佐々木梓回想① 王城脱出
「な~んだ。残念」
改めてライアの顔を見る。
金髪に赤紫の瞳、神秘的な顔だわ。
しかし、あの顔付は・・・
私は日本時代の過去の引き出しを開ける。
お爺ちゃんの会社だ。
中学生時代お手伝いをしていた。
ある日、お爺ちゃんの会社にお客様が飛び込みでやってきた。
☆☆☆佐々木商事
どうやらお客様は土地を売りたいそうだ。
私は黙ってお茶の用意をした。
「土地を売りたい。息子が病気で必要なのだ」
「ほお、駅前の一等地ですか・・」
「登記事項証明書を持って来ている。今日中に証拠金が欲しい」
「登記事項証明書を拝見しますよ。登記済書は?」
「いや、無くしました。後で司法書士の先生に保証書を作らせます。パスポートを見せます!」
「いや、結構、お帰り下さい」
私はお茶をお爺ちゃんに出しながら、断った理由を聞いたわ。
「はい、お茶です。お爺ちゃん。駅前の一等地でしょう?」
「ありがとう。お客様の分が無駄になったな。梓も飲みなさい。少し話そう」
お爺ちゃんは説明してくれた。
「梓、実はこの土地の所有者とは顔見知りだ。あの男は全く知らない」
「ええ、じゃあ、詐欺師?」
「そうだろうな。地面師だろうな。積水ハウスの事件を調べれば分かるよ」
積水ハウスの事件とは、ドラマ『地面師たち』のモデルにされたであろう事件で、
虚偽の所有者から東京の一等地の売却を持ちかけられて数十億円単位の金を騙し取られたものだ。ドラマのように少しもかっこよくない。
「でも、汗をかいて必死の表情でした・・・」
「残念ながら、息を吐くように嘘を言う輩は存在するのだ。あの顔付は覚えておきなさい」
私はそれから東京の高校に進学をした。
休み時間に教室が光り。この世界に誘拐をされた・・
☆☆☆王宮召喚の間
「皆様は勇者様でございます。私はライア、どうか、王国の民をお救い下さいませ」
・・・ライアの顔とあの詐欺師を重ねる。目が笑っている。あの詐欺師ほどは優秀ではないようだ。
しかし、クラスメイトは浮かれている。
「これ、転生か?俺たち異世界転生したんだ!」
「この場合、クラス転移なり。ラノベ初段の我に任せるべし」
「さすが山名だぜ!」
ライアがこの国の実力者ね。王は欠伸をしたげだが、目はクラスの女子を追っている。ヒィ、私を見た?
私は策も無くただこれはダメだと言うしか無かった。
「皆、これは誘拐だよ。力を合わせて戦おうよ!」
と説得をしたが。
「はあ、これから衣食住は王国に面倒見てもらうんだぜ」
「そうなり、悪手でござる」
「魔王軍に苦しめられている民を救うんだ!」
ヤバい。これは流されるしかないか?
どうする?脳内で私会議が招集された。
スキがない。もう、既に日本人は誘拐されているのだろう。慣れている。
しかし、機会はやってきた。私は召喚士、魔石を対価に召喚したらアスファルトが出てきたのだ。戦力外通知を受けたわ。私を含め4人が別室に呼ばれた。
「ここにいる皆様は残念ながら戦闘に耐えうるジョブではございません。しかし、呼んだのは私たち。とても良い職場を用意します。ドレスを着ての軽作業になります」
神官が説明する。この場にいるのは、踊り子のジョブの岬さん。農民の羽田さん。お針子の上原さんだ。全員女子だ。
おかしいわ。戦闘に耐えられないジョブの男子もいる。皆、容姿の良い子だ。特徴が同じだ。大人しげの子、自分で言うのもおこがましいが、私は美人の方・・・か?
私は手をあげて質問をした。
「あの、それは嫌です。他に選択肢は?」
「はい、7日分の扶持を与え城外に出てもらいます。もう一つは、勇者様たちの召使いとして暮らして頂きます。冒険者、新人が翌年生き残る確率は50パーセントをきりますね・・・」
私は即座に、城外を出る選択をした。勇者、クラスメイトの召使いはダミーだ。嫌がる選択肢で、城外に行かせないように誘導している。
「城の外に出ます。皆も行こう?」
「佐々木さん。ダメだよ。神官さんも言っていたじゃない」
「そうよ。ドレスを着られるのよ」
「これは・・・」
声が出ない。この場で誘拐だとは言えないわ。兵がいる。
折角のチャンスなのに。
「ササキ様、このペンダントを身につけて下さい。身分証になります。やっぱり無理と思ったら帰って来て下さい。このペンダントで保護されますよ」
「はい、有難うござます」
「後、これは扶持でございます」
小袋を渡された軽い。まあ、7日も持たないだろう。
とにかく自分の生殺与奪の権利を取り戻すことに成功したわ。
「着替えて頂きます。協力して頂く方々はドレス部屋に、ササキ様は廊下の突き当たりを右に行って最初の部屋にお入り下さい。平民の服に着替えてもらいます」
私は3人がドレスに浮かれる声を後にして、部屋に向かった。
後で聞いた話だが、私達の膝が見えるスカートの制服は、とても破廉恥のようだ。
この世界のセクシーポイントは足だと?
指示された部屋にノックをして入った。ここで家猫族のミーシャちゃんと初めて出会った。女の子の姿で猫耳と尻尾がついている。
「は、はい、勇者様ですね。お着替えをして頂きます!」
「まあ、可愛い。私はアズサ・ササキ、貴方は?」
「ミーシャでございます」
ビクンと震えている。メイドのスカートから伸びる尻尾は巻いている。緊張しているようだ。後に再会をしてからは、思いっきり甘やかしてすっかり表情が緩くなった。今は野良猫のようだ。
頭頂部には青毛の猫耳がついている。じゃあ。普通の耳は?と思ったらついている。その猫耳は何の為に?と見たら、猫耳から振動、いえ、テレバシーが伝わってきた。
『ニゲロ、ニゲロ、セイカイ』
おそらく盗聴されているだろう。ミーシャちゃんは私が着替えている間、絵を背にしている。盗視もされているのだろう。
だから、聞いてみた。
「私はこの世界は初めてです。行ってはいけない場所を教えて下さい」
「はい、獣人族の集落は行ってはいけません。城を出て左、そこに行ってはいけません。怖い獣人族がいます。もし、獣人族の集落に行ってしまった時のために加護をつけておきます!」
ミーシャちゃんは私を抱擁した。少し、青く光っている。
心地よい。
「有難う。決して、獣人族の集落には行きません。城を出て左ですね」
「はい、そうです」
『ヒダリ、イケ、ヒダリ、イケ!』
「どうか、ミーシャちゃんもお体に気をつけて下さいね」
「はい、有難うございます。あの、私からこの世界の教訓話をさせて頂きます。
猫デンデンです。家猫族に伝わる話で、家猫族は家族を襲われると助けようとして更に被害者が出ました。だから・・・逃げるときは自分だけ、デンデンで逃げろと言われています!デンデンは勝手にとかの意味です。その方が被害が少ないです!」
「ありがとう。肝に銘じるわ」
津波の時と同じ言い伝えだわ。・・・クラスメイトはもう助からないのね・・・・
私は深々と頭を下げて部屋を出て城を後にした。
最後までお読み頂き有難うございました。