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第一章:ひみつとナゾのはじまり

第一幕


第一章:ひみつとナゾのはじまり


 「なあ、アリって、一億ひきいたら人間に勝てると思う?」


 夏休みを目前にひかえた放課後、完成したばかりのひみつ基地の中で、ショウがとつぜん、大真面目な顔で議論を始めた。


 「えー、でも人間がスリッパ持ってたら、アリはぜんめつだよ」ミカがこわごわと反論する。


 「でも、スリッパだってずっと使ってたら疲れるだろ? そのすきにアリが総攻撃するんだ!」コウタが身を乗り出して熱弁する。


 「……じゃあ、スリッパがしゃべれるようになったら、どうなるの?」


 ユイの静かな一言に、基地の中は一瞬、しんと静まり返った。太陽の光が一日でいちばん元気になる、そんな午後だった。青空小学校のうら庭には、大きなイチョウの木が一本だけ、どっしりと立っている。


 その木の根もと、だれにも見つからないように、ひっそりとダンボールや木の板でかこまれた小さな空間こそ、ショウたち四人だけが知っている、特別なひみつ基地だ。


 「よっしゃ、最後の仕上げだ!」と、基地の中からコウタが大きな声でさけんだ。その手には、お父さんの工具箱からこっそり持ち出してきた、ピカピカの金づちがにぎられている。だが、コウタが打ちつけたさいごの釘は、元気よくぐにゃりと曲がってしまった。


 「なんでだよ!」くやしそうにさけぶコウタを見て、ショウはキラキラした目で反論した。「ちがう! 釘はな、宇宙からのエネルギーを感じて、まっすぐに打ちこむんだ!」


 ショウのうしろから、ユイの小さな声が聞こえた。「……釘の頭じゃなくて、横を叩いてるから曲がるんだと思う」


 その横では、ミカが『ひみつのグループノート』と書かれた大学ノートに、真けんな顔で何かを書きつけているのが見えた。きっと、今日の出来事も、ミカの手によって特別な物語の一ページになるのだろう。


 なんだかんだで、四人だけのひみつ基地はついに完成した。屋根には古いビニールがさがかぶせてあり、雨がふってもへっちゃらだ。中には、みんながそれぞれ持ちよった宝物―――川原で拾ったきれいな石、お祭りで当てたスーパーボール、こわれた時計の部品なんか―――が、たいせつそうにならべられている。


 「すげえ! おれたちだけの城だ!」コウタが歓声をあげる。そのとなりでユイも静かにほほえんでいる。ショウは、ただのダンボールの箱が、この仲間と一緒だったからこそ、本当の「城」になったんだと感じていた。


 その時、だまって基地の中を見回していたユイが、床板の一枚を指さした。「ここ、なんだか少し変じゃない?」


 ユイが指さした床板は、一枚だけ、少しカタカタと浮いていた。


 「宝物は、どこにかくそうか?」基地が完成し、ショウはさっそく次のことを考えていた。ひみつ基地には、ひみつの宝物がなくてはならない。そう思ったショウは、ユイが指摘した「浮いた床板」の下が良いと思いついた。「ここなら、だれにも見つからないだろ!」


 四人で力を合わせて、指の先にトゲがささりそうな木の板を、ゆっくりとこじ開ける。すると、その下には、ほこりをかぶった小さなブリキの空き缶が、一つだけかくされていた。


 「……なんだ、これ?」


 ショウは、ゴクリとつばを飲み込んだ。コウタとユイ、ミカも、息をのんでこちらを見ている。こんなものがかくされているなんて、だれも知らなかった。ショウは、ドキドキする心臓の音をおさえながら、ゆっくりと缶のふたを開けた。中から出てきたのは、古びてうす茶色になった、一枚の紙きれだった。


 みんなの顔を見回す。だれかのいたずらかもしれない。でも、もしかしたら……。ショウが懐中電灯を取り出してその紙を照らすと、そこには、子どもが書いたような、少しだけゆがんだ文字と、奇妙な絵が描かれていた。


 『青空小学校 七不思議の地図』


 紙の一番上には、そう書かれていた。そして、その下には、「夜の理科室で、ホネがおどる」「音楽室のベートーベンが、夜中にわらう」といった、七つのふしぎな言葉がならんでいる。


 「七不思議……」ミカのつぶやきが、やけに大きく聞こえた。


 「でも、ただの七不思議じゃないぞ!」ショウは、メモに描かれた砂時計の絵を指さし、目をかがやかせてさけんだ。「この地図のさいごの暗号、『時のすなはおちるのをやめる』って書いてある! つまり、この砂時計は、『学校の時間を止める砂時計』なんだ! これがあれば、夏休みの宿題も、テストも、ぜんぶ時間を止めてやっつけられるんだ!」


 そのあまりにも真けんな「論理の飛躍」に、コウタが「すげえ! それ、マジかよ!」と大興奮している。ミカとユイの表情からも、不安よりワクワクする気持ちが大きくなっているのが伝わってきた。


 「タイムリミットは、夏休みが終わるまでだ。急がないと!」


 四人の、たった一度の夏休みは、このしゅんかん、「大ぼうけん」へとすがたを変えたのだった。


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