佐々木梓回想③ 初めての戦闘
私は密貿易の商隊を紹介してもらった。
魔王軍に投降を決意したのだ。
旅立つ日、ガオスさんにお金を渡してミーシャちゃんの救出を依頼した。
お金を積めば買えるらしい。
「出来るけどよ・・・でも、何で、裏組織の旦那がいるときに頼まなかった?」
「え、ここの長はガオスさんでしょう?ガオスさんに依頼しなければ、面子を潰すと思って」
「アズサ、お前、大将向きだな」
「そんなことないよ。それよりも・・・武器が必要だわ」
私は銃を召喚することにした。
召喚はイメージしたものしかできない。
博物館にあった銃を思い出す。木と鉄で出来た銃、村田銃とか書いてあった。
イメージしながら自衛隊の銃と唱えた。
ボア~!
出てきた。木と鉄で出来た銃・・・それと弾丸だ。銀貨三十枚くらいで出てきた。
刻印は、64式7.62ミリ小銃と刻まれている。銃の右側面に、小さなレバーがある。
『ア』『タ』『レ』とカタカナが刻まれている。これは、あれかしら、験担ぎ?
『ア』は分かった。安全装置だ。ここにレバーを合せれば引き金は動かない。
『タ』『レ』は引き金が引ける。その違いが分からないわ。
弾も召喚した20発、小さな段ボール紙の箱に入っていた。金色に光る。、
弾は・・・銃を探ると、右側面に小さなボタンがあった。ここを押すと。
ポロッと箱が落ちた。後に教わったが、弾倉というものだ。
この金属の箱にいれるのね。
これは分かった。入るようにしか入らない。
正座をして箱を太ももで挟んで一発ずつ入れる。
弾を押し込める。バネで反発して、押し出すようにしているのね。
結構、強い。
さて、試射をするか。どこか広い場所を・・・と思ったが、ガオスさんが呼びに来た。
「おお~い、アズサ、商隊が来たぜ」
「はい、行くわ」
私は箱を元あった場所に押し込めた。カチャと音がした。
銃に厚い布のヒモがついていたので、調節して背負うことにした。
商隊と言っても馬車2台、老夫婦が先頭の馬車を運転し、もう一台は・・・褐色の肌の女の子が1人で御者台にいる・・・奴隷?一気に緊張した。
「話は聞いております。さあ、どうぞ」
「よろしくお願いします」
馬車に乗る。
人無き道をいくものかと思ったら、結構人のいる道だ。
「アハハハ、逆に人がいないのも心配なのですよ」
「それに、護衛はサキアがいますから安心して下さい。盗賊くらいなら撃退できます」
サキアちゃんは、魔族だ。私と同じくらいの年齢?とても可愛い子だ。小さな角が二つチョコンと生えている。
休憩している時に話しかけた。
「佐々木梓です。宜しくお願いします」
「サキアです。獣人族の精霊様ですね。お父ちゃん。何か召喚をお願いしていい?」
お父ちゃん?奴隷ではないの?
