第19話 できることから始めよう
とりあえず自室に戻った私と秋津は
今後について話合っていた。
『まずは身の安全を守る術を得るのが急務』
【だな、俺もなんか考えないとマズイ】
秋津にしては神妙な雰囲気で耳を垂れている。
そんな私の考えに気付いたのか
【いや、まぁよ、俺としても足止めすら満足に出来なかったのは流石にマズイと思うわけ】
そう言ってニカッと笑う。
ふと独角鬼との戦闘を思い出す。
戦闘にすらなっていなかったがあれが私自身が経験した最初の戦闘だ。
初めて魔物を見たときのあれは、ただ見ていただけで戦闘とは呼べないだろう。
あのときの私はあらゆる感覚が鈍かった。
感じた恐怖や緊張すらどこか他人事でゲームを大画面越しプレイしていた感覚に近いものがあった。
だが今や私この世界に生きる一個の生命だ。
感覚は既に常人のものとなり、空気や風の流れを肌で感じている。
肌を刺す日の光に熱を感じ、傷を負えば痛いだろう。
実際、独角鬼との戦闘で受けた負傷が、わが身を苛んでいる。
この状態で戦闘の恐怖や緊張を感じれば満足に動くことも出来ないかもしれない。
だがともかくとして、この怪我が完治しなければ満足に行動できないので全てはそれからだ。
よって今のうちに今後の事を話合おうという事になったのだ。
『秋津は戦う事とか、魔物を見て恐怖を感じない?』
ふと思い、秋津に聞いてみた。
感覚の鈍い私でもアレであったのだ。
秋津はどうなのだろうか?
【あん?…………そういえば不思議と恐怖は感じなかったな】
少し思案したあとそう答えた秋津。
【あの時は戦うのに夢中で気にもしなかったが、もしかするとこの体のせいかもな】
『体?』
【おう、俺の身体は魔物の身体だ、だから戦闘時は恐怖よりも闘争本能が強くなった
のかもしれないな】
なるほど、たしかにそれはありそうだ。
まぁなんにせよ、今後どうするのかを話し合おう。
【俺は魔術を覚えたいな、アウラ流にいうと魔法か?】
『魔法を?何故?』
【俺はこんな形だが、長ずれば巨大な竜になるらしい】
『あぁ、そんなこと言ってたね』
幽鬼狼は成長すれば小さな家くらいの大きさにもなるそうだ。
たしかにそれなら戦闘技術云々より、まず別の方策を採るべきだろう。
今の状態で下手に技術をつけると、体が大きくなった際に支障が出るかもしれない。
なんといっても成長しきった幽鬼狼に正面から相対しようなどという
存在はまずいないからだ。
なら戦い方などは大きくなってから身に着けたほうがいいだろう。
【だから魔法だ、時間を無駄にしたくないからな。それに使えるなら使ってみたい】
嬉しそうに尻尾をふりふり。
そう言えば、秋津は私と同じ転生者だった。
あまりに今の姿に違和感がないから忘れていた。
前世の記憶があるなら、魔法とか使ってみたくなるだろう。
『わかった、魔法の使い方は私が教える』
【おう!頼むぜ!】
『その代わり知恵を貸して』
【ん?なんだよ知恵って】
『今のままでは魔法は戦闘に使えない、なにか手を考えないと』
【なるほどな、確かにあの様子じゃ戦闘に使えんわなぁ】
秋津は独角鬼との戦闘を思い出したのかそう呟いた。
私の魔法にはいくつかの弱点がある。
起動に時間がかかること、発動には明確なイメージが必要なこと。
そしてあの戦闘時にわかったことだが、はっきり言って戦闘に使えないこと。
これは致命的だった。
私の技量に問題があるのだろう、今のままではまるで使い物にならないのだ。
発動やイメージは時間さえあればなんとかなるだろう。
だが突発的な戦闘中悠長に時間などとっていられないのだ。
【なる、だから知恵を貸せというのだな?】
『うん』
はっきり言って私は馬鹿だ。
知識云々で頭の良し悪しが決まるとは私は思わない。
知識がなければ学べばいい、だがそれをいかに応用するか柔軟な思考が私にはない。
これは前世の弊害だろう。
前世の私は家の中だけが世界だった。
外に出たのは数えるほどだし、学校にも通っていない。
通信学習と母による指導だけだった。
私の狭い世界で、知識を得る術はPCとゲーム、漫画と言った情報媒体だけだった。
