第9話 これが私の「魔法」
とうとう魔術の習得を始めます。
私に魔術適正があるか不安でしたが、ネーナさんの話では
オラクル所持者は総じて魔術適正が高いそうです。
なので問題なく行使できるだろうとの事でした。
なのでさっそく教えて貰おうと思ったのですが
ここでひと悶着ありました。
私の歳で魔術を行使するのは早いと、シスターカリーナが待ったをかけたのです。
ルシフ神父も反対して結局魔術の実践練習は禁止となりました。
私がもう少し成長するまでの間、基礎を中心した学習から始めることになったのです。
よくよく考えたら私まだ字も読めず書けません。
実践形式での習得が禁じられた以上、学習から学ぶしかないわけです。
そうすると、結果学習には読み書きが必須ということになるのです。
物に書き出したほうが後々復習に使う事が出来ますし、物事を整理して考えるなら
読み書きができたほうがいいでしょう。
よってまずは基礎学習から始めることとしました。
既に言質はとったので、魔術習得は後々の楽しみに取っておくこととします。
・・・・・・・ちっ!
私の生活は至って単調です。
朝起きて顔を洗い、食堂にて教会員の方々と一緒に朝食をとります。
午前中は基本的に基礎学習に当てられます。
それが昼まで続き、昼食後はシスターカリーナから一般常識と礼儀作法を仕込まれます。
礼儀作法といっても、どこぞの王宮に出いるするためのものではありません。
学ぶのは一般的な礼儀作法と女子に必要な基礎技術です。
これが以外にバカにできません。
なんと言っても私は元日本人です。
やはり染み付いた癖や作法はなかなか抜けませんし
この世界の一般的な礼儀作法は知らないのでありがたく習うことにしました。
また基礎技術も同様です。
前世では知識はあっても、実践したことはありませんでしたからね。
調理技術や裁縫を学ぶことになります。
それが夕食まで続き、夕食後はルシフ神父による世界講座とオラクル講座です。
世界史や経済などこの世界で生きていくのに必要な知識を与えてくれます。
またオラクルに関する基礎知識と制御の仕方などを学びます。
その後、お風呂に入り就寝という生活サイクルが出来上がっていきました。
シスターや神父が所用講義がお休みの場合は、自由行動となります。
一日のんびりしたり、神官戦士の方からサバイバル技術や旅の仕方など
話の合間にそれとなく聞き出したりして過ごします。
学習の間に知識を収集する、そうすれば早く独り立ちできますからね。
時間を無駄にする気はありません。
そうこうする内にあっという間に年は流れ、私は六歳になりました。
アレからもう三年も経ったのです。
基礎学習を終え、応用過程に進み、一般常識を習得し
礼儀作法と基礎技術を習得。
世界のあり方を学び、この世界の経済や物の価値
大陸の地理など必要な情報を学びました。
同様にオラクルに関する基礎知識を習得しました。
しかし、なんど試しても私のオラクルは発動しませんでした。
何故でしょう?何かしらの条件があるのでしょうか?
それと聞き出したサバイバル技術を密かに実践してみたり
収集した情報を手製の手帳に書き込んでいきました。
そうこうするうちに三年という時間はあっという間に流れていったのです。
シスターカリーナは口うるさい。
私のやる事なす事口を挟みます。
子供じゃないのだから(見た目は子供だが)そこまで構われたくありません。
すでにこの世界でも一人で行動できるようになりつつあります。
さすがに町の外には出たことがありませんが、町中なら大抵の所には一人で行けるでしょう。
もうそろそろ、魔術の実践練習を許可されてもいいはずです。
ネーナさんに聞いてみよう。
シスターカリーナは随分渋ったようですが
なんとか許可を勝ち取りました。(ネーナさんが)
やっとです。
ようやくこの日が来ました。
苦節三年、短いよう長かった。
ネーナさんは早速、魔術についての説明を始めたのです。
いわく、この世界の魔術とはイメージが全てであると。
は?
え、それだけ?
それだけなの?
なんとこの世界、魔術には系統というものが存在しないのだという。
よって魔術を学ぶものが教わるのは魔力の使い方とイメージの描き方。
明確なイメージを描きそれを実現できるだけの魔力があれば現象は完成し顕現するらしい。
逆にどんなに鮮明にイメージ出来ても、それを実現させる魔力がなければ
なにも起こらないというのだ。
呪文にいたってはただのイメージを補強する為のものでしかないのだとか。
この世界の魔法が発展しなかったのにも頷ける。
一度先入観に囚われた人々は、無意識に限界を設定しているのだ。
攻撃にしか使えない、戦闘行為以外は使えない。
そんな風に限界を設定しては、いくらイメージを具現できるとしても実現しないだろう。
自ら無意識に実現を否定しているのだから。
だが考えてみれば、この状況は私にとっては幸運だ。
うまくすれば私以上の魔術を行使するものはいなくなるだろう。
必要なのは明確なイメージを描く頭と、それを実現できる魔力があればいい。
ネーナさんに魔力の使い方を学ぶ。
イメージの方を学ぶ必要はあるまい、私の中には魔術・・・・いや「魔法」の
イメージが既に存在するのだから。
あとはそれを実現させるだけの魔力が私にあるかという事だけだ。
まず魔力の状態を把握。
自身の身体をひとつの器に見立てて水が満たされているイメージ。
ふいに脳裏に巨大な器に並々と満たされている水のイメージが浮かぶ。
これが所謂今現在の魔力の状態を意味するのだという。
魔力を持つものは無意識に自身の魔力の状態を認識するらしい。
そして今の器のイメージが私の魔力の総量を意味する。
水が魔力、使用することでこの水が減る感じ。
魔力行使はこの水を汲み上げる様に意識する。
後は魔術のイメージを描き魔力を行使すればいいのだ。
今日の講義が終了し自室に戻ってから
私は昼間聞いた魔術の行使を検討していた。
なにか無いだろうか?
この場で行使しても安全なものは?
他者にばれずに使えるもの・・・・。
創造魔法なんていいかもしれない・・・。
この世界に無いものを作り出す。
それをイメージして魔力を行使するよう意識する。
瞬間、世界が震えた気がした・・・・・。
私を中心に小さく魔方陣が広がり私の掌の上に光が収束していく。
光は形をなし質量を持つ。
物質の形成に成功する。
ここに創造はなった。
作り出したのは小さなボールペンだ。
とりあえず害の無い、この世界に無いものとして
かつて愛用していた種類のボールペンを作ってみた。
魔力でボールペンを形成したわけだが、ほとんど実物と大差ない。
今尚魔力を行使している気配はないので、一度形成に成功すれば
そのまま存在するようだ。
これは思わぬ収穫だった。
この力があればお金に困ることはなくなるのではないか?
この世界にない便利な道具を作って売ればいいのだから。
だが大っぴらにやるわけには行かないか・・・。
この力が大衆に知られれば、多くの欲深いものが私に群がる事になる。
事は慎重に決さなければならない。
無から有を作り出す、最早これは魔術の領域を逸脱している。
いうなれば魔法、これこそが私の「魔法」だ。
この日私は「魔法」を得た。
しかし、この魔法が
私の意思とは関わりの無い処で
この先の大陸の運命と私の人生とを大きく変えることとなるとは夢にも思っていなかった。