後を見る。
そして縋る様な子供の瞳と目が合った。
そうだよな、見捨てられネェよな。
もうもうと巻き上がる砂埃のお陰か、視界が遮られたせいか魔術師の攻撃が途切れる。
ほっとして、同時にムカムカしてきた。
望んでこんな身体に転生(憑依?)した訳ではないのだ、人と同じように手足があれば
もっと普通に戦えたのに。
獣の身のなんと不便な事か、神様が本当に居るのなら
【チート能力くらい!よこせや!!神さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!】
半ば、どうにもならぬ現状に対しての憤りが口をついて出た。
その時……
ドクリ
と、身のうちで何かが鼓動した。
ドク、ドク、ドク
なんだこれは?
何かが血流のように身体を廻り、得体の知れない力が溢れてきた。
………これは、魔力か?
アウラと試した時とは感じが違うが、それは確かに魔力の高まりだった。
だが魔法を行使しようとした時とは違い、外側ではなく内側に向かっている。
………!、そうか、そういう事か!!。
今更ながらに気付いた。
人と獣は違う。
意志が人のそれだからこそ勘違いした。
人には人の、獣には獣の魔法の形がある。
それを意識した事でハッキリと感じた。
これが……
メキメキと自分の体の構造が変わる。
これこそが……
慣れ親しんだ形状に、より強くより強靭に変質する。
俺の……
ザワリと空気が震えた、俺の身のうちの魔力と大気中の魔力が共鳴して俺の意思を伝達する。
恐らく俺は笑っているのだろう、きっと酷く禍々しく。
「そうか、これが、“俺の魔法”か……」
万感の思いを込めて、俺は口に出して呟いた。
ゆっくりと周囲を見渡す。
俺を取り囲むように武装した九人の男たちが立つ。
そのほぼ中央にローブ姿の魔術師、その背後に商人風の小太りの男が立つ。
ほんの数秒前にはなかった、圧倒的な万能感。
恐らくアウラが感じる世界と同じ感覚。
まるで負ける気がしない。
「あ、あぁぁぁぁ!!」
場の空気に耐えかねたのか一人の男が長剣を振りかざしながら突っ込んできた。
振り下ろされる刃を片手で受け止め、掴んだ長剣を捻って奪い取りそのまま男に突き出す。
長剣を奪われた男は自分の獲物で胸を強打され、意外なほど勢い良く吹き飛んだ。
「「「!」」」
驚いた、あそこまで勢い良く飛ぶとは流石に思わなかった。
死んでないよな?
「うぅ」
という唸り声を上げているから生きてはいるようだ。
転がる男から視線をはずし他の男共に目をやる。
皆武器を構えているが完全に腰が引けている。
再びニヤリと笑ってやると、八人の男共一斉一歩引く。
「こ、こなくそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一人が剣を振上げて向かって来ると、他の五人も各々の武器を振り上げて突っ込んで来た。
俺はそれを見据え冷静に対処していく。
遅い。
そう感じるほどに感覚が強化されているのか。
男達の武器を受止め、弾き、かわす。
むろんその時に一撃入れるのも忘れない。
たった一撃で男達は昏倒し、瞬く間六人の男達は地に伏せた。
「ひぃぃぃぃ」
商人風の男が腰を抜かしたのか、無様に尻餅をつく。
ローブ姿の男は杖を突きつけながらじりじり後退している。
逃げる気か?
「逃がさねぇよ」
ドクンと魔力が鼓動を返す。
「!」
じりじり後退していたはずの男が、ずりずりと俺に向かって引き寄せられてくる。
「な、なんだっ!!これはっ!?」
「魔力てぇのはよう、大きいほうに引き寄せられる性質があるのよ」
どこかで聞き齧った知識だが、この世界でもそれは変わりないらしい。
「つまりだ、てめぇより魔力がでかい俺に、俺より魔力が小さいお前が引き寄せられてるって事だ」
ずりずりと引き寄せられるローブの男。
必死に踏ん張っているが引力に惹かれるように引き寄せられる。
「馬鹿な!そんな話聞いた事が、いや、たとえ事実でも他人の持つ魔力を引っ張るなど出来るわけがっ!!」
「さぁな、原理なんか知らねぇよ!重要なのはっ!てめぇをっ!俺がっ!ぶん殴るって事だけだっ!!!」
グンっと魔力を引き寄せる力を強める。
そうするとまるで魚が釣れるかのようにびよんと勢い良く引寄せられるローブの男。
「歯食い縛れよっ!ど三流っ!」
「ひぃっ、やめっ!!」
腕を振りかぶり拳を力強く握り締める。
「これが俺のっ!!自慢の拳だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の拳に向かって引き寄せられるように飛んでくるローブの男。
その男目掛けて渾身の一撃を叩き込むっ!!
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドゴォォォォォォォォン!!
「ぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
と凄まじい音と共に、まるで自ら拳に突っ込ん出来たようなローブの男は
絶叫と共に俺の拳によって地面に沈んだのだった。
もうもうと砂埃が舞う。
しかしその状況は、数分前とは一転していた。
呻きながら地に倒れ伏す七人の男達、大地に頭をめり込ませ泡を吹いて痙攣しているローブの男。
腰を抜かし尻餅を着きながら、意識を失っている商人風の男。
それらを見回した俺は、ぐっと腕を突き出して
「うしっ!完勝っ!!」
そう告げてぶっ倒れたのだった。
その後突入して来た神官戦士らによって、奴隷商人達は捕らえられ
独断先行した俺にはアウラよる説教が待っていたという話。
ちなみに孤児たちは無事保護されたそうだ。
いろいろとネタ多数。
自重しない秋津、すみません。
これくらいのネタはいいよね?・・・・・・・いいよね?