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無表情少女の歩む道  作者: 日向猫
第二章 強化期間
27/29

第20話 秋津の魔法

すみません、修正している時間がとれないので20話の訂正版は後日という事で、途中から原文のまま上げました。

途中で切れたままというのもなんだか切れが悪いので取り合えず上げときます。

訂正に関しては後日のんびりとしますのでよろしくお願いします。


秋津に魔法の使い方を教える。

と言っても特に難しい事ではないのですぐ終わる。

教えるべき事は魔力の扱い方。

あとはイメージ次第なのでなんとかなるだろうと考えた。


しかし・・・。



【…………使えねぇ】


「…………む」


使えない。

秋津の魔法は使えない。




魔法を教えるに当って自室では問題があるとして移動する事にした。

教会裏の林の小屋に移動。

別名秋津小屋。

普段、秋津はこの小屋で生活している。

いつも私の部屋に居るわけではない。

この小屋か教会入り口が所定の位置だ。

秋津を探すならこの二箇所を探せば大抵いる。

一年と少しでこの小屋も大分ボロくなった。

元々覚えたての創造魔法で適当に作ったものだし、そろそろリフォーム時かもしれない。

さすがに小屋内で魔法を使う訳にもいかないので、小屋の前の開けた所に魔法講座を行う。


ここなら教会側からは死角になっていて見えない上、それなりの広さがあるので大丈夫だろう。

さっそく秋津に魔法行使の方法を伝授した。


【え、それだけ?】


『それだけ』


【………………】


秋津絶句。

無理もない、私だって思ったし。

この世界の魔法は魔力とイメージ次第だ。

呪文を唱えなくても発動する。

どうもイメージが術式を構成するようで、その術式の維持と発動に魔力を必要とするらしい。

このことに気付いたのはつい先ほどだ。

私の目、[黄金瞳]は魔力を視認化するらしい。

少し目を凝らすと魔力が見えたので確かだろう。

この世界の魔法はどうかしてる。

ここまでの万能性を持ちながら発展していないのもおかしい。

ようはイメージと魔力次第でなんでも出来る。

私の創造魔法がいい例だ。

意気揚々と秋津が魔法を使う。


最初なので派手に雷でも落とすと意気込んでいる。

先ほどイメージ次第と言ったがこれがとても重要。

この世界の魔法は術者のイメージ次第で何でもできる。

つまり、術者の意思次第で物質的な干渉の有無を決められるのだ。

つまり非殺傷化も可能。

林の中に雷落としても周囲に被害を出すことなく、ただ光らせて終わりとか出来る訳だ。

ものすごく集中しなくてはならないから効率悪いけど。


秋津は精神を集中する為か目を閉じ魔力を喚起させる。

黄金瞳で観察。

初めは暴走を警戒したがその心配は杞憂に終わった。

とりあえず見るだけなら暴走の心配はないようだ。

と、秋津を観察観察。


秋津の魔力は赤と緑、そして紫っぽい色が混じっている。

これらの魔力が渦を巻き、秋津を取り囲んでいる。

喚起状態だ、秋津の額が発光しているのも魔力を視認化しているから見えるのか。

秋津の四肢にいくつかの光点が見え始める。

魔力を視認化してから、他人の魔力行使を始めてみるが私の魔力行使もこんな感じなのだろうか?

秋津を取り巻く魔力がサークル状に広がり術式を形作る。


【サンダァァァァァァァァ!スゥトォォォォォォム!】


気合入れすぎ、後それ林で使う魔法じゃないだろ常識的に!

凄まじい轟音を予想して慌てて両耳を手で塞ぐ。


パリッと秋津の前方に小さな電光。


【…………】


『…………』


【…………使えねぇ】


冒頭に戻る。


魔力行使に問題はなかった。

ならなにか別の要因が原因か?

