表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無表情少女の歩む道  作者: 日向猫
第一章 異世界再誕
18/29

第12話 治療院にて

2011.3.15 一部加筆しました。


あれからルシフ神父は、迅速に行動を開始した。




まず噂を流す、噂が広がった状態で私と秋津、両名を引き連れて警備隊に出頭した。


神父は、秋津に私の指示に従うよういい含めた。


むろん、秋津は神父の言葉を理解できないので、私が通訳した訳だが。


秋津は理由を察し、見事に私の指示通り行動した。


空中三回転はやりすぎだと思うが・・・・。


そんな事を何度か繰り返し、私の指示に忠実に従う事を確認した警備隊員は


秋津に対しての飼育許可を出した。


むろん教会側の安全処置、拘束用の術式を刻んだ聖印を首にかけている事での許可だ。


しかし、当然ながらこの聖印には術式など刻んでいない。


いわば警備隊への方便である。


完全な使役状態に加え、聖印という安全対策。


この二つのおかげで、許可はあっさり取れた。


もちろん、万が一があった場合は、責任は教会持ちとなる。


安堵と共に帰路についた私たちだったが、本当の試練はここからだ。


シスターカリーナに飼育許可を取る。


言うは安し、やるは難し。


私の説得は失敗に終わった。


まあ、禄に喋れもしない私が、説得などできようはずも無い。


とっとと神父にバトンタッチした。


そして神父は、あっさり許可を得るのだった。


こうして、秋津は教会に引き取られる事となった。



むろん飼育係は私だ。


拾った手前、私が面倒を見ることになったのである。




それから・・・・・。



















 秋津と私が出会ってから、早一年がたった。


私は七歳になり、アキツは少し大きくなった。


もともと子犬サイズだったのに、今では成犬ぐらいの大きさがある。


動物とは成長が早いものだと、つくづく思う。


でもこのままだと、秋津すぐ死ぬんじゃね?


とも思ったので、ルシフ神父に聞いてみた。


すると


幽鬼狼ファントムドラゴンは大体、200年は生きると聞きます。


 身体も小さな家くらいは大きくなるものもいるとか」


とのこと。


てか、でかくなりすぎだろう・・・・。


さすがにそうなったら面倒見きれない。


でもその頃には一人で生きられるだろうから、放置の方向で。


それまで私が生きてるか解んないしね?


秋津の扱いは概ね、そんな感じ。


秋津自身


【ふーん、そう】


と気の無い様子。


彼自身が自分の事に無頓着なので、別にいいかと考えた。


まあ、今の彼に余裕がないのも頷ける。


彼は今、この世界のことを必死に学んでいる最中なのだ。


無論、彼の言葉が理解でき、彼が言葉を理解できるのは私だけなので


彼にものを教えるのも私の仕事だ。


彼にはまず、読み書きを覚えて貰わねば。


五本の指は伊達ではなかろう。


そんな感じで過ごして、一年が経過した。


















最近身体が重い。


なんというか、反応が鈍くなった気がする。


まるで水中にいるような、ふわふわした心許ない感覚。


ここ最近、私は不調に苛まれていた。





そんな時だ。


「治療、院?」


「ええ、治療院です」


ルシフ神父が私に治療院に誘って来たのは。




治療院は、教会の隣にある建物だ。


所謂、この世界での病院である。


一般庶民に広く利用される施設、それが治療院だ。


怪我の治療から、病の治療まで何でもこなす。


オラクルと言う力のあるこの世界で、治療院とは前世の病院以上の意味をもつ。


三十年ほど前に発生した疫病が原因で、多大な死者を出したこの国は


各村町に対して治療院の開設を実施、教会の協力を取り付けて


これを開設したのである。


それからと言うもの、治療院は人々の暮らしの中で無くてはならないものとなった。


治療院に行けば、どんな傷も病も治療して貰える。


しかも、かかる費用はごく僅かだ。


治療院が、民衆の間に浸透するのにさほど時間はかからなかった。



そんな治療院に私が行く?


「なぜ?」


間を空け、ルシフ神父が口を開く。


「アウラ嬢、正直に答えて下さい。


 ここ最近、身体に不調を感じていませんか?」


「!」


気づかれていたという思いと、当然かという思いが交差する。


彼は人の心を読むのだ。


いくら隠しても隠しきれるものではない。


「ん、不調、少し」


なので正直に答えた。


「やはり・・・、ですか」


そう言って、私の事を心配そうな顔で見るルシフ神父。


流石に、そんな顔で見られるのは気分が悪いし、申し訳ないので


私は神父と共に、治療院に行くこととなった。










付いて来ようとする秋津に、「お留守番」を言い渡す。


流石に病院に動物はまずかろう。


秋津に見送られながら、教会の敷地を出て隣を目指す。


するとそこには、


《モルガナ教会付属治療院》


という看板を掲げた白い建物があった。


ここの職員は、教会員と、周辺住民の協力者で構成されている。


教会員が医者で、協力者が看護師のようなものだろう。


促されるまま、私は治療院に足を踏み入れた。








「ふーむ、よくわからないなぁ」


私を診察していた女性の治療士は、そう言ってルシフ神父を見る。


なにか気まずげに苦笑している神父。


なんなんだろうか?


