佐々木梓回想④ 魔族領鉱山基地
「・・・・・偶然だ。素人が64の連射の途中で指切りをしたら大抵弾が詰まる。つまり、ジャムるものだっと、自己紹介まだだったな。俺は魔王アキラ、日本時代は自衛官だ。一般から副連隊長まで昇進したよ」
「私は、佐々木梓、日本時代は高校生でした!」
今、目の前にいるのは、四本の角が生えた褐色の筋肉ダルマの魔王アキラ様と魔族の幹部、骸骨の人もいる。ファンタジーだな。
裏組織のヨドムさんも当然のようにいる。グルだったのかしら。そう言えば、魔族領に行くことを誘導されたような気がする。
「あのヨドムさん。サキアちゃんとおじさんとおばさんは・・・」
「大丈夫ですヨ、あの老夫婦とサキアは無事です。お礼を言いたかったそうですヨ」
「良かったわ。でも、密貿易ルートが潰れたのですね。私のせいです」
魔王様が説明してくれた。
「うんにゃ、精霊王国は魔石不足だ。女神信仰圏は遠い。だから、魔族領の魔石鉱山が欲しくて、なけなしの魔石をはたいて君たちを召喚したのだ。需要がある限り貿易は黙認されるよ」
「貿易を正式にすれば良いのに、私達はそんな理由で呼ばれたの?」
「そんな理由だ。それに魔族との貿易は教義上無理だ」
「それよりも、64式貸してくれないか?・・・」
「はい」
銃を貸すと魔王様は毛布の上で銃を分解していった。
「この銃床の後ろに器具が入っている。組み立て式のドライバーだ。覚えておきなさい」
「はい」
「うわ。整備していないな」
これは素直に恥ずかしいと思った。
魔王様は小布で銃の部品に油を塗って拭き取った。
「昔は目隠しをして銃の分解結合の訓練をしたものさ。こちらが対価を用意するから、武器と交易品を召喚してくれないか?お給金も払うよ。どうかな?」
「はい、私は魔王軍に投降を希望します」
「うん。君は初めての裏切り者だ。歓迎するよ」
嫌な言い方だが事実だ。つまりクラスメイトと戦うことだ。故意に考えていなかったのを思い出してくれたのかしら。
「まずは本を召喚してもらう」
「はい・・」
自衛隊の本の名前を言ってもらった。この人、いや、魔王は本の題名を暗記しているのかしら。
赤い本、緑の本。自衛隊の本だ。
「これは、機密ではないですか?何か部内限りとか書かれています」
「君は銃を召喚したではないか。何を今更」
本を読むと、銃の分解の仕方、整備の仕方が分かるようになっている。
射撃も教わった。
「伏せ撃ちからだ。いいか、そこらを歩いている人を捕まえて、銃の扱い方、照準の仕方を教えて撃たせても、200メートル先の的に当たるものだ。
しかし、2発目はそうはいかない。素人なら、一発撃てば大きく体が動き。また、体制を取り照準を取りズレるものだ。姿勢を取れ」
「はい!」
「ほお、本を読んだな。射線に対して体がズレている理由は?」
「はい、無反動砲というものを撃つからです。後方爆風を防ぐ目的ですと書かれていました」
「合格、さすが進学校だな。まずは五発撃ってみようか?」
200メートル先の的に5発全弾当たったが。
「全然ダメだな。ほら、弾痕の距離が離れすぎている。それに、一発一発の時間かかりすぎだ」
「はい」
「次は爆破の仕方を教えてあげよう」
「はい」
「次は無反動とミニミだ」
「はい!」
「今日は迫撃砲だ」
「車の運転をしてみようか?マニュアルだ。いきなりトラック、これはお高いな」
「はい!」
「いいか、ニュートラルに戻したら一回ふかす。この時、エンジンガスヨシと呼称!」
「エンジンガスヨシ!あのこれは何のために?」
「君、質問あるかと俺が尋ねてからだ。まあ良い。ギアチェンジがしやすくなるそうだ。復唱!」
「ギアチャンジをしやすくなるから!」
「次はガスマスク装着だ」
「ガスマスク装着!」
スウ、ハー!
