第六話 元人間が願うもの
「──えー!?元人間!?すごっ!!初めて見たよそんな魔神!!強くてニューゲーム、みたいな感じ!?」
「はっはっは!何を言う!オレサマは生前から最強だったさ!!」
「⋯⋯ヴィクトリア、契約した時にそんなこと言ってたっけ⋯⋯?」
「あー?言っただろ。オレサマを他の雑魚魔神なんかと同じにすんなよ、ってな」
「あっはは!!なんだよも〜!そのプライドの高さも生前からか〜?」
「まあ、実際ナンバーワンだからな!」
「前例のないオンリーワンでもあるね!!」
「はっはっは!なんだよお前、チビのくせに中々分かってるじゃねえか!!」
「えへへ〜!⋯⋯はぁ⋯⋯もしそんな最強魔神がうちに入ってくれたら、すっごく嬉しいんだけどな〜⋯⋯?」チラッ
「お?まあそうだな⋯⋯そこまで言われちゃ、最強のオレサマとしてはやぶさかでも──」
「──打ち解けるなッ!!」
⋯⋯テンション爆上がりの鵺と見事におだてられまくってるヴィクトリアに、ついに神威が怒号を叫んだ。
「⋯⋯え?神威どうしたの⋯⋯?」
「──ドン引きされる謂れはない!なに完全に気を許してんだよ!?脇腹突ついてんじゃねえよ!」
「「神威⋯⋯」」
「なんだその目!あと魔神に名前を呼ばれる筋合いはない!!」
神威は絶望したように頭を抱えながらも、必死に鵺に意見する。
⋯⋯先程までの傍若無人ぶりとは一転、少し気の毒にさえ思える様子だった。
「そもそも、元人間なら魔神とは言えないだろ!?」
「⋯⋯そうだな、その場合は幽霊とかの方が分類としては正しい」
「でも、幽霊は魔力を纏わないでしょ?」
クロックとジェイソンもそれぞれの考えを話すが、謎は深まるばかりだった。
「えー!?そんなのこれから知っていけばいいでしょ!?まずは採用の手続きだけさせて!!」
「そいつはまだ合格してない!!」
元人間の魔神という未知の存在に、鵺は完全に心を奪われてしまったようだ。
元々好奇心の強そうな少女だったし、駄々をこねる姿も傍から見れば微笑ましいものだった。
「そもそもそいつの面接をするって話だっただろうが!まだ何の情報も引き出してないぞ!!」
「む、それは確かに⋯⋯」
神威の必死の説得が通じたのか、鵺は考えるように腕を組み、そのままヴィクトリアに面と向かう。
「ヴィクトリア、これから色々聞いてもいい?」
「え?プライベートの詮索はちょっと⋯⋯」
「だよね〜⋯⋯倫理的にね〜⋯⋯」
「──そいつを人間扱いするなッ!!」
わざとらしく自らの身体を抱きしめるヴィクトリアに再度神威が叫ぶ。
⋯⋯先程の戦闘中も全く息を荒げなかった神威が、今は肩で呼吸をしていた。
「⋯⋯クソ、クソッ!おいそこのガキッ!!」
「え!?俺、ですか⋯⋯?」
唐突にこちらに矛先を向けられ嫌に心臓が跳ねる。
「⋯⋯なんでもいい、こいつを批判しろ」
「えぇ⋯⋯?えっと⋯⋯!」
なんて無茶ぶりをしてくるんだ⋯⋯
「早くしろ!」
「──じ、人生二週目でオレサマって一人称はちょっとイタい!」
「──ぐはぁッ!?」
「ダメージが通った!」
⋯⋯咄嗟に思いついたものだが、上手く弱点を突けたらしい。
「⋯⋯ふっ、ははは!よくやったクソガキ!!」
神威⋯⋯さんはもうヤケクソなのか、高笑いをしながらこちらを褒めてくる。
「⋯⋯」
⋯⋯なんか急に褒められたせいで、これからはこの人が上司になることを思い出してしまった⋯⋯
⋯⋯褒められ慣れてない人間を急に褒めないで欲しい、びっくりしちゃうから。
「あ!弱ってる今ならヴィクトリアの秘密を聞き出せるかな⋯⋯?」
「⋯⋯ふんっ、オレサ⋯⋯ワタクシはそんなにやわじゃないさ⋯⋯くっ、殺せっ⋯⋯!」
⋯⋯愉快な魔神だ。
「そいつもそう言ってる、望み通り殺してやろう」
「ちょっと!神威ストップ!!」
「鵺!お前はこいつを信用しすぎ──」
「──ヴィクトリア、じゃあ一つだけ答えてくれる?」
──鵺の纏う雰囲気が変わる。
先程やった先輩の真似とは違う、彼女が真摯にヴィクトリアという存在に向き合っている事が分かる態度だった。
「⋯⋯なんだよ」
「ヴィクトリアは、どうしてうちに入ろうと思ったの?」
「⋯⋯どうしてそんなことを聞く?魔力量とやらについてはいいのか?」
「うん、ヴィクトリアの正体がどうであれ、大切なのはこれから私たちが仲良くできるか⋯⋯そうでしょ?」
鵺は曇りない笑顔でヴィクトリアの手を取る。
誠意と信頼を伝えるように。
「⋯⋯」
「⋯⋯」ニコニコ
「⋯⋯⋯⋯探してる奴がいる」
「⋯⋯え?」
「⋯⋯嬢ちゃんと契約したのも、ここでバイトしてもらうってのも、全てはそいつを見つけるためだ」
「⋯⋯でも、それは⋯⋯」
「生きてるのか?お前の生前がどのくらい前かは知らないが、あまり現実的じゃないだろう」
「⋯⋯直感的にだが、オレサマが生きてた時代は今からそんなに離れてないと思う⋯⋯それでも数百年は経ってるだろうが⋯⋯」
「⋯⋯だったら──」
「──生きてる」
ヴィクトリアは強い意志を感じさせる声色で言い切った。
「──そいつは、人間じゃなかった」
「なんだと⋯⋯?」
「今もこの大地のどこかにいる。オレサマはそう確信してるんだ」
ヴィクトリアの瞳に宿る感情は複雑に混じり合っていて、まるで生きている人間のようだった。