治療士は教会所属の教会員のようだが、これまで教会でみた覚えがない。


きになってルシフ神父に聞くと


「彼女は変わり者でしてね、治療院に住み込んでいるのです」


そう教えてくれた。


「聞こえてるぞ~、誰が変わり者だ!私はただ急患に備えているだけだ。


 治療院に寝泊りするのは、理に適っているだろう」


とは彼女の弁だ。




「身体の何処にも悪い所はなし、いたって健康体だね」


まぁそうだろう、オラクル所持者なのだから。


使えずとも、オラクルの恩恵を私は受けている。


健康維持もそのひとつだ。


だからこそ、この虚脱感のような身体の異常はおかしいのだか・・・・。



「念のため治療術をかけておこう。身体の害になるものじゃないから安心しな」


そういって私を診察台の上に寝かせ、術を行使する。


治療後、ルシフ神父は


「少し彼女と話がありますので、しばらく待っていて下さい」


そういって診察室に入っていった。


待っていろ、そう言われた私は、仕方なく待合室の椅子に腰掛けて待つ事にした。




























side ルシフ


「で、どうでした?」


「どうって言ってもねぇ」


私の言葉に彼女、治療術師のノーラ・アウラック表情を歪めて頭を掻いた。


「あのお嬢さんにも言ったがね、なんの問題も無し」


「・・・・・・やはり、ですか」


私の呟きに、彼女の目が細くなる。


「その様子だとなんか心当たりありそうね」


「・・・・・あるにはあります・・・・ですが」


私を睨みつけていた彼女は、私の言葉に「はぁ」とため息をつき、目を逸らした。


「あんたがどういうつもりかは知らないけどね、子供不安を煽る真似だけはするんじゃないよ?」


「どういう意味です?」


「今あんたのしてる事は、悪戯にあの子の不安を煽るって言ってんの!」


「何故です?私はあの子のためを思って・・・」


私は反論を返しますが、彼女はピシャリと遮った。


「違うね、あんたはただ自分を納得させたかったんだ」


「・・・・・・・な」


「あの子は病気じゃない、なのに明らかに不調だ! 


 身体にはなんら問題ないのにだっ! なら答えは簡単、問題なのは心のほうだ・・・」


私は言葉が出なかった。


私の内心を読まれている。


これまで読む側だった私が、読まれる側に立っていた。


「あんたは既に気づいているね、あの子の不調の原因に。


 でもあんたにも手の施しようが無かった。だからここに連れて来た。


 自分が駄目だったから、他の者でも無理なのだと納得したかったんだ!」


「ちが」


反論しようとする私の、心の何処かで、彼女の言葉を肯定する私がいました。


彼女の言葉は正しい、私は逃げようとしていたのです。


無自覚の内に・・・。


私に彼女アウラは救えない。


その現実から逃げ出したかった。


手は尽くした、なのに手掛かりすらないのです。


あるのは死亡の記録だけ。


「そんな自分勝手の行動に、子供を巻き込むんじゃないよっ!!」


ならば、ならば一体・・・・、


「私は・・・どうすれば、いいのですか?」


自分の声とは思えない、あまりにも悲痛な声が出た。




 











side アウラ


「なぁ」


声をかけられた。


声の方に顔を向けると、七歳位の男の子が立っていた。


「なぁ、お前アウラってんだろう?」


なにこのガキ?


「なに?」


そう思って声を返す。


「やっぱそうか!話に聞いてた通りの容姿だなっ!」


なにがそんなに嬉しいのか、彼は笑って言葉を返す。


「おれラスタっ! ラスタ・バークス! 七歳だ!」


「アウラ、七歳」


「同い歳かー!」


嬉しそうに返して、彼は私の隣に座る。


彼、ラスタ・バークスは、黒髪黒眼と日本人を髣髴とさせる容姿をしていた。


だから、という訳ではないが


私は「暇つぶし」くらいのつもりで、彼の話に付き合うことにした。


「アウラは何しに来たんだ?」


彼が聞くので


「健康、診断?」


と答えた。


ふーんと言った。


「おれは妹のお見舞いっ!」


そういって彼は妹の事を語りだした。


彼の妹、ウーナ・バークスは今年で五歳になるのだが


先日熱病にかかり、この治療院に運ばれたという。


治療に数日要したが回復し、現在は病室にて経過を見ている所らしい。


「だからおれ、毎日見舞いに来てるんだ!」


どうやら、妹思いのいい兄貴らしい。


突然彼は、私の顔をまじまじと覗き込み


「お前って変な奴だなぁー、表情全然変わんないし」


と言ったのだ!


変とは失礼な、好きで表情が変わらないのでは断じてない!


そう思いつつ彼の顔を見つめる。


「わ、悪かったよ!だからそんな目で睨むなよっ!」


ただ見つめていただけなのだが、彼は睨まれたと認識したらしい。


謝ったので無礼は許そう、私は心が広いのだ。


「なぁ、幽鬼狼ファントムドラゴン捕まえたのってお前なんだろう?」


なぜ知っている?


そこまで情報は流していないはずだ。


「なぜ?」


「町のみんなが話してた」


そういって、目をキラキラさせて


「なぁなぁ!幽鬼狼ファントムドラゴンってどんなだった?強かったか?」


彼の話によれば、世間一般では私と秋津は激闘を演じた事になっているらしい。


激闘の末に私が勝利し


幽鬼狼ファントムドラゴンは私の僕になったのだと言う。


僕というより紐だろう。


そんな突込みが聞こえた気がした。















その後、彼がしつこく秋津に会いたがるので


神父の許可を取り、会わせてやることにした。


彼もまた神父と同様、秋津の牙の洗礼を受けることになる・・・・。


「アーーーー!」






























この日、どうやら私に


初めての友人が出来たらしい・・・・。








アウラにとって秋津はあくまでペット扱いです。


初友人ゲットだが、あまり気のないアウラ嬢。


そして神父さんの苦悩と女医さんの叱責の回でした。



第一章も残すところ後数話。


まもなく第一章最大の見せ場に入ります。



上手く書けるか不安ですが、頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