「気密点検ヨシ!」
「射撃訓練!」
「射撃訓練!」
「撃て!」
バン!バン!バン!
「うん。まあ、合格だ」
「合格有難うございます」
私は訓練の合間に、交易品の召喚もした。
ヨドムさんが担当だ。
「今度は、装飾品を召喚して下さいネ、リクエストがありましたヨ」
「はい」
精霊王国の貨幣を対価に交易を始めた。
貨幣は消えて、日本で言えば1~3万円くらいのジュエリーを召喚する。
これを十倍以上の値で売る。
沢山貨幣が集まる。
これで銃や迫撃砲、無反動砲、車両、軽装甲を召喚する。
お高いな~。
「あれ、私の能力を使い続ければ、貨幣は消えて行きませんか?」
「よく、気がつきましたネ、インフレになりますネ」
「ヨドムさんは王国人でしょう?困る事になりませんか?」
「困りますネ・・だから、女神圏と交易も始めています。魔族領を西に突っ切りまス、すると・・・」
「関税を取られないから、遠くてもお安くなる?」
「当たりでス!獣人族を使うから雇用対策にもなります。一魔法二ドラゴンですネ」
違和感がある。
裏組織というよりも反体制派?
「もしかして、ヨドムさんはカス王家の対抗勢力では?」
「それは王都を攻略したら分かりますヨ・・・さすがですネ、驚きましヨ、さあ、仕事、仕事と」
話をはぐらかされた。
王都を攻略?あ、魔王様が入れ違いで来たわ。
「梓、よさげな化粧品召喚してくれない?個人的に欲しいな」
「魔王様、どなたか素敵な方がいるのですか?」
「さあ、どうだろうなー」
「ご年齢は?」
「さあ、20代後半だろうな」
「お姉さんですね。正直、リップしかつけていないので、化粧品は分かりません」
「適当で良いよ。この銀貨でお願い」
「分かりました・・・テレビCMを思い出して召喚します」
☆☆☆聖王国
この大陸の南西一帯は女神教が浸透している地域である。
小国、大国入り乱れ。それらの国々を統括しているのは聖王国である。
今、聖王国では激震が走っていた。
「聖女様!大変でございます。四本角から、贈り物でございます!」
それに対して、聖女ヤスコは驚かなかった。
「聖王国御中かしら?」
と軽口を叩いた。転移前はOLであった。
「それが聖女様宛でございます。正確な文言は『聖女ちゃんへ』です」
「ふざけた男ね」
「魔力反応無し、呪いもございません。如何しますか?」
「開けるわ」
・・・何これ、日本の化粧品の無料お試しセット?それも高齢女性向けじゃない。
魔王め。嫌みかしら・・
しかし、すぐに、察した。異世界に日本の化粧品・・つまり、転移者がいる。
「そう言えば、転移前に、東京の高校で神隠しにあったニュースがあったわね。一クラス20名くらいかしら。そして、その人物が魔族領にいるのね」
ヤスコはすぐに理解した。
「現代の武器を召喚したら厄介だわ。ますます勝てなくなるわ。法王様に報告よ」
「了解です。すぐに謁見の申し込みを」
「いえ、今すぐよ。第8次魔王討伐は中止よ」
「せ、聖女様!」
既に、今世の魔王アキラ討伐が7回失敗している状態であった。
「魔王は転生者よ。魔族の魔力と体力、それに人の知恵と団結力が備わって、更に現代武器が召喚されたら・・・」
「されたら?」
「絶対に勝てなくなるわね」
「そんな。聖女様・・お強いのに、クズ勇者を・・・」
殺したのに・・と側近は言葉を飲み込んだ。
「あの、聖女様、一応、魔王からの贈り物はこちらで回収したいのですが・・」
「・・・・・」
「聖女様!」
彼女はまだ24歳であった。会社員時代は監査部所属である。
最後までお読み頂き有難うございました。