これは検証が必要だろう。





検証も兼ねて秋津に数回に渡って魔法を使ってもらった。

最初はノリノリで魔力行使を行なっていた秋津だが回数をこなすたびにテンションが下がっていった。


【トルネィーーーーーードゥ!!】


でそよ風を起こし


【エクスプロォーーーーーージョン!!】


で小指サイズの火種を起こし


【タイダルウェーーーーィブ!】


で地面を湿らし


【はいはいブラスト】


で破裂音を出して終了。

実際に発動していたら洒落にならないものばかりだが成果なしに終了。

秋津は不貞腐れて寝そべってしまった。


これまでの魔力行使に特に不備は見られない。

魔法自体規模は小さくとも発動はしている。

秋津に限って想像力イメージが足りないとは思えない。

ならば他に理由があるはずだ。

魔術が碌に発展していない弊害がこんなところで出るとは思わなかった。

少なくとも魔術が発展していれば私が頭を悩ませずとも解決策の一つくらい出せたはずなのだから。

さて困った、まさか最初の一歩から躓く事になるとは思わなかった。

この問題を解決せねば後々の計画に影響が出てしまう。

この際、秋津の魔法をスッパリ諦めるか、時間がかかっても原因を解明して魔法を獲得させるか。

時間はあるし焦る必要はないか………。

少なくとも私には魔力を視認出来る利点がある。

ネーナさん辺りに魔力行使を見せてもらって違いを検証する事にしよう。

そう思い立って秋津を見ると………。


「?」


あれ?

いつの間にやら秋津の姿が見当たらない。

辺りを見回しても姿が見えない。

念のため小屋の中も確認するが姿なし。

不貞腐れて散歩にでも行ったのかも知れない。

まぁいいか、すぐに必要になるわけではないし、その前にネーナさんに話をつけよう。

もしかしたら私が知らない事があるかもしれないし。

そう決めると私は教会に向かって歩き出した。












side 秋津


凹んだ。

思いっきり凹んだ。

期待はしてなかった、なんて言ったら嘘になる。

アウラが魔法を使うのを見て俺も使いたいと思ったのは事実だ。

魔法。

ファンタジーにつきものな超常の力。

ゲームや漫画にあって現実にはないファンタジーの代名詞。

しかし、この世界には当たり前のように魔法がある。

正確には魔術と言うそうだがこの際どうでもいい。

碌に発展していないのは惜しいと思うが、あるものはあるのだ。

そして俺の相棒、アウラはその魔法を行使する存在だった。

なにもないところに瞬く間に小屋を作り出したのを見て

【これなんて錬金術!?】

などと言ったことすらある。

例の錬金術と違って等価交換ではないし、何かを代償にしている訳ではないらしい。

しいて言えるなら魔力が代償だとアウラ談。


その日から魔法行使は俺の密かな望みとなった。

魔法使いてー、そんな願いが叶ったのか本日とうとう魔法を教えてもらえた。

思ったより単純で簡単そうだったが、いざやってみると上手くいかない。

何度も試したがどれもパッとしなかった。

結局不貞腐れて寝そべってしまった俺を余所に、アウラは何やら考え事に入ってしまった。

ああなったら長いのは短い付き合いでも解るので暫し散歩に出ることにした。

魔法に関してはアウラに任せよう。

素人の俺が口を出しても意味はないだろうからな。

そう思って気分転換の散歩に街に出たのだ。





「あら」


そうして現在この娘の前にいる。

ウーナ・バークス、アウラの友人ラスタの妹。

とるに足らない五歳の小娘。

そのはずなのに、俺の獣としての本能が警戒を告げている。


「貴方、アキツだったかしら?今日は飼い主と一緒じゃないのね?」


俺を前に警戒心すら抱いていないのかこの娘?

まるで怖がる素振りを見せずに俺に近づき頭を撫でるウーナ。


【アウラは相棒だ、飼い主ではない!】


まぁ通じるわけはないが一応突っ込む。

これは俺の意地というもの。


「あらそうなの?でもどこからどう見ても貴方飼い犬よ?」


【なんだとっ!】


嫌待て、なんだって?

今こいつ何と言った?


あらそうなの?でもどこからどう見ても貴方飼い犬よ?

そう言ったか?

全身の毛が逆立つのを感じた。

一瞬で距離を取り、ウーナに警戒を向ける。

身構えた俺をまるで居に返さずにウーナは歩み寄る。


「そう警戒しないでよ、貴方達だって自分たちだけだとは思っては居なかったんでしょう?」


つまりそういう事か、お前もまた……。


【転生者?】


「そうよ」


愕然。

なんということだ、またもや転生者だと?

同じ街に三人も?

