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無表情少女の歩む道  作者: 日向猫
第一章 異世界再誕
23/29

第16話 目覚めよと呼ぶ声

遅くなりました。

しかも短いです、申し訳ない。

一章もあと二話程度で終わらせる予定です。

 


少し離れた場所からでも、その光景はしっかりと見て取れた。


「・・・・な」


半幅呆然とするもの。


「あれは一体?」


その光景が理解出来ず自問するもの。


「・・・・・」


口をあけ、ぽかんと放心するもの。


そして、


「あれは・・・、あれが・・・」


その光景を作り出したものを予測するもの。


その光景。

空を切り裂き地を焼き尽くす雷光の雨。


空が落ちるかのような轟音と共に、天が瞬き大地が震えた。


遠目に見た光景からでも、その異常さよく解る。

あのような光景は自然にはありえない。


彼らが向かう先、モルガナに程近い森に落ちた雷の雨。

それを行なったであろう少女を思いルシフは地を駆けた。






時は少し前に遡る。




その日私は治療院での仕事を終え、教会へと帰る途中だった。

しかし、そんな私を血相を変えて駆けて来た少年が呼び止めたです。


「神父様!しん ぷ、さっま!」


息を切らせ、足をガクガク震わせて走りよる少年に私は見覚えがあった。

たしか彼はラスタといいっましたか?

最近アウラ嬢をよく遊びに連れて行こうとしている少年だ。


「貴方はたしかラスタ少年ですね?どうしたのです血相を変えて?」


「しん、ぷ様・・・ハアハア、たす、けて・・アウラを」


息も絶え絶えに彼は言う。

アウラを助けてと。


「一体何があったのです?」


私はラスタ少年に向き直り、真っ直ぐ彼の目を見つめます。

同時にオラクルを発動し、彼の記憶を読み取りました。


「お、オーガが、独角鬼オーガが、出たんだ」


「!!」


彼の記憶と彼の言葉を聴いて私は戦慄しました。

独角鬼オーガは大変凶暴な上、残忍で人の血肉を好む最悪の魔物です。

一般の魔物は人の棲家を襲う事は滅多にありませんが独角鬼オーガは違います。

進んで村や町を襲い人を狩るのです。

彼らの手によって滅んだ村や町もあるほどです。

彼らは群れで行動します、一匹見たら三十匹いると思えと言われるほどです。


「まずいですね・・」


非常にマズイ状況です。

この町の戦力では彼らの討伐は困難だ。

国に救援を要請しても、助けが来るまでこの町が持つかどうか・・・。

瞬く間に頭の中で考えを纏める。



「神父さま!お願いしますっ!アウラを助けて!」


息を整えたラスタ少年が私に懇願します。


「まずは警備隊に連絡を、私は神官戦士をつれて詰め所に向かいます。

 ラスタ少年、君も一緒に来なさい。」


すぐに対策を講じなければ。

それにアウラ嬢のことも気にかかる。


『急がなければ・・・』


内心に焦りを感じながら私は駆け足で走り出したのです。

その後ろにラスタ少年を引き連れて、私は神官戦士の宿舎を目指しました。




数分後、私は数名の神官戦士を連れて詰め所を訪れていました。


独角鬼オーガがでたのはここ、町に程近い森の中だそうです」


警備隊の隊長が、地図を広げて場所を示す。


「逃げ帰った子供たちの話では数は一、他には見なかったそうです」


はぐれ・・・だろうか?

ならばなんとかなるかも知れない。


「警備隊から数名出してください、私は神官戦士と共に残された子供の救援に向かいます」


「正気ですか?」


警備隊の隊長が私の顔を怪訝そうに伺う。


「遭遇して既に三十分は経過しています、もう生きていませんよ」


彼は淡々と述べた。

確かに普通の子供ならそうだろう。

だが彼は知らない、取り残されたのが、否

自ら残り殿を勤めているのが並みの子供ではないことを。

幽鬼狼ファントムドラゴンを従えたオラクル所持者の少女なのだ。

彼女なら大丈夫だ・・・・、そう信じたい。


「私は彼女がまだ生きている可能性にかけます」


「・・・・・」


沈黙する隊長は、少し考える素振りをして口を開く。


「やはり賛同出来ません。森は奴の縄張りです、わざわざ奴の縄張りに出向く必要はないのでは?」


それも生きているか解らぬ子供のためになど、と彼は言う。

冷たく言い放つ彼を酷い奴だとは思わなかった。

彼は隊長だ、町を守る警備隊の責任者である。

だからこそ、彼は町を最優先に考えねばならない。

だが彼とて助かる命を見捨てるほど、冷たい男ではないはずだ。

だから・・・。


「彼女は幽鬼狼ファントムドラゴンに守られています

 おいそれと敗れるはずがありません」


「! 、あの時の少女ですか?」


そういえば彼はアウラ嬢と面識があったか?

