境界線の向こう側
初投稿&短編です!
最初に気づいたのは、音だった。
コン。
小さなノック。
午前二時十七分。
私は毎晩ぴったり同じ時間に目を覚ますようになった。
理由はひとつ。
寝る前にちゃんと閉めて鍵もかけたはずのドアが、
いつも一センチだけ開いているからだ。
暗い廊下が、細くのぞいている。
コン。
また鳴る。
「……誰?」
答えはない。
代わりに、ドアの隙間がほんの少し広がった。
私は布団をかぶる。
でも、耳は塞げない。
廊下から、かすれた声が聞こえた。
「まだ、そっち?」
心臓が止まりそうになる。
それは、私の声だった。
同じ高さ、同じしゃがれ具合。
「開けて」
私は叫びたいのに、声が出ない。
その瞬間、視界がぶつりと暗くなった。
目を開けると、教室だった。
昼休み。
友達が笑っている。
窓の外は明るい。
でも、黒板の上の時計は二時十七分で止まっている。
カチ、カチ、と秒針の音だけがやけに大きい。
友達がゆっくり私を見る。
一人。
また一人。
最後に全員。
同時に。
「昨日、開けなかったね」
空気が凍る。
瞬きした瞬間、私は自分の部屋に立っていた。
夜だ。
机の上に、見覚えのないノートがある。
開くとそこには私の書く字にそっくりな字が書いてあった。
『あと三回で入れ替われる』
意味がわからない。
ページをめくる。
『向こうはあたたかい』
『こっちは冷たい』
『あの子はまだ気づいてない』
「あの子って……」
「きみだよ」
背後から声。
振り向く。
そこに、私が立っていた。
でも目がない。
黒い空洞。
なのになぜか、笑っているのがわかる。
「もうすぐだから」
手を伸ばされる。
触れられる直前、視界が歪んだ。
朝。
アラームが鳴り響く。
ドアは閉まっている。
鍵もかかっている。
夢だと思っていた。
でも机の上にはノートがあり、やはり私の書く字にそっくりだった。
最後のページに今日の日付。
『今夜で最後』
その日の学校は普通だった。
時計も動く。
友達も自然。
でも、みんなの影がほんの少しだけ長い気がした。
光の向きと合っていない。
誰も気づいていない。
気づいているのは、私だけ
そして夜。
午前二時十七分。
やはりこの時間だ。
目が覚める前に、もうノックは鳴っていた。
コン。
コン。
コン。
「開けて」
私は起き上がる。
ドアは一センチ開いている。
その隙間から、冷たい空気が部屋に入ってくる。
「入れ替わるだけだよ」
私は気づいていた。
毎晩、少しずつ何かがずれている。
机の位置。
カーテンのたたみ方。
友達の話し方。
私の筆跡。
——どっちが本物?
もしかしたら私はもう、向こう側なのかもしれない。
ドアの向こうから、私が笑う。
「そっちはどう?」
意味がわからない。
でも、急に不安になる。
今いるこの部屋は本当に、私の部屋なのだろうか?
スマホを見る。
待ち受けは、知らない風景。
学校の集合写真。
私は写っていない。
代わりに——目のない“私”が、中央で笑っている。
コン。
ノックがやむ。
静かだ。
ドアの隙間が、ゆっくり閉じる。
私は立ち尽くす。
開けていない。
触れていない。
なのに。
朝になる。
学校へ行く。
みんな普通だ。
でも、誰も私の名前を呼ばない。
「……あれ?」
出席を取る声。
私の番号は飛ばされる。
「先生、私——」
先生は首をかしげる。
「転校生かな?」
教室がざわつく。
友達だったはずの子が、小声で言う。
「誰?」
黒板の上の時計。
二時十七分。
止まっている。
カチ、カチ、と音だけが鳴る。
そのとき、教室の後ろのドアが一センチ開いた。
暗い廊下。
そこに、私が立っている。
目のない私。
クラスのみんなが同時に振り向く。
今度は、私じゃない。
“あっち”を見る。
そして、笑う。
「やっと戻ったね」
誰が?
どっちが?
私は席に立っている。
でも、足元の床が透けている。
体が、少し軽い。
向こうの私が、ゆっくり席に座る。
先生が言う。
「出席、全員いるね」
黒板の時計が、二時十八分に進む。
カチッ。
音が止まる。
私は、声を出す。
誰も聞こえない。
教室のドアが閉まる。
完全に。
一センチの隙間もなく。
——その夜。
午前二時十七分。
誰かの部屋で、ノックが鳴る。
コン。
改善点とか教えて欲しいです!




