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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第四十五話 斬撃(謎の美少女の場合)

──最悪だ。


 俺は心の底からそう思った。



 紅葉組の目的はこの少女なのか?『姪』と言っていた。血縁?つまりこの子は『四季』の身内⋯⋯?


 様々な思考が渦巻くが、しかし当然目の前の『四季』は答えても待ってもくれない。


 紅葉椛(こうようもみじ)はリボルバーを構えたまま、一歩ずつこちらに距離を詰めてきていた。それに合わせて、紅葉組の構成員も俺達を囲むように包囲する。



「⋯⋯っ」



⋯⋯数が減っている。


 彼らは、最初に会った時の半分程の人数しか確認できなかった。


──これはつまり、別行動をとっているチームが存在するということだ。


 仲間や先輩が心配になってしまうがしかし、今一番ピンチなのは確実に俺だろう⋯⋯


 とりあえず、俺は隣の少女に事実確認を取ることにした。



「⋯⋯あれが『紅葉組』なんですけど⋯⋯知り合い、ですか?」


「い、いえ。知らない人です⋯⋯」



 少女の方には自覚が無さそうだった。彼女も状況が掴めないといった様子で困惑している。


⋯⋯しかし、目の前の紅葉椛はそれを気にもとめず、纏う苛烈さも鋭くなるばかり。



「⋯⋯おいガキ、忘れてねぇだろうな?お互いの目的、『求める物には手を出さない』⋯⋯そう言ったよな」



 承諾した覚えはないが。



「⋯⋯」



⋯⋯当然、大人しく少女を引き渡す訳にはいかない。



「──『物』って、言ってたよな」


「あぁ?」



『魔神』との約束もあるし、そもそもこの少女が『先輩の目的』である可能性も未だ存在するのだ。


 それに⋯⋯



「この子は『物』じゃなくて『人間』だ。何か勘違いしているのでは?早くお目当ての『物』を探しに行けよ」


「⋯⋯」



──この女は先輩を傷つけている。



「⋯⋯チッ、どいつもこいつも同じような屁理屈言いやがって⋯⋯」



──つまり敵だ。



「ガキ、一旦冷静になれよ?お前らその女が本当に必要なのか?」


「⋯⋯」


「もしくだらない同情から『助けてやろう』なんて考えてるのなら、あたしらの間には悲しきすれ違いがあるな。えぇ?」


「⋯⋯⋯⋯」



 よく回る口だな、と俺は思った。



「あたしらは別にその女を殺したい訳でも、傷つけたい訳でもない⋯⋯言ったろ?『姪』だって。家族を助けに来ただけなのさ」


「⋯⋯」


「ッ⋯⋯それに、よく考えてみろよ?助けたとしてお前に何ができるんだ?『四季』であるあたしよりも、そいつに『与えて』やれるか?」


「⋯⋯直接聞いてみたらどうだ?」


「⋯⋯あぁ?」



 紅葉椛がこちらを鋭く睨む。



「この子に直接聞いてみろよ。『自分はあなたの才能にどれだけ貢献できますか』ってな」


「⋯⋯何言ってんだテメェ?」


「この子の才能は誰かに与えられずとも既に完成している。選ぶのはお前でも俺達でもなく、彼女自身だと言っているんだ」



 時間稼ぎの意味もあるが、しかし俺は心からの本心を口にした。



「⋯⋯はぁ、今日は話が通じねぇヤツばっかだな」



⋯⋯しかし、紅葉椛には響かなかったらしい⋯⋯結構かっこいいこと言ったつもりだったんだけどな⋯⋯


 今ので問答を諦めたのか、紅葉椛は苛立ちを隠しもせず更に距離を詰めてくる。


⋯⋯仕方がないか。


 俺は近づいてくる紅葉椛に見せつけるように少女を引き寄せ、その首に手をかけた。



「──それ以上近づくな」


「──ッ、テメェ⋯⋯」



 少女は一瞬身体を強ばらせたが、抵抗はしてこなかった⋯⋯しかし紅葉椛の方は明らかに動揺し、更に怒りを募らせる。



「⋯⋯ふむ」



 少女の我慢の甲斐あって、俺は確信した。



──あの女はこの子を傷つけられるのを恐れている。


 そして、恐らく向こうはこちらの目的を理解していない⋯⋯俺の方も当然彼女を傷つけるつもりなどないが、紅葉椛はそれを知らないのだ。


