第三章:われたビー玉
第三章:われたビー玉
1
最初のナゾを解いたよろこびも、つかの間だった。二番目のナゾ、『月夜にわらうカオ』は、あまりにもむずかしすぎた。「カオってことは顔面のことか! よし、校長室にある校長先生の顔写真を調べようぜ!」と息巻くコウタを、みんなでなだめるような日が続いた。
ひみつ基地に集まっても、出てくるのはため息ばかり。あせりから、コウタがいらだちを爆発させた。ケンジのグループが、図書室で何かを調べて、自分たちより先に進んでいるというウワサを聞いて、イライラが頂点に達していたのだ。
「ショウのやり方が、まわりくどいんだよ! おれの言う通り、力ずくでぜんぶの教室をしらべりゃ、とっくに見つかってたんだ!」
「なんだと! おれの考えた『ズレた論理』がなきゃ、赤い下じきのナゾだって解けなかったじゃないか!」
自分の個性を、一番の仲間からまっこうから否定されたショウも、売り言葉に買い言葉で、コウタの功名心を非難してしまう。「どうせコウタは、ただ一番になりたいだけじゃないか!」
ミカが泣きそうになるのをこらえ、ユイがだまってうつむいているのが見えた。でも、二人の間に入って、止めることなんて、とてもできなかった。
「もういい! おれは、おまえとは一緒にやらない!」
「こっちから、ねがいさげだ!」
あれほど大切だったひみつ基地は、息の詰まるような重い沈黙にしはいされた。四人の友情は、まるで床に落としてこなごなにわれてしまったビー玉のように、もう二度と、もとにはもどらないようにショウには思えた。
2
次の日、ショウはひみつ基地へは行かなかった。きっと、だれも来ないだろうと思ったからだ。
学童でも、コウタとは目を合わせようとしなかった。ミカとユイも、どこか遠い存在に感じられた。ショウは、一人ポツンと本を読んでいたが、文字は少しも頭に入ってこなかった。
そんな時、ハルカ先生の声が聞こえた。だれに言うでもなく、つぶやいているようだった。
「先生も、小さいころ、よく友だちとケンカしたなあ。相手の気持ちを考えるのって、むずかしいもんね。でも、ケンカは、相手の気持ちを考える、いいチャンスでもあるんだよ」
まるで自分の心を見すかされたようで、ショウはドキリとした。
その夜、家のポストに、一通の手紙が入っていた。それは、ミカが書いた手紙だった。中には、ぐしゃぐしゃになみだでぬれた、一枚のメモが入っていた。『ショウくん、コウタくん、ごめんなさい。わたし、二人がケンカしてるの、すごくこわかったの』
ミカは、いつも自分の気持ちをノートにしか書けなかった。でも、勇気をふりしぼって、自分の本当の気持ちを、初めて仲間に伝えてくれたのだ。
次の日、ひみつ基地には、気まずい顔をした四人が、久しぶりにそろっていた。
最初に口を開いたのは、コウタだった。「……ごめん。おれ、一番になることばっかりで、ショウの変なアイデア、本当は面白いって思ってたのに、ちゃんと聞いてなかった。ショウがそう言った時、おれ、すごくくやしかったんだ」
ユイも、小さな声で言った。「わたしも、ごめん。ケンカがこわくて、何も言えなかった。本当は、コウタくんの気持ちも、ショウくんの気持ちも、少しだけわかってたのに」
さいごに、ショウが、三人に向かって深く頭を下げた。「おれこそ、ごめん! みんなの気持ち、ぜんぜん考えてなかった!」
四人は、おたがいの弱さを知り、それをゆるし合った。一度こなごなになった友情は、前よりももっと、キラキラとかがやいているようにショウには見えた。この仲間となら、どんなナゾだって解ける。ショウは、そう強く信じた。