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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第四十八話 見世物小屋の終わり

── 一分前。見世物小屋付近、傭兵団『ギャクバリ』のキャンプ地──



「──ただいま」


「うおっ!?カフカ!?お前いったいどこ行ってたんだ!?」


「探検してた」


「自由すぎんだろぉ!?」



 瞬間移動で唐突に現れたカフカに対して、ギャクバリの構成員は飛び上がって驚いた。


 ちょうど見世物小屋内部にいる仲間と通信をしていたらしいその男は、少し焦った様子である。



「状況は?」


「依頼人がピンチだ⋯⋯!リーダー達は距離的に間に合わない⋯⋯カフカ、行けるか?」


「任せろ」


「よし⋯⋯ってお前武器無くしてんじゃねぇか!?待ってろ、今適当に持ってきて──」


「──行ってきます」


「カフカぁ!?」



 男が武器を手に振り返った時には、既にカフカの姿は消えていた。



「⋯⋯自由すぎんだろ⋯⋯」




──見世物小屋地下。アカネ、ヒビキ、アリス、ロプス、カフカ──




「──今の私は、ボクサーだ」


「⋯⋯⋯⋯はぁ!?!?」



 アカネを殴り倒し、こちらを振り返って意味不明なセリフをもう一度吐いた少女⋯⋯カフカに対して、ヒビキは一瞬停止してからブチ切れた。



「──ッ」



──アカネを攻撃したからには敵で間違いない。


 ヒビキはすぐに判断した。


──意味分からないけどボクサーという言葉から攻撃方法は恐らく『素手』、突然現れたことから能力は『移動』か『隠密系』⋯⋯!