 向こうからすれば、今の俺は人質を取っている状態⋯⋯状況としては有利──



──銃声。



「──ッ」



 突然の発砲。避けれたのはまぐれ以外の何ものでもなかった。掠めた頬から血が滴る。



「なっ⋯⋯!?お前イカれてんのか!?」


「はぁ?あたしは別に近づいてないぜ?」



 紅葉椛はおどけたように手を広げる⋯⋯屁理屈言いやがって⋯⋯ッ



「⋯⋯状況を理解してないのか?」


「必要なのは『速度』だ。この場の領域において、あたしの弾丸は何より速い⋯⋯テメェが何かする前に殺してやるよ」



──ハッタリではない。


 舞い散る花びらと、未だ響く金属音がそれを証明している。



「くッ⋯⋯!」



 花びらに弾丸を反射させ続けているのだ。


──これが紅葉椛の能力⋯⋯!


 先輩に聞いてこそいたが、実際に使われるとやはり驚異的に感じる。



「ど、どうするんですか⋯⋯っ?」



 俺に抑えられたままで、少女が小さく聞いてくる。



「⋯⋯」



 たとえこのまま彼女と密着したままでいたとしても、確実に俺『だけ』が撃ち殺される⋯⋯!


 彼女と離れるリスクを犯してでも行動すべきだろう。


 俺は少女の耳元に顔を近づけ、耳打ちをした。



「今からあの女と戦う──」


「──んっ⋯⋯♡」


「うわぁエロい声出すな!?!?」


「きっ、急に耳元で囁くからっ!」



⋯⋯⋯⋯不味い、冷静になれ俺。



「⋯⋯⋯⋯はぁ?」



 目の前でゴミを見るような目を向けてくる紅葉椛から目を逸らし、改めて少女に耳打ちする。



「あなたが前に出て戦ってください」


「私でいいの⋯⋯?」


「あなたは殺されません。というか普通に僕よりあなたの方が強い⋯⋯」



⋯⋯かなり情けないことを言っている自覚はあるが、しかしこれが最適解だ。俺は先輩のためならいくらでも情けない手段を取ろう。



「⋯⋯分かりました」



 俺の決意が伝わったのか、少女は力強く頷き剣⋯⋯いや刀を握り直した。



「⋯⋯よし、行けッ!!」



 俺の叫びを合図にして、少女が素早く前に飛び出した。同時に、紅葉組の構成員も包囲を縮めるように少女へと迫る。



「ふッ──」


「ぐぁ⋯⋯ッ!?」



 しかし、少女をそれをものともせず、一人二人と圧倒していく。


 少女の扱う刀は、彼女が小柄なこともあって刀身が長く見えたが、彼女はそれを難なく使いこなしていた。


 俺の方も、身体中に固めた血液を緩衝材のように張り巡らせ⋯⋯



「──う、ぐッ⋯⋯!」



 意味分からない角度から腹部目掛けて飛んできた銃弾を普通に食らった。



「いっ、てぇ⋯⋯ッ!」



 いや、これでいい⋯⋯ッ


 そもそもあの女の弾丸を避けるなんて芸当は不可能だ。少しでも威力を殺すのが最適解いやマジで痛い⋯⋯ッ!!



「はッ──」


「ぐ、ぅッ⋯⋯!?」



 しかし、俺が痛みに悶えている間にも、少女はものすごい勢いで構成員を斬り裂き続けていた。その剣術はもはや鮮やかさすら感じるほどである。


 しかし⋯⋯



「⋯⋯へぇ?」



 紅葉椛はさっきから動いていなかった。


 構成員を全て斬り伏せ、少女が紅葉椛に距離を詰めても、その余裕は崩れない。



「才能はまずまずだな⋯⋯で?あたしに対してはどうする?」



 しかし少女の方も⋯⋯そしてその刀にも、既に迷いはなかった。



「──斬り裂きます」




──紅葉椛は少女が前に出た瞬間から能力を止めていた。


 これは俺の予想通りである。彼女は恐らく少女の命だけでなく、少女が傷つくことも避けたいはずだ。


 彼女の能力は細かい制御ができないと既に先輩から聞いている。つまり最初に能力を使ったのも単なるハッタリのため。



──今、紅葉椛は能力を使えない⋯⋯!



 俺を貫いた銃弾も、能力を解除する前の最後っ屁だろう。


 加えて、俺の予想が正しければ⋯⋯



「はッ──」


「──おっとッ⋯⋯!」



 少女の鋭い剣撃を、紅葉椛はリボルバーの『銃身』で器用に受けた。


──やはりそうだ⋯⋯!


