第七話 はい二人組作ってー
「──えー、皆さんにはこれから二人組を作ってもらいます」
激動のアルバイト面接から一日。
正直、昨日は突如現れた魔神ヴィクトリアに興味と時間を全て持っていかれたと言わざるを得なかった。
『妖怪探偵事務所』のリーダーである鵺曰く、時間が押して必要最低限の手続きしかできていなかったらしい。
そのため、今日もこうして事務所に集まっているのだ。
「どうして急に残酷なことを言うんですか?」
「え?何が?何も怖いこと言ってないよ?」
「その言葉が僕には怖いですよ」
──どうやら、これから暫くは社員と新人の二人組で仕事を教えてもらったり、戦闘技術の向上を手伝ってもらう⋯⋯らしい。
個別に教育係をつけると言った感じだろうか。
「三対三で人数もちょうどいいし、そんな感じで」
⋯⋯合コンかよ。
「組み合わせはどうやって決めるんですか?」
隣に立っていた橘さんが控えめに手を上げる。
「うん、最初はあみだくじでやろうと思ってたんだけど⋯⋯」
「⋯⋯」
すごいなこの人⋯⋯
⋯⋯しかし、この三択は⋯⋯
部屋にいる『択』を一人ずつ見回していく。
クロックさんは手元の書類に視線を落とし、ジェイソンさんは部屋の隅をぼーっと眺めている。
⋯⋯そして──
「⋯⋯?おい、何見てんだよクソガキ」
「⋯⋯いえ」
⋯⋯あまり言いたくないが、神威さんと組む可能性は正直考えたくない⋯⋯怖すぎる⋯⋯
⋯⋯くそっ、なんで一番話しやすそうな鵺が選択肢にいないんだ⋯⋯
あぁ、そもそも二人組を作るというのが苦行なのに、このままじゃやばい⋯⋯
一体、どうすれば──
「──はいはーい!私はアカネ君を指名しまーす!!」
「⋯⋯え?」
考えの渦に呑まれていた思考を引き上げるように、快活な声が響く。
見れば、ジェイソンさんがこっちに視線を向け、にこやかに手を振っていた。
「⋯⋯え?俺、ですか⋯⋯?」
「うん!私とアカネ君って、相性良いと思うんだ!実は履歴書見た時から狙ってたんだよね〜!!」
ジェイソンさんは楽しげに距離を詰めると、俺の両手を力強く握り、ぶんぶんと振る。
⋯⋯この、人⋯⋯
「──どうかな、アカネ君?私と組んでくれるかな?」
──近くで見るとマジででかい⋯⋯!
身長は百八十センチを優に超えているのではないだろうか。
神威さんもクロックさんも身長は高い方だが、彼女はその二人より更に大柄だった。
握られた手も筋肉質で、しっかりと鍛えられていることが伝わってくる。
「⋯⋯アカネ君?大丈夫?」
「──っ!?すっ、すみません⋯⋯っ!」
返事が無いのを不安に思ったのか、彼女の両手がこちらの顔を包み、半ば無理やりに上を向かされる。
覗き込むような姿勢の彼女と目が合い、突然の至近距離に思わず心臓が高鳴ってしまう。
近くで見る顔立ちは綺麗で整っており、にも関わらず何故かボロボロでシミだらけのツナギを着ていることのアンバランスさが、どこか扇情的だった。
「⋯⋯ふふ、返事が聞きたいんだけど?」
「⋯⋯あっ⋯⋯えっ、と⋯⋯」
手で顔を固定されているため彼女から目が離せず、まるで瞳を通して思考を溶かされていくようだった。
それでも何とか己を律し、努めて冷静に返事を返す。
「⋯⋯よ、よろっ⋯⋯よろしっ、よろしくお願いします⋯⋯っ」
⋯⋯⋯⋯いや、これが最適解だ。
何せ三分の一で神威さんに当たる可能性があったのだから、それを避けるのが当然のリスクヘッジであり、正しい生存本能であるはずだ。
「⋯⋯」
⋯⋯決して、綺麗な女性に至近距離で見つめられて流されてしまった訳では無いのです⋯⋯
「⋯⋯ふふっ」
「⋯⋯?あ、あの⋯⋯?」
「やったーっ!!アカネ君ありがとっ!これからよろしくね!!」
一瞬の妖艶な雰囲気は直ぐに消え去り、ともすれば子供っぽいとも言える態度ではしゃぐジェイソンさん。
⋯⋯それを見ていると、やはり自分の判断は間違っていなかったと思えてくる。
どんな理由かは分からないが、彼女は自分のことを気にかけ、組みたいとまで言ってくれたのだ。
上司にそこまで目をかけてもらえるというのは、やはり喜ぶべきことなのではないだろうか?
改めて、彼女から多くのことを学ぼうと決意を固める。
「じゃあジェイソンとアカネ君は確定だね、他は──」
「──僕は魔神とは組まない」
話し合いが再開された瞬間、鋭い声が部屋に響いた。
「⋯⋯組みたくないじゃなくて、誰と組みたいかを教えてください〜」
「⋯⋯ふん」
呆れたような鵺の言葉に、神威さんは拗ねたように顔を背けると、クロックさんの方を見ながら顎で橘さんの方を示す。
「⋯⋯はいはい、分かりましたよ」
そんな神威さんの態度に、クロックさんは観念したように手を上げると、橘さんの方に一歩距離を詰める。
「橘さん。神威がこんな調子だから、オジサンが相手でもいいかな?」
「は、はい!もちろんです⋯⋯!よろしくお願いします⋯⋯!」
クロックさんは、魔神と組むことに対しても抵抗がなさそうだった。
先程確認していた書類も、俺たち全員分のものがあったし、誰と組んでも上手くやる自信があったのだろうか。
⋯⋯そうすると──
「⋯⋯」
今もずっと沈黙を貫く金髪のパンクロック少女。
昨日とは違う装いだが、それでも派手な印象は相変わらずだった。
「えっと、ヒビキちゃん大丈夫?一番やばいやつ来ちゃったけど⋯⋯」
「おい、僕のどこがやばいんだ言ってみろ」
「⋯⋯はい、大丈夫です」
「お前も妥協したみたいな態度を出すな」
「──師事するなら、できるだけ強い方がいいと思っていたので」
「⋯⋯へぇ?」
彼女の声は、派手な見た目とは裏腹に落ち着き払っており、思わず聴き入ってしまう魅力があった。
「ははっ、良かったなガキ。お前の願いは叶う、なぜなら僕が一番強いからだ」
「はい、よろしくお願いします」
「なんか神威がヴィクトリアっぽくなっちゃった⋯⋯」
「「な訳ないだろッ!!」」
今までずっと姿を見せなかったヴィクトリアまで出てきて否定する。
似ているかはともかく、相性が悪いのは一目瞭然だった。
「おいおい、オレサマの相手はメガネかよ。お前戦えんのか?死んでも嬢ちゃんのせいにすんなよ?」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
そんなこんなで、昨日と比べれば大した衝突も無く、比較的順調にチーム決めは決着した。
「⋯⋯ふぅ⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯スムーズに二人組を作れて本当に良かった⋯⋯いやマジで本当に⋯⋯