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第二章:ふたつのライバル

第二幕


第二章:ふたつのライバル


 夏休みに入り、四人はさっそく「学校の時間を止める砂時計」さがしのぼうけんを開始した。学童が終わると、毎日のようにひみつ基地に集まり、作戦会議を開く。基地の壁には、あの『七不思議の地図』のコピーが大きく貼られ、そのまわりには、四人が集めた情報やナゾの言葉が、ふせんに書かれてたくさん貼られていた。いつのまにか、それは『作戦ボード』とよばれるようになっていた。


 「最初のターゲットは、これだ。『夜の理科室で、ホネがおどる』! ってことは、理科の先生の幽霊が出るにちがいない!」


 ショウが、作戦ボードをビシッと指さして言う。しかし、理科室は夜になるとカギがかけられてしまう。どうやって中に入るか、四人が頭をなやましていると、ひみつ基地の外から、聞きなれない声がした。


 「ふうん、君たちもその古文書のナゾを解いているのかい? そんな非科学的なやり方で、時間の無駄だよ」


 そこに立っていたのは、となりのクラスのケンジだった。いつもむずかしい本を読んでいて、テストの点数は学年で一番。そのケンジが、数人の仲間を引きつれ、ショウたちを見下すように立っていた。常に完璧を求めるお父さんに、今度こそ宝物を見つけて褒めてもらうのだと、その目は語っていた。


 「なんだと!」


 コウタが言い返そうとした時、今度は、その後ろから、もっと大きな声がひびいた。


 「ごちゃごちゃ言ってねえで、見つけたもん勝ちだろ! その宝は、このおれ様のもんだ!」


 ガキ大将のダイキだ。力がつよく、いつも子分を大ぜい連れている。ショウには、ダイキが宝物そのものよりも、「一番乗り」することにこだわっているのがわかった。力では何一つかなわない兄貴を見返すためだと、風のうわさで聞いたことがある。


 ケンジのグループと、ダイキのグループ。どうやら、二つのライバルもまた、宝の存在を突きとめていたらしい。四人だけのひみつのぼうけんは、このしゅんかんから、三つのグループが宝をうばい合う、はげしい競争へとすがたを変えたのだった。


 その日の夜、四人はハルカ先生に「どうしても、理科室にわすれ物をしちゃったんです!」と頭を下げ、なんとか夜の学校へもどる許可をもらった。もちろん、うそだ。先生には申しわけないけれど、宝さがしのためには、しかたがない。


 夜の学校は、しんと静まり返っていた。自分たちの足音だけが、暗いろう下にひびいている。ミカは、その静けさが、まるで物語に出てくる、魔法にかかって眠ってしまったお城の中にいるみたいだと感じているようだった。


 「いいか、みんな。保健の授業で習っただろ? 空気を吸うのが遅い人の方が、長生きするんだ。つまり、息をゆっくり吸えば、先生にも見つからないはずだ!」


 ショウが大真面目な顔で力説する。コウタは「マジかよ!」と素直に感心し、ユイは静かに首を横に振った。


 四人が理科室の前にたどり着き、そっとドアを開けようとした、その時だった。ろう下の向こうから、カツ、カツ、と、だれかの足音が聞こえてきた。


 「まずい、先生だ!」


 ショウたちは、あわてて一番近くにあったトイレに飛びこんだ。せまい個室の中に、四人でぎゅうぎゅうになってかくれていると、自分の心臓の音が、まるで太鼓のように大きく聞こえた。


 「だれか、いるのか?」


 先生の声が、すぐ近くで聞こえた。ショウは息を殺した。どうか、見つかりませんように。しばらくして、先生の足音は、ゆっくりと遠ざかっていった。


 ふたたび静まり返った理科室に、ショウたちは足音をしのばせて入った。月明かりに照らされた理科室は、昼間とはぜんぜんちがう顔をしていた。ショウの目には、ずらりと並んだ薬品棚が、これから発進する宇宙船のコックピットに見えた。ミカのほうを見ると、彼女には、青白い光をあびて静かに立つ人体模型のホネくんが、まるで悲しいお話を秘めた、呪われた王子様のように映っているようだった。


 「ホネくん、おどってないじゃん」コウタが、がっかりしたように言った。「なあ、ショウ! ホネくんの骨の数をどっちが早く数えられるか、勝負しようぜ!」


 「おもしろい!」とショウは乗り気になったが、ユイが「二人とも、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」と、静かに、でもするどく二人を止めた。


 その時、理科室のドアが、また少しだけ開いた。ダイキたちだ。


 「ちぇっ、だれもいねえじゃんか。つまんねえの」


 ダイキたちは、部屋の中を少しだけ見回すと、すぐにどこかへ行ってしまった。あぶなかった。


 調査は、完全に行きづまってしまった。ライバルに先を越されるかもしれない。そんなあせりが、ショウの心を重くする。


 これまでだまって棚を一つ一つ見ていたユイが、ふと足を止めた。彼女の目は、一つの場所にだけ、ホコリの積もり方が違うことを見逃さなかった。「……変なのは、ホネくんじゃない。こっちの本だと思う」


 ユイが指さしたのは、一さつだけ向きが逆さまに置かれていた、古い生物図鑑だった。その図鑑を手に取ると、ページの間に、一枚の奇妙な紙がはさまっていた。


 赤いインクで、ぐにゃぐにゃとした線が描かれているだけで、意味がわからない。


 「だめだ、これじゃ、なんのヒントにもならないよ……」ミカが、がっかりしたように言った。「この紙、なんだか泣いてるみたい。赤い涙を流したいのかも」


 「赤い、涙……?」


 ミカの詩のような言葉に、ショウははっとした。ユイも、ふで箱から一枚の「赤い下じき」を取り出した。


 「ミカちゃん、この下じきを、その紙に重ねてみて」


 言われたとおりに、ミカが赤い下じきをその紙に重ねた、そのしゅんかんだった。


 「あ!」


 ショウは、他の三人も同じように声をあげたのを聞いた。赤い下じきを重ねることで、赤いインクで描かれたぐにゃぐにゃの線が消え、その下にかくされていた、青い文字がうかび上がってきたのだ。


 『月夜にわらうカオ』


 それは、七不思議の地図に書かれていた、二番目のナゾの言葉だった。


 「やった……!」


 ショウは、仲間たちの顔を見回した。みんな、興奮とよろこびで顔をかがやかせていた。自分たちの力で、はじめてナゾのかけらを見つけ出したのだ。この赤い下じきが、きっと、次のぼうけんの、大きな武器になるにちがいない。


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