偶然か?それとも………。


「警戒してるとこ悪いのだけどね、私は貴方やアウラさんみたいに戦う力なんか無いわよ」


【なんだと?】


「私にはオラクルや身体能力も魔力もないの」


【つまり全くの一般人だと?】


「そうよ」


いやそうか、そもそも俺の転生者に対する基準はアウラだ。

アウラ以外の転生者とは会ったことが無い訳だからしかたないが、アウラが一般的とは言えないか。

全ての転生者がアウラのようならばこの世界はもっと混乱しててもおかしくない。

必ずしも何らかの力を持っている訳ではないという事か。


「納得してくれた?」


【完全にはしていないが、警戒レベルは下げよう】


「……ふぅ、まぁいいわ」


そう言って俺に近づくと


「ねぇ貴方、今暇?」


そう聞いてきた。


【………暇、といえば暇だが】


何なのだろうかこの小娘。

調子が狂う。


「よかった、ちょっと手伝って欲しいことがあるのよ」


【犯罪行為には手を貸さんぞ】


俺の言葉に少し眉根を寄せて


「違うわよバカ!逆よ逆!犯罪者を捕まえるのに協力して欲しいのよ」


【何故俺だ?警備隊がいるだろう?彼らに協力してもらえばいい】


「まぁ普通ならね、でもよく考えてよ

 五歳児がそんな事言っても信じてくれる訳ないでしょ?」


ふむ、もっともな意見。

とりあえず話しだけでも聞いてみるか……。







彼女の話を総合するとこのモルガナの町に奴隷商人が入り込んでいるらしい。

この国では奴隷の取引は違法だ。

だが需要がない訳ではない。

表が駄目なら裏で、というように未だにこの国でも奴隷の売買は行なわれているのだろう。

そんな連中に真っ先に狙われるのは孤児だ。

この国は未だ戦争の傷跡が残っている。

戦後孤児になった子供は国中にいるのである。

この町とて例外ではないのだ。

そのような孤児を捕まえて売買する為に奴隷商人が町に入り込んだらしいのだ。

しかも警備隊内に彼らと内通しているものが居るようで、彼らの出入りを黙認する代わりに多額の

賄賂を貰っているようなのだ。

これでは警備隊を頼る訳にはいくまい。

どうしようかと思案中にたまたま俺が現れたらしい。


「ということよ」


【なるほどねぇ】


「なによ、なんか不満そうね?」


【そういう訳じゃないが、なんでお前がそんな連中を探してるんだよ】


「たまたま、ね。たまたま目が合っちゃったのよ」


【うん?】


「今日、大通りを歩いてたら私の横を大型の馬車が通ったの。

 たまたま視線を馬車に向けたとき、馬車から覗いていた目が私と合ったのよ。

 まるで助けを求めるみたいな視線で、その後これが馬車から落ちたの」


そういって彼女は俺の前に薄汚れた布切れを出した。

汚れて黒ずんでいたが衣服の切れ端と思しきものだ。

必死の願いをこめて自らの衣服を破ったのか。

たまたま目が合っただけの相手に賭けたのだろうか。


【………ちっ、ちかたねぇな力を貸してやるよ】


「ほんとに!ありがとう!!」


そう言って俺の首に抱きついてきた。

まぁ、誰かの役に立つのなら悪い気はしない。

そんじゃ捜索開始といきますか。





手がかりは布切れ一枚。

早速布切れの匂いを頼りに大通りから捜索開始。

ウーナが馬車が去った方向を示しそちらから捜索開始だ。

流石に子供の足で馬車を追いかけることは出来なかったそうだが、大まかな方向が特定出来てた

だけでも儲けものだ。


後は匂いを頼りに追跡するだけだ。

布に付着していた匂いはかなり強烈だった。

おかげで追跡が楽だったが………。


俺たちがやって来たのは町のはずれにある倉庫区だった。

この辺は商家などの倉庫が点在している区域で人通りも少ない。

それこそ夜になればまったくと言っていいほど人気はなくなるのだ。

隠れるのならここほど都合がいい場所はない訳だ。

すると商家のうちのどれかが一枚噛んでいるわけだが、思ったより大事になりそうだ。


そうするうちに、奴隷商人達が潜伏していると思われる倉庫を発見した。

だが流石に突入する訳にもいかない。


【おいウーナ】


「なに?」


【お前教会にひとっ走りして神官戦士達に知らせてくれ】


「神官戦士に?」