 ヒビキは、距離を詰めてくるカフカの能力と拳に警戒しつつ、武器を──



「──キック」


「ぐ、ぁ⋯⋯ッ!?」



──キックボクシングかよ⋯⋯ッ



 可愛らしい声とは相反して彼女の蹴りは重く、ヒビキは吹っ飛び地面を転がった。



「く⋯⋯ッ」



 彼女はすぐさま体勢を立て直し相手を睨みつけるも、その視線はいまいち何を考えているのか分からない無表情に吸い込まれる。



「囚われないことこそ、強者の秘訣だ」


「ッ⋯⋯だっる⋯⋯ッ」



──今のカフカは魔法少女に変身していない。変身を連発することはできないのだ。


 しかしそれでも、カフカの身体能力には目を見張るものがあった。



「お前の能力、かっこいいな。しかし私が操る『拳法』に勝てるかな?ほわちゃっ」


「──ッ、切断してやる⋯⋯ッ」




──────────────────




「──つ、捕まえました⋯⋯っ!」


「ふふ、ありがとうございますロプスさん」


「⋯⋯う、ぁ⋯⋯」



 ヒビキとカフカが戦っているどさくさに紛れて、ロプスがアカネを片手で拾い上げる。


 カフカのストレートで倒れ、もうとっくに十カウント以上経っていたアカネは、全身を握られる圧力でようやく覚醒した。


 目を覚ましてすぐ、ロプスの肩に悠々と座るアリスと目が合う。



「テ、メェ⋯⋯」


「ふふ、巨大化能力者を見るのは初めてですか?彼女はまだ大きくなれますよ」


「⋯⋯」



 睨みつけても嬉しそうに頬を染めるだけのアリスにドン引きしたアカネは、その視線の標的をロプスへと移す。


 ロプスは、睨まれたことに一瞬身体を震わせるも、すぐにぶんぶんと頭を振って気持ちを切り替えた。



「そっ、そんなに睨んでも解放してあげませんよ⋯⋯!お、大人しく──」


「──痛い痛い痛い痛いッ!!握る力がヤバいッ!」


「て、抵抗しないでください!!」


「してない!してません!!だから力緩めてっ!!」



 アカネの必死の懇願に、ロプスはようやく気づく。



「⋯⋯?あっ⋯⋯!?ご、ごめんなさい⋯⋯っ!お怪我は無いですか⋯⋯?」


「怪我だらけだよ⋯⋯ッ」


「ふ、ふみゅう⋯⋯えっと、ではお詫びに私の口の中に──」


「──随分先輩と仲が良さそうですね?ロプスさん?」


「ぴぃっ!?水無月様が怒ってますぅ〜っ!」


「やめ゛っ⋯⋯つぶ、れる⋯⋯っ!ぐぇッ⋯⋯」



 アリスに怖めの笑顔を向けられたロプスは恐怖からアカネを思いっきり握り込み、アカネはそのショックで再度気絶してしまった⋯⋯これで今日何度目の気絶だろうか。



「──ッ、ふみゅっ⋯⋯!!」



 瞬間、カーブを描くようにして迫っていた馬鹿でかカッターをロプスが再度叩き落とした。



「おや⋯⋯?」



 アリスの視線の先には、鋭い視線でこちらを睨みつけるヒビキ。そして──



「──私のボクサー街道も、ここまでか⋯⋯」


「⋯⋯」



 やり切ったとでも言うかのように大の字で寝転がるカフカの姿があった。



「⋯⋯あんな派手に登場しておいて、負けたんですか⋯⋯」



 アリスは呆れたように呟いた。



「私のペアを返してもらうわ」


「ペア、ね⋯⋯」



 何にせよ、雇った傭兵が倒されたとなっては自分達が彼女の相手をしなくてはならない。年齢こそひとつ差だが、しかし戦いのキャリアは段違いの相手。


 アリスにとって分が悪いのは明らかだった。



「あ、安心してください水無月様⋯⋯!私、絶対にこの子を放したり──」


「──いえ、先輩を解放しましょう」


「ふみゅぅ⋯⋯!?」



 アリスは迷いなく決断した。



「よ、よろしいのですか⋯⋯?水無月様、ここまでとっても頑張ったのに⋯⋯」


「そもそも先輩を誘拐するつもりはありませんよ。私はただ、先輩と二人きりの時間をできる限り『鮮烈』に彩りたかっただけです。つまり、もう目的は果たしているんですよ」



──きっと、もう彼は自分という存在を忘れられないだろう。



「で、ですが⋯⋯」


「それに、彼女⋯⋯如月ヒビキは危険です。能力が強すぎる上に、ロプスさんとは相性が悪い」


「そう、なんですか?」


「彼女の能力は恐らく『空間そのものに作用する』タイプ。ロプスさんの巨体では的になるだけです」



 アリスは台本でも読むようにすらすらと語る⋯⋯彼女自身は非能力者にも関わらず、その考察には無駄がなかった。



「ふみゅぅ⋯⋯」


「ふふ、私のためを思って言ってくれているんですよね、ロプスさん。ありがとうございます」


「い、いえそんな⋯⋯私は⋯⋯」


「ですが、それで大切な『友人』が傷ついてしまったら、私も悲しいですよ」


「──ふみゅっ⋯⋯!?」



 アリスの言葉に、ロプスはぱぁっと表情を明るくする。



「ゆ、友人⋯⋯えへへ⋯⋯」



⋯⋯まるで飼い犬のようだ、とアリスは思った。



「それに見てください、あの人の目。このまま逃げたら、大地の果てまで追ってきそうな形相でしょう?」


「そ、それはたしかに⋯⋯」


「クマも酷いですし」


「余計なお世話よ!!」



 ヒビキが叫ぶ。


 彼女はすぐにでも攻撃を仕掛けたかったが、しかしそれはできなかった。



「ぐ、っ⋯⋯傷、が⋯⋯ッ」



 勝利こそしたが、カフカとの戦いはヒビキにかなりのダメージを与えていたのだ。洋館の時ほどでは無いが、やはり満身創痍である。


 そのため、向こうがアカネを諦めるつもりならば無理に戦うべきでは無いと、ヒビキはこの時既に結論を出していた。