 俺は内心でガッツポーズをとった。



──銃は殺傷能力が高すぎる。


 恐らく少女を傷つけず手に入れたい紅葉椛にとって、これは明らかなリスクだ。


 結果として、彼女はほぼ素手で刀を持つ少女と対峙しなければならない。



「よッ──」


「──くッ」



⋯⋯しかし、思いのほか素手でも紅葉椛は強かった。恐らく何らかの武道経験者だ。これは予想外である⋯⋯流石は四季と言ったところか。



「──ッ」



 何度目かの衝突の瞬間、紅葉椛が懐から『小刀』を取り出した。


 それは本当に一瞬の動作で、俺が声を上げる間もない速度。


 しかし⋯⋯



「──遅い」



 少女は完璧に対応して見せた。



──剣戟音。



 小刀は長刀に弾かれ、上空へと飛ぶ。



「⋯⋯かもな」



 しかし、紅葉椛に焦りは見られなかった。


 彼女は手を手刀のように固め、小刀を飛ばした隙を素手で狙う。刀身の長い少女の刀では、防御は間に合わない。



「悪いな、ちょっと痛む──」


「──ばんッ」



──銃声。



 響いたのは紅葉椛のリボルバーからではなく、加えてそれは銃声と呼ぶには些か不格好だった。


 何せそれは、指の先から放たれた『血液の塊』なのだから。


 そう、つまりは──



「──俺のこと、忘れてたろ?」


「ッ⋯⋯クソ、ガキ⋯⋯ッ!!」



── 俺の能力(血液操作)が、紅葉椛の肩を貫いた。



「はは⋯⋯ッ」



 やった⋯⋯やってやった⋯⋯ッ!



「──ざまぁみろ⋯⋯ッ」



── 『四季』(先輩の敵)に、一発食らわせてやった⋯⋯ッ!!



「う、あぁ⋯⋯ッ!?やっぱこれ指痛ぇ⋯⋯っ!?」



──指の中で血液を圧縮し、指の先ごと弾丸として飛ばす。


 橘の魔弾がかっこよくて考えた技だったが、予想以上に上手くいった。嬉しい。


 俺は当然心臓を狙ったのだが、紅葉椛は驚異的な反応速度で身体をズラしたため、致命傷とは至らなかった。


 しかし⋯⋯



「──()った」



──少女は、その隙を見逃さない。



「──ぐッ⋯⋯」



 少女の刀は、狂いなく紅葉椛の首を──



『今です、ロプスさん』



──衝撃。


 それはこの建物の地中から響き、反応する間もなく地面を割った。



「──なんっ、だ⋯⋯ッ!?」



 俺の目の前の地面に入った亀裂はすぐに破られ、その中からは──



「──手?」



 人間のサイズではない、巨大な手が伸びてきていた。



「──わっ⋯⋯!?」


「おっと⋯⋯っ」



 急に生じた振動に少女は体勢を崩し、紅葉椛の方へと倒れ込む。


 そして⋯⋯



「⋯⋯えいッ」


「──うきゅっ」


「あっ!?ずるいぞテメェ!?」



⋯⋯そしてそのまま気絶させられてしまった。



「──ッ」



 しかし、今の俺に少女を取り返す余裕は無い。


 何せ、目の前の手は明確に俺を叩き潰そうとしていたのだ。



「くッ⋯⋯!?なんっ、だよこの手は!?」



 ちらりと横目で見るに、どうやら紅葉椛も驚いている様子だ⋯⋯つまり見世物小屋の何かか⋯⋯?しかしそれなら少女は知っている可能性も⋯⋯



「⋯⋯お前が最初あたしの銃撃を避けたのは、引き金を引くあたしの指の動きを見て理解していたからだ。お前は人体の動きに異常な程の理解を持っている」


「あぁッ!?」



 自分は手に狙われていないのをいい事に、好き勝手言ってくる紅葉椛。



「あたしは侮っていた。お前は強いよ」


「いや今それどころじゃッ⋯⋯うぉッ!?」



 なんだよアイツ⋯⋯!余裕ぶりやがって⋯⋯ッ!



「──約束する。この子は決して傷つけたりしないし、不幸にもしない」


「⋯⋯おま、え⋯⋯」



⋯⋯嘘を、ついているようには見えなかった。



「──ぁ、やべ⋯⋯ッ」



 真摯に告げる紅葉椛と彼女に抱きしめられるように項垂れている少女の姿を最後の景色として、俺の意識と身体は馬鹿でかハンドに押しつぶされるのだった。

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