【ああ、警備隊が駄目なら神官戦士に頼むくらいしか思いつかねぇ】


「解ったわ、貴方はどうするの?」


【俺は此処で奴らを見張ってる】


「わかった、じゃあ言ってくるわね」


そう言ってウーナは俺から離れ、小走りに走っていった。

後は時間との勝負だ。

連中に気付かれないように見張り、神官戦士達が到着次第突入する。

警備隊の内通者も一網打尽に出来ればいいのだが、そこまでは高望みしすぎか。


そうして待つうちに日が暮れ始めた。

暫く経つと近づく人影が見える。

だが神官戦士達ではないようだ。

ひとまず隠れてやり過ごすと、通りすぎた人影を観察する。

人影は複数、警備隊らしき武装の男が二人、粗末な皮製の鎧の男が一人何か袋を担いでいる。

そして男達は倉庫に入っていった。

運かいい、警備隊の内通者も一網打尽に出来る。

後は神官戦士達が到着するのを待つだけだ。

それだけなのだが、その時間が酷く長く感じられた・・・。









ブルブルと震える身体を押さえるのに必死だった。

恐怖からではない、怒りからだ。

倉庫に入っていった男達はその後中に居た連中と何やら会話を始めた。

俺は倉庫に出来た隙間から中を観察していた。

人数は九人、先の三人とは別に武装した男が四人に商人風の男が一人、そしてローブ姿の男が一人。

そのうちの一人が担いでいた袋を地面に下ろす。

すると出てきたのは案の定子供だった。

孤児だろう、薄汚れたみなりに体の所々に痣がある。

捕まった時暴行されたのかもしれない。

連中はなにやら話続けているが次第に口調が荒くなる。

その内地面に力なく横たわる孤児に蹴りを入れたのだ。

毛が逆立つのを感じた。

値段交渉で揉めたのか、口調を荒くした男は尚も孤児に暴行を加えている。

周囲の男達は、まるで助ける様子がない。

商人風の男すら呆れ顔で暴行を加える男を見ているだけだった。


もう限界だ、これ以上は待てない。

いつまでも現れない神官戦士達に俺の我慢は限界に達した。

戦う必要はない、子供を助けて逃走すればいい。

あのままでは子供が死んでしまう。

俺は意を決し倉庫に飛び込んだ。


















突如倉庫の扉が破られ黒い影が疾走する。

あわや警備隊に感ずかれたかと慌てる男達。

混乱する男達を縫うように疾走する黒い影は、孤児を暴行していた男を吹き飛ばした。

大型犬のようなサイズの黒い影にぶつかった男は耐えられずに吹っ飛び地面に転げ出した。

黒い影は孤児を咥えると扉に向かって走り出す。

だが混乱から回復した男達は黒い影を逃がさぬように逃げ道を塞ぎ、退路を断たれた黒い影は孤児を守る

様に壁際に寄り孤児の前に立ち塞がる。

それを見ていたローブの男はおもむろに口の中でブツブツと呟くと手にした杖を黒い影に向けて

言葉を発する。

発せられたのは力の言葉。

瞬く間に形を現した力は黒い影目掛けて飛び出した。

爆音、黒い影は逃げられない、なぜなら孤児がいるからだ。

孤児を守るような位置づけがそれを物語っていた。

なぜあのような存在が街中いるのかは気にはなったが、今はあの黒い影を始末することを優先する。

再び力の言葉を発し紡ぎ出される魔術を黒い影に放つ。

爆音。

二度、三度と繰り返し放つ。

もう十分かと思ったその時。

世界を包む空気が凍った。


「っ」


なんだこれは。

男は知らない、こんな空気を。

周囲の空気を凍らせるほどの殺気を孕んだ魔力。

その発生源は目の前に。

モウモウと巻き起こる土煙の中に紅い輝きを見た。


血のように紅く輝く二つの光。

土煙の中からそれは現れた。



浅黒い肌を強靭な筋肉で覆った長身の男。

黒くたなびく長髪はまるで鬣のようでその髪の間から二対の角が見える。

不適に笑うその口に牙のような犬歯が見えた。

そしてその瞳は獣の様で紅く爛々と輝いていた。


その身から溢れるような魔力を発しながら男は静かに笑っていた。

獰猛な獣の様な笑みだった。






そしてその男の笑みを、ローブの男は生涯忘れることが出来なかった。






そして男は呟いた。


「そうか、これが、“俺の魔法”か……」












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