──もし連れ去るつもりならば、言った通りに地の果てまで追いかけてやるが。



「⋯⋯ロプスさん、先輩を解放してください」


「は、はいっ⋯⋯!」



 そして、アリスにとってもここでヒビキの相手に時間をかけたくはなかった。


 ここでもたついてもし妖怪探偵事務所の人間⋯⋯つまりヒビキの仲間が合流してしまえば、勝ち目どころか逃げ道が無くなる。


 目的を達成した今、彼女はいち早くこの場を離れたかった。


 アリスは、ロプスがアカネを地面に置いたのを確認してから、素早く指示を出す。



「ロプスさん、離脱します。大丈夫ですか?」


「は、はい⋯⋯!もちろんです⋯⋯!思いっきり跳べばいいんですよね?」


「はい。巨大化の能力を瞬間的に使えば、かなりの距離を稼げるはずです」



 言いながらもアリスは、懐から見世物小屋内部で発見した『風圧や衝撃を防ぐためのマジックアイテム』を取り出そうと──



「──では、水無月様は私の胸の中にいてください。そうすれば安全ですから⋯⋯!!」


「⋯⋯え?い、いえ私には用意しておいたマジックアイテムが──」


「──えいっ」


「ぐぇっ」



 思いっきり服の胸元に押し込まれ、アリスは間抜けな声を上げる。



「ロプスさんっ⋯⋯ちょ、まっ⋯⋯これだと、いきが⋯⋯っ」


「跳びます⋯⋯!捕まっててください⋯⋯!!」


「まって──」



──衝撃音。


 ロプスは巨大化能力を器用に使い、ジャンプ一回だけでかなりの距離を跳んでいった。


⋯⋯追うのは現実的では無いだろう。


 加えて⋯⋯



「っ、見世物小屋が⋯⋯」



アリス達の離脱を合図とするように、見世物小屋の空間が歪み、ひび割れ始める。


──『見世物小屋内部の空間を作り出し、維持するマジックアイテム』



「もしかして⋯⋯」



──既に、彼女が確保していたのだろうか⋯⋯?


 ヒビキは屈辱的な気づきを振り払うように息を吐き、アカネの状態を確認しながら毒づいた。



「⋯⋯結局なんだったのよ、あの子は⋯⋯」


「囚われないことこそ──」


「──黙りなさい。あんたにも言ってるのよ」



 ヒビキはカフカに冷たく返しつつ、アカネを抱きかかえたまま彼女に振り返る。


 しかし⋯⋯



「⋯⋯やっぱり『翼持ち(移動系能力者を表すスラング)』かしら⋯⋯」



 振り向いた時には、既にカフカの姿は無くなっていた。



「⋯⋯」



 この空間内だけならば、能力を張り巡らせ制圧できたが、一瞬で遠くまで逃げるのを防ぐ術は当然ない。


⋯⋯こちらもまた、やはりどうしようもないことだった。



「アカネ⋯⋯」



 しかし、『アカネを取り戻すことができた』という一点だけで、ヒビキはかなり安心していた。



「⋯⋯ふふ」



⋯⋯洋館探索の時は、アカネがこのように自分を抱きしめてくれていたのだろうか。



「ふぅーっ⋯⋯でも、まだ⋯⋯まだ気絶しちゃ⋯⋯っ」



 ヒビキも既に限界が近かったが、それでも必死に意識を保っていた。


──あの女(カフカ)がまた飛んでくる可能性もある⋯⋯!


 ヒビキは未だ武器を手放さず、また空間の大部分を覆った能力も解除していない。



「──あっ!いた!いたよ雫さん!おーい、ヒビキちゃーん!!」


「⋯⋯ジェイ、ソン──」



──しかし、聞き覚えのある快活な声が聞こえて来た瞬間、糸が切れたようにその意識は沈んでしまうのだった。




──────────────────




「雫さーんはやくー!!アカネ君とヒビキちゃんボロッボロだよー!!」



 ヒビキの元まで元気良く走ったきた『無傷』のジェイソンは後ろを振り向き、ヴィクトリアに抱えられた雫を催促するようにぶんぶんと手を振る。



「アイツなんであんなバカ元気なんだ⋯⋯」


「あはは⋯⋯」


「それがジェイソンの魅力ですね」



 ヴィクトリアはげんなりと、ナギサは疲れを感じさせる様子で、雫は身体を少しも動かせないまま言う。



「⋯⋯そういえば、お前の『目的』とやらはどうなったんだよ?」



 ヴィクトリアはナギサに合わせて歩きながら、思い出したように雫へと尋ねた。



「⋯⋯残念ながら、私の目的は既に『処分された』と⋯⋯座長の私室で記録を見ました」


「っ、それって⋯⋯」



 ナギサとヴィクトリアは言葉を呑む。



「ですがそのぶん、今回は良い気づきを得ることができました。これは紛れもなくナギサ、あなたのおかげですよ」


「⋯⋯そう、ですか」


「ふふ」



 楽しげな雫に対して無機質に返しながら、ナギサは気持ち歩く速度を速めジェイソンへと近づく。


 彼らが近づく間にも、ジェイソンは倒れている二人に簡単な止血処理を始めていた。



「はぁ〜、今回はちょっと辛かったね。全体的に意味分かんなかったし⋯⋯って、雫さんの指示が意味分からないのはいつもの事か!あはは!!」


「ヤベェ会社」



 そんな言葉の割に、少しも疑いを持たない様子でジェイソンは雫を振り返った。



「雫さん、今回は報告書になんて書けばいいかな?できれば一言で説明できる感じのがいいんだけど⋯⋯」


「ふむ、そうですね。では⋯⋯」



 雫は崩れゆく空間を見つめながら静かに、しかしはっきりと告げた。



「──見世物小屋が、死んだと」




──見世物小屋編 完──

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