プロローグ 亡国の調べ
カス王朝精霊王国の王都近辺に魔王軍が徘徊しているとの凶報がもたらされていた。
出撃をした騎士団の消息は不明であった。
この国の実力者ライア王女は護衛剣士をつれて自ら城壁を登ったが、異様な軍団を目にすることになる。
「な、何なの。あれはケンタ!」
「あれは、自衛隊です。日本の・・・騎士団です」
その時、伝令兵が上がって来た。
「ライア王女殿下、ご報告!ラスカ騎士団!ゲルダ騎士団、常勝騎士団・・・それに近衛騎士・・全滅でございます」
「う、嘘おっしゃい!魔王軍出現の報があってから10日も経過していないわ!」
カン!
伝令兵の兜に小さな穴が空き。血が噴き出した。
即倒れ起きてこなかった。
「ヒィ、何なのこれは!魔法のない世界の武器にこんな遠距離で届く物はないわ!」
気がつくと、ライアの近くを無数の光る高速の何かが飛んでいた。曳光弾である。
☆☆☆城壁から北500メートル
王都の平原に自衛隊の迷彩服を着た一団がいた。
しかし、部隊章は四本角の雄牛である。つまり、魔王軍人族部隊であることを示している。
兵はこの世界の色とりどりの髪と瞳の色であるが、一人だけ。黒髪、黒目の女子がいた。名は佐々木梓、この世界に来る前は高校生であった。
彼女は装甲車に体を預け。銃、64式7.62ミリ小銃を構えていた。
「外したわ・・・まだ、低い。照星三下げ!」
「照星三下げ了解!」
彼女は銃の安全装置を『ア』にし、姿勢はそのままだった。
せっかく採った照準をずらしたくないからだ。
彼女の命令に、後方に控えていた兵が胸ポケットから器具を出し。前に出る。
「1!2!3!三下げ完了!」
「下がって!」
彼女は心の中で唱える。
息を吐く。そして、止める。・・・引き金をゆっくり・・と引く!
バン!
「・・・当たったわ」
「め、命中!生死不明!」
・・・何か、『今までの恨みをはらす!』『宿敵め!』とか、会話はないものね。
何か味気ないわ。戦闘って、こんな感じよね。
私の仲間は、副官回復術士のエミリア。
「報告!アズサ戦闘団、総員、戦闘団長他119名、事故4名、現在員115名、事故の内訳班長ドン以下4名、戦車教導小隊!演練中!他健康状態異状無しですわ!」
「エミリア有難う。戦車の仕上がりはどうかしら」
「はい、今・・・来ましたわ!」
ブロロロロロ~~~~!
キャタピラの音?戦車?間に合ったのね。
「戦闘団長殿、戦車教導小隊が来ました」
戦車、74式戦車である。小隊の名ではあるが、一両のみだ。
ハッチが開き、兵が顔を出したわ。あれは班長のドン。
「解明しただ!撃てるだ!戦闘団長撃たせて下さいだ!」
「そう、私達は普通科しか知らないわ。ダメ元で撃つわ。城壁を崩す」
「本部班!ドローン偵察!敵情は?」
「不明!王都防衛隊のみと思われます」
「分かった」
そして、この場には、王都の裏組織のドン、ヨドムさんがいる。早速来たわね。
「エへへへ、アズサ様、城壁を崩すと言う事は・・・先を考えておりますね」
「ヨドムさん。明日の事を考える兵に明日はない。今、この瞬間背いっぱいなだけよ」
ヨドムさん。小太りの中年男性。わざとらしく片メガネをかけている。こいつは油断できないわね。
決戦は近い。友軍の魔王軍の指揮官、狼獣人のガオスさんを呼ぼう。
「魔王軍獣人族部隊、ガオスさん。前へ」
「ヘイ、アズサ様、ガオスっていいなさいよ。今はあんたがドンだぜ」
「ガオス、獣人族部隊長も・・て来ているわね。さすがね」
私は息を大きく吸う。装甲車や高機動車のエンジン音が意外と大きい。
「命令かぁた~つ!敵情、不明!我、一個戦闘団、友軍千、74式戦車の砲撃により城壁を崩す!その後、我が戦闘団は冒険者ギルドを占拠し指揮所にする。友軍は主要施設を占領する!質問!」
「魔道科兵班長サキア!魔法の出番はありますか?」
「ある。後で示す!」
「了解であります!」
サキアちゃん。魔族だ。彼女もすっかり戦う顔になったわね。
「戦闘工兵班長オルトより、開口部に70(ななまる)をぶっ放すことを意見具申します!」
「不同意!」
「そ、そんな。はい、分かりました」
70式地雷爆装置、そういえばワンセット召喚したわね。ロケット砲を飛ばし、空から集団装薬を降らし、地雷原や障害を取り除く。戦闘工兵は撃ちたくてたまらないのかしら。
北海道の大平原や関東平野を想定したもの。やや使い勝手は悪い。
・・・顔を見渡す。ダメだ。皆、連戦で疲れている。しかし、ぐっすり休んだら機を失う。
「ミャ~ン、アズサ様、夜猫部隊はぁ~」
「あ、ミーシャちゃんは夜の警戒だからね。寝てなきゃダメだよ」
すっかり顔がとろけている。家猫族は安心するとこうも顔が変わるのね。
「俺たちが夜休めるのは夜猫部隊のおかげだよ。って、この音では寝るの難しいか?」
「余裕ニャ!」
「ミーシャ殿は余裕か。さすがだな」
「「「プゥ、クククク」」
わずかに笑い声が漏れた。ミーシャちゃん。ナイス!
良し、常道を外れる。私は友軍に向けても話した。
「人族至上主義撲滅、友愛主義!なんて、お題目を考えなくても良いわ!家族を想え。戦えない相手だと思ったら引け!私達に任せろ!
略奪は禁止!でも、ボーナス・・・いえ、戦利品を分けることを宣言します!」
「「「「ウオオオオー!」」」
「大王様!」
【皆の者!これより砲撃を行う。雷のような大きな音が発する。耳栓のある者は耳栓を、ないものは、口を大きくあけ。耳を塞げ!戦車小隊、用意でき次第砲撃!】
「砲撃準備完了!撃つだ!」
ダーン!ダーン!
「ドローン偵察より。城壁が崩れました!敵兵、城壁の後方に兵が数百確認!剣と弓!魔道兵少数」
「分かったわ。ラッパ卒、それに魔道兵、拡声魔法で突撃ラッパを城壁まで届かせろ!」
「「了解!」」
【パパパパパパパラ~パパパパパパパ~!】
☆☆☆城壁
【パパパパパパパラ~パパパパパパパ~!】
「な、何だ。この音は!」
「不気味だ!」
「もう、嫌だー!王女が逃げ出したのだ。俺たちも逃げる!」
「おい、逃げ出すな!城壁の復旧を急げ!」
「やってられるか!」
「見ろ。空に魔王軍の秘密魔道兵器が飛んでいるぞ!あれが城壁を壊したのだ!」
「「「「逃げろ!」」」」
「ニゲロ、ニゲロ・・ニゲロー!」
この日、精霊王建国以来、初の城壁が破られた。偵察ドローンを攻撃兵器と誤認したことも大きい。
王都に魔王軍、獣人族主体の亜人がなだれ込むことになった。
まるで突撃ラッパが亡国を告げているようだった。
最後までお読み頂き有難うございました。