「一応、この子、奴隷扱いだけどね。でも、私達には子がなくて・・」
「ええ、戦災孤児でね。精霊国内では奴隷として扱わなくてはいけないのが辛いわ」
「そうなのですね」
お小遣いをもらっているらしい。大銅貨を対価に櫛を召喚したら喜ばれた。
「うわー、有難う。不思議な素材だね」
「おい、大変だ。騎士が来た。アズサ様、荷物に隠れて下さい。何があっても出てきてはいけませんよ」
「はい」
私は荷物に隠れた。会話が聞こえてくる。
「ライア王女殿下の召喚獣が逃げ出した。荷を調べる」
「旦那方、ご苦労様です。これを・・・」
「うむ。どうせ、中身は食料とかだろ」
「そうです」
賄賂ね。聞けば食料を対価に魔族と魔石の密貿易をしていると聞いた。
半ば公認らしい。
「おい、この女は魔族か?サキュバス族ならやれるな」
「さあ、分かりません。しかし、無作法者で旦那方の相手は出来ません。お許し下さい」
「少し貸せ、確かめる」
「お父ちゃん!」
「騎士様たち、サキアは純粋な魔王種ですわ」
「いいから、貸せ!」
「何だ。『お父ちゃん』だって?奴隷だったら、貸せるだろう」
どうする。あの子が慰み者になるわ。私は何があっても出てこないでと言われたわ。
そうね。このままやり過ごすのが良い。
サキアちゃんだって、殺されるわけではない。
と思っていたが、体が勝手に動いていた。こちらには銃がある。
「召喚獣だ!」
「はあ、はあ、殺します!」
私は銃床をお腹で押さえ、両手で銃を上から抑える持ち方をした。
今思えばかなり不格好だ。
騎士は10人ほどがいる。魔道師が2人か・・・
「おじさんたち、サキアちゃんを連れて逃げて!」
「おい、おい、召喚しか出来ないと聞いているぞ。その魔道杖を降ろしなさい。今下ろしたら、丁寧に相手してあげよう」
「隊長殿、奴は陛下の愛妾になるのではないですか?」
「陛下は困った方だ。どうせ、一発くらいいいだろう。既にやってましたでさ」
まるで、私を相手にしていない。騎士同士で会話を続けている。
おじさん達とサキアちゃんは射線に入っていないのを確認して。
私は、切替えレバーを『ア』から思いっきり引いて、『レ』の位置にして引き金を引いた。
「あれ・・・あれ」
「おい、何をやっている。この夫婦と奴隷一匹、拘束しろ」
弾が出ない。
どうして、どうして、出てよ。弾でてよ!
どこが悪いの!私のせいで三人捕まっちゃうよ!
私は試射をしなかったことを後悔した。そうだ。銃はそうなるように設計されているように思えた。観察だ。
銃の上に突起物がある。まるで、掴んで欲しいかのようだ。
ここをつかみ思いっきり引いた。銃の中身が見えた。
後に分かった。薬室というものだ。ここに弾は入っていなかった。
じゃあ、どうしたら、銃本体に弾を込められる?
突起物を放した。そしたら、元の位置に戻った。
ガチャ!ガチャ~ンと音がした。
もしかして、弾が銃本体に入った?
引き金を引いたら・・・
ダダダダダダダダダ!
弾が連発で出た。『レ』って連発の意味だったのね。
「「「ギャアアアアー—-!」」」
「うわ。何だ!」
「ファイヤー・・・ギャアアアーー」
初めて人を殺した。当たり前か。
しかし、何故か頭がさえている。まるで、夢と分かっている夢のようだ。
『タ』は単発か?
タにして、引き金を引くと、
バン!と弾が出た。
生き残った騎士を殺した・・・
「や、やめろ!」
「やめないわ」
老夫婦はブルブル震えている。
サキアちゃんは、心配そうに私を見つめている。
最後の一人を殺した。
「大丈夫?」とサキアちゃんは私を心配する。何故?
「えっ」
気がついたら涙が頬を伝わっていた。泣いていたのだ。
膝が震える。
これは正当防衛、殺さなければどうなっていたか分からない・・・でも、涙が出てきた。こんなレイプをするような奴らなのに・・・・
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
何に対して謝罪をしているのか分からない。
私は走り出した。
道を外れ、道無き道を歩き。馬車が向かっていた方向に行く。
すると、魔族らしい人達に出会った。
魔王軍だ。
「止まれ!」
「冒険者か?」
私は歩みを止め。銃を両手で地面に平行に掲げ抵抗する意思のないことを示した。
「私は佐々木梓です!魔王アキラに会いに来ました!投降します!」
ギラっと目が光った。
ここは中世レベルの社会だ。もしかして、魔王の意向が伝わっていない?
それとも、これはワナ?
隊長らしい二本角の男が皆を手で制した。
「投降するのなら、『様』をつけよ。魔王様の御名をみだりに言うな。お前達も知らない者に怒ってもしかたなかろう」
そっちで怒っていたのか?それはそうだ。
「分かりました。以後気をつけます」
「「「「分かりました」」」
初めての戦闘を魔王様に話したらマグレだと評価した。
☆☆☆魔族領魔石鉱山基地
「正式な言い方は『レ』は連射、フルオートだ。『タ』は単発な。
しかし、偶然だ。素人が64の連射の途中で指切りをしたら大抵弾が詰まる。つまり、ジャムるものだ」
これが、魔王・・・か。誰に言われたのでもなかったが一目で分かった。