たしかアキツを保護したときに・・・。


「・・・・・」


再び考える素振りをした彼は、すぐに立ち上がり言った。


「解りました。隊員の中で腕の立つのを何人か出しましょう」


「ありがとうこざいます」


彼の言葉に私は頭を下げて礼をする。

すぐ行動に移った彼を見送った私は、その足で神官戦士と共に準備に入る。

必要な道具を揃え、装備の確認をする。

モルガナの出入り口にて隊員と合流して、急いで出発したのです。




そして、私たちはその光景を目の当たりにした。





















side 秋津


なんなんだ、この状況は・・・。

アウラはあれからピクリとも動かない。

その黄金の瞳が、暗闇の中不気味に輝いている。


森の中央辺り一帯はぽっかりとサークル状になにもなくなっていた。

あるのは円く抉られたクレーターと、草木と空気の焼けた匂いだけが漂っている。


独角鬼オーガの痕跡は欠片も残っていなかった。

肉片ひとつ、血の一滴にいたるまで完全に蒸発してしまったのだろう。

今のアウラは異常だ。

俺の本能が逃げろと警鐘を響かせている。

だが、おそらく本能に従って逃げ出したであろう独角鬼オーガはあの様だ。

ここはじっとして様子を見るべきだろう。


幸いアウラは動かない。

視線も宙に固定され、なにも見えていないのかもしれない。

動いて注意を引く必要は無いだろう。


しかしこのままという訳にもいくまい。

如何したものかと思案していると、近づいてくる気配を感じた。


魔物か?いや、そんなはずはないか、獣の類は雷光に怯えて逃げ出したはずだ。

よほどの馬鹿でない限り、本能に従って逃げるだろう。


ならば考えられるのは救援か。

と当りをつける。


『まずいな、この状態のアウラが接近を許すと思えない』


そう考えた俺は、慎重にアウラから距離をとる。

気取られぬように、注意を引かぬようにと。



アウラの死角に入り、少しづつ後退する。

森の木の残る場所まで後退に成功した俺は、スネークよろしく木々に紛れて駆け出した。

無論、音を立てぬ様にだ。


こんな時、我が身が大変有難い。

もともと森を縄張りにする幽鬼狼ファントムドラゴンだ、無音で森を駆ける事が出来る。

もちろん人としての俺が出来るわけがないが、半ば無意識に行動していた。


駆け出した俺を暫くして数名の神官戦士と、一人の神父が出迎えた。


「うわっ!」


突然現れた俺に、松明を掲げて驚きの叫びを漏らす神官戦士、たしかバンとかいったか?

