閑話 闇 蠢く
アウラが「魔法」を得た夜、ここより遥か離れた地で
ひとつの闇が動き始めようとしていた。
暗く広大な広間の中央に巨大な水晶球が鎮座していた。
離れた玉座にて、それを眺めるローブ姿の異形があった。
目深く被られたフードの下に、赤い禍々しい瞳だけがランランと輝いていた。
その時・・・・
立ち上がろうとした彼を未知の衝撃が襲う。
なにかが震えたような、身じろぎしたような、そんな衝撃だった。
「フハ、フハハハ、フハハハハハハ!」
いきなり笑い出した異形の影は、水晶球に向けて歩み出した。
巨大な水晶球を覗き込み、丹念に眺める。
暫しの間その作業に没頭した後、一息ついて広間の隅に目を向ける。
「だれぞある・・・」
しわがれた声でそういった異形。
するとそれに答えるように
「御前ニ・・」
と返す声。
すると先ほどまで誰もいなかったはずの場所に異形の影があった。
全身を黒光りする甲冑で固めた異形の騎士。
禍々しい仮面に隠された双眸もまた、赤く禍々しく輝いていた。
その異形は深々と頭を下げるとローブ姿の異形に対して膝を突く。
そんな異形に対してローブ姿の異形はいった。
「世界の胎動感じた・・・」
「!」
「時至れり」
「デハ・・・」
「我らの悲願成就の時」
「オォ・・」
ローブ姿の異形の言葉に、甲冑姿の異形は感嘆の声を洩らす。
「だが場所の特定が出来ぬ」
「ナント・・・!貴方様ノ力ヲ持ッテシテモ解カラヌト?」
「我が目とて万里を見通すわけではない、それになにかが阻害している」
水晶球を離れ、甲冑姿の異形の方に歩みだしながら
ローブ姿の異形は続ける。
「だが手掛かりが無い訳ではない・・・」
「ソレハ?」
「娘だ・・・」
「娘?」
ローブ姿の異形は、跪く甲冑姿の異形の前に立つ。
「そう、娘だ・・・銀の髪の美しい若い娘だ」
「銀髪ノ若イ娘・・・」
「お前は手勢を率いて娘を探せ、私はこのまま水晶球で捜索を続ける」
「ハッ!」
そう言うと、甲冑姿の異形は霞の様に姿を消した。
それを一瞥することなく、ローブ姿の異形は水晶球の前に戻る。
まるで愛しむように水晶球の表面をなでる。
フードに隠されたその顔は、これ以上ないほどの喜悦で歪んでいた。
禍々しいほどの三日月のような笑み。
「待っていろ・・・・、必ず、必ず見つけ出してやる」
そう呟いて再び笑い出した。
狂ったような笑い声だった・・・。
この日を境に、大陸中で銀髪の若い娘が失踪する事件が頻発するようになる。
そしてそれは、この大陸全土に多大な影響を及ぼすことになる
ひとつの事件の幕開けだったのだが、今はまだ誰も知らない。
それを人々が知るのは、まだずっと先の話。