人と人との触れ合いで学ぶべきものを私は持たない。
この生でも半ば拒絶していたに等しい。
結果身に着くべき柔軟性に欠けるのだ。
だが秋津は違う。
私と同じようにゲームや漫画が好きだったとは聞いている。
と同時に、彼はすでに社会へと出て、働き人付き合いもこなしていたのだ。
私ない経験を持ち、物事を柔軟な思考で考えられる秋津を私は見習わなければならない。
私には圧倒的に経験値が足りない。
だが秋津の意見を取り入れれば実用に足るものが出来るかもしれないのだ。
だからまずはそこから始めよう。
『まずは魔法の改良を最優先で行なおう』
【だな、まず俺が魔法を覚えて、相談しつつ改良と】
『うん』
【そうだな、発動に一々時間がかかるなら簡易発動体でも作れないか?】
『簡易発動体?』
【そそ、漫画とかアニメでよくあるだろ?魔法を使うのを助けるアイテム】
『デバイスとか賢者の石とか?』
【賢者の石か、アレは増幅器だな。魔力が低くても大魔法を使うのには最適だろうが
今は別の問題な。デバイスってのが正解。まんま補助機だしな】
【まぁ、アニメみたいにまんまあの通りしろって言っても無理だろ?】
『うん』
残念ながら私の創造魔法は複雑な機械構成を作る事ができなかった。
複雑な機械を創造するには、創造する機械の詳細な知識が必要だ。
パーツ個別でなら可能だが、組み立てる知識がない。
まさに宝の持ち腐れである。
だが逆に考えてみよう、複雑な機械構成を創造できないなら
逆に単純な神秘器物はどうだろう?
一つの奇跡を内包した器物。
賢者の石とかどうだろう?
あれは見た目ただの紅い石だ。
魔力を増幅するブースターとしての役割を持つ紅い石。
あるのは魔力を増幅するという概念。
『………………』
【アウラ?】
試してなんぼ、失敗は成功の母。
【っておい、アウラお前なにをっ!?】
私の魔力が高まっているのが解るのか、なにやら焦る秋津。
『黙って』
そんなことは気にせず魔法行使。
創造魔法起動――――賢者の石創造開始。
想像すべきは紅い石、込める概念は魔力の増幅。
想像を創造する。
光が私を包み部屋を光で満たす。
【っ!】
秋津が息を呑むのが聞こえた。
光が収束し私の掌に集まる。
一瞬私の掌に閃光が瞬き、光が霧散した後には私の掌に小さな紅い石が出現していた。
石を摘みまじまじと観察、見た目は問題なし。
次に魔力を通してみる。
注いだ魔力は少量、と同時に強い魔力が石から発される。
…………成功した。
賢者の石完成?
あははは、どんだけチートですか創造魔法。
ある世界では伝説級の代物をちょちょいのちょいで作っちゃったよ。
どーしよこれ…………。
【アウラ…………お前それ】
秋津が呆然といった口調で語りかけてくる。
『どーしよ秋津?賢者の石出来ちゃったよ、まさかホントに成功するとは思わなかった』
【どーするって、どーすんだよ!】
焦る気持ちもわかる、もしこれを誰かに奪われて悪用されたら?
はっきり言うと世に天災級の害悪を放り出したに等しい。
『と、とりあえずなんとかしてみる』
賢者の石を持ち再び創造魔法を起動。
一度創造したものを無に帰す………………………失敗。
どうやら出来ないらしい。
焦る。
再び創造魔法を起動。
一度定めた概念に変更を付与。
魔力の増幅をそのままに使用者制限…………………成功。
これは私が作った為かうまくいった。
これで私か秋津しかこの石は反応しない。
正直ほっとした。
『ふぃー、な、なんとかなった。』
【はぁー、マジでびびったわっ!今度からは作るものはよく考えて選べ!】
『はい、ごめんなさい』
秋津に怒られた。
だが今ので面白い事を思いついた。
だが安易に試すのはまずいよね?
とりあえず秋津に魔法を覚えてもらおう。
製作はそれからだ。
なんだか私は今までで一番楽しいと感じているのかもしれない。
物を作る喜び?というのだろうか。
ワクワクがとまらないよ。
バックアップの復活に成功。
ただ読み返してみるとなんか変?
書き直しつつ上げていきますので暫しお待ちを。