そんな事はどうでもいい。

俺は神父に近づき身体を密着させる。


『神父』


突然近づいた俺に少し驚いた神父は、すぐに冷静さを取り戻し俺に答えた。


『アキツ、アウラ嬢はどうしました?』


思考を読める神父となら意志の疎通が可能だろうとの判断は正しかったようだ。

すぐに神父の思考が伝わってきた。

もっとも俺がこの世界の言語を理解出来なければ意味のない事だったが。

アウラに感謝だ。


『向こうにいる』


『無事ですか?』


『無事だが無傷とは言えん』


独角鬼オーガはどうしました?』


『蒸発した・・・』


俺の言葉に顔を顰め、やはりと呟いて歩き出そうとする神父を押し止める。


『アキツ?』


俺の行動が理解出来ないのか、再び思考が交わされる。


『今アウラは異常だ、迂闊に近寄るな』


『どういう事です?』


俺は少し考え見せた方が早いと判断する。


『ついて来い』


そう言って俺はアウラも元に向かった。
















side ルシフ


松明を消すようにアキツに指示されつつ

音を立てないように私達はアキツに付いてアウラ嬢の元に向かった。

慎重に進み、アウラ嬢を確認できる距離まで来て木に隠れるアキツ。

神官戦士達や私もそれに習う。


「これは・・・」


森の惨状に、神官戦士も声が出る。

無理もない、さっきまではここは普通の森だったのでしょう。

今はなにもない円く抉り取られたような小さなクレーターが出来ているのだ。

声のひとつも漏れるでしょうね。


「黄金瞳が光って・・・」


遠目にもハッキリ見える。

闇の中でぼんやりと輝く黄金の光。


「まずいですね・・・」


アウラ嬢を観察していた私の口が開く。


『なにがまずい?』


アキツが聞いてきたのでアウラ嬢の状態について説明する事にしました。


「オラクルが発動しているにも関わらず意識がハッキリしていないようですね」


私はオラクルを発動しアウラ嬢の状態を遠距離から確認、額に薄っすら汗を掻きながら、

此方の呼びかけにも反応がありませんねという言葉を漏らす。

それを聞いて神官戦士の一人が口を開く。


「ルシフ神父・・・まさかとは思いますが、あの状態は・・・・」



「ええ、暴走です」


「「「!」」」


複数の息を呑む気配を感じながら、アキツが私にに尋ねてきました。


『暴走とはどういう事だ?』


『今彼女は力に目覚めた反動で意識を失っているものと推測されます』


『それは解るが、何故暴走につ繋がる?』


『恐らく強い感情が切欠で力が目覚めたのでしょうが、

 感情によって引き出された力が余りに大きすぎたため、

 制御が追いつかずに精神を守るために無意識に意識を失ったのでしょう』


下手をすれば精神が破壊され、二度と人としての営みを送る事等出来なくなります。

だからこそ我ら教会は、オラクルの制御法を教えるのです。


『ですが今回は運がいいですね』


『どういうことだ?』


アキツが私を見上げてくる。


『今回の暴走は、意識を失ったことで制御を失った感情と力だけが暴走したものです。』


『うん?』


よくわからないと思考が返る。


『つまり意識さえ戻れば暴走は止まるという事でしょう』


『だが、目覚めても制御が出来なければ意味はないのではないか?』


『それは問題ないでしょう、今力の状態は安定しているようです。

 強い感情の原因がなくなった事で安定したのだと思いますよ』


独角鬼オーガか・・・』


なにやら複雑な感情が流れてきましたが、私には理解できませんでした。

しかし、独角鬼オーガには感謝しなければいけませんか。


怒りか、恐怖よる生存本能か、どちらかは解りませんが、独角鬼という存在が彼女の意識を変えてくれた。

死に向かっていた彼女の思考は生の方に傾いているのを感じる。

今までわからなかった原因が、私の知らぬ所で取り除かれた。

それがなんだったかは今も解りませんが、今はアウラ嬢を目覚めさせるのが先決ですね。


「少々無理をします、すみませんが私の身体をお願いします」


私がそう言うと、神官戦士達は顔を見合わせ問いかける。


「ルシフ神父、一体なにを?」


「少し寝坊助のお嬢さんを起こしてきます」


そういって私はオラクルの力を強めた。


『アウラを頼む』


意識が身体から離れる瞬間、アキツからの言葉を聞いた。














アウラ嬢の意識を取り戻すには、アウラ嬢の意識に直接干渉したほうが手っ取り早い。

あまり時間がかけられない以上のんびりしている暇はないのだ。

皆には言わなかったが、暴走状態が長く続けば身体に影響が出る。

大きすぎる力に、人の肉体は小さすぎるのだ。

碌に制御もされず、荒れ狂う力を支えるには人の肉体は脆すぎるのです。

だからこそ時間をかける訳にはいかなかった。


アウラ嬢の意識を呼び覚まそうと、自身の意識の手を伸ばす私。

しかしそれを阻むかのように無数の障壁が私を遮る。

心を守る壁とでもいえばいいのか、それらを潜り抜けながら私は必死に手を伸ばした。


ようやく生に向かいだした意識をここで絶つ訳にはいかない。

少しだけでいい、少しだけでも接触できれば

彼女を呼び起こす事が可能なはずだ。


私は必死に手を伸ばしそして・・・・。












「起きなさいアウラ嬢、もう起きる時間ですよ」


その手は届いた。







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