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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第四十二話 勢力がたくさん出てきてそろそろ覚えられない

「はぁ〜⋯⋯ねぇ、もう疲れたんだけど」


「黙って歩け」



 見世物小屋の通路を歩く二つの影。


 一人は、さっきから気怠げに悪態をついているレインコートを着た少女。


 しかし、歩く度にちらりと見える素肌がそのレインコートの下には何も纏われていないことを意味していた。



「はぁ⋯⋯露出狂(こんなの)と歩いてたらボクの格まで下がるな⋯⋯」



 そして、隣のレインコートに溜息をついているスーツ姿の少女。


 ある程度気崩されてこそいるが清潔感のある見た目に加え、背中には羽、頭上には光輪が輝き、天使のようなそれが彼女をまるで神聖なもののように見せていた。



「ねぇ、ほんとに碧雫(あおいしずく)いるの?」


「何度も同じことを聞くな」


「だってぇ〜⋯⋯さっきからずっと歩いてんのに碧雫どころか人っ子一人いないんだよ?」


「碧雫以外と遭遇する方がヤバいわ」



 天使は吐き捨てるように告げる。



「⋯⋯今現在、この建物には紅葉組もいるはずだ。そんなに人に会いたいなら大声で呼んでみればいいだろ。ボクと充分距離をとってからな」


「え゛っ⋯⋯紅葉組って四季の?う、嘘だよ嘘!あたしって孤独を愛するタイプなんだった。忘れてた〜⋯⋯!」



 レインコートは慌てたように手を振ると、再度ため息をついてから歩き始めた。



「⋯⋯ねぇ、碧雫を殺すことが、本当に『勇者』様の役に立つのかな?」


「⋯⋯」



 沈黙が苦手なのかレインコートはまたすぐに口を開いたが、告げられた疑問に対して天使の反応はさっきまでとは違った。


 しばしの間を置いてから、天使は口を開く。



「⋯⋯『役に立つ』とか、まだ言ってるのか」


「だ、だって!あたし達は勇者様のために⋯⋯!」


「ボク達が今やっていることはあの人の指示じゃない。過剰な手柄を求めて独断専行しているだけだ。お前がいくらヘラっても知ったことじゃないが、そこは履き違えるなよ」


「⋯⋯うん」



 厳しい口調で告げられた天使の言葉に、レインコートは今度こそ閉口してしまった。



「⋯⋯まぁでも、碧雫があの人の敵であることは間違いない。本人が言っていたことだ⋯⋯つまり、もしここで碧雫を殺せればボク達は確実に評価される」


「っ⋯⋯!そ、そうだよね!」



 多少のバツの悪さを感じたのか、天使は前を向いたままフォローを入れる。レインコートも調子を取り戻したようだった。



「だが、それゆえ碧雫は強いだろうな。能力者かどうかさえ明らかになっていないくらいだ」


「だ、大丈夫なのかな⋯⋯?やっぱり、あたし達だけじゃ⋯⋯」



 レインコートが不安げな様子を見せる。



「⋯⋯一つ、提案があるんだが」


「え?」


「──お前、『カセットテープ』を使ってくれないか?」


「⋯⋯は?」



 天使の発言にレインコートは顔を引き攣らせ、それからすぐに爆発した。



「──ふっ、ふっざけんな!!あたしは絶対やらないからね!使うならあんたが使いなさいよバカ天使!!」


「ボクだってあんなキモい手段はごめんだね」


「はァ!?」



 レインコートに吠えられながらもやれやれと首を振る天使だったが、その時彼女の光輪が一際輝いた。



「⋯⋯この先、誰かいるな」


「え⋯⋯あ、碧雫かな⋯⋯?」


「分からない、偵察を頼む」


「お、おっけー!」



 レインコートは履いていたスニーカーを脱ぐと着ていたレインコートまでもを脱ぎ捨て、その肢体が露になる。



「⋯⋯ねぇ、これが成功したらさ⋯⋯」


「⋯⋯あぁ、その時は⋯⋯」



「「──あたし(ボク)達が、『海蜘蛛教会』の英雄だ⋯⋯!!」」




──碧雫、ナギサ、ヴィクトリアチーム──




「ナギサ、こっちです」


「は、はいっ!」



 雫は見世物小屋の複雑な地形を迷わず進んでいく。


 彼女はナギサよりも背が低く小柄だが歩く速度は中々に速く、迷宮のような地形も相まって着いて行くのがやっとだった。



「おいおい、さっきから狭い通路ばっかじゃねぇかよ」



 ヴィクトリアがげんなりとした様子で文句を言う。


⋯⋯魔神は壁をすり抜けることができるため、狭さは苦にならないはずなのだが⋯⋯気分的な問題なのかもしれない。



「ふふ、すみません。紅葉組の進路を避ける必要があるので」


「っ⋯⋯やっぱり、あの人達はまだここに⋯⋯」



 予想はしていたことだが、ナギサはやはり緊張を感じてしまう。



「えぇ。ですが、彼女達にはもう時間がありません。出会いさえしなければ問題にはなりませんよ」


「⋯⋯?どういうことですか?」


「『鏡』を使って私達を分断し優位を取る事にも、私達を皆殺しにする事にも失敗した今、紅葉組はできる限り早く『秋』に戻らなければならないんです」



 雫は興味無さげに、なんでもないように告げる。



「例えば、私達がここから出て『紅葉組が夏にいる』という情報を拡散した場合、彼女達は無視できない損害を被ります」


「あ?あー⋯⋯分かった!他の領土からの侵略だろ?」


「ふふ、残念ながら」



 雫は楽しげにヴィクトリアの方をちらりと振り返るが、進むスピードは一切緩まない。



「確かに『春』が攻勢に出る可能性はありますが、それ以上に有り得るのは『秋』内部の抗争が激化する可能性です」


「⋯⋯内部抗争」



『秋』内部の勢力争いは、度々ニュースにもなるくらいには有名な話であり、当然ナギサも知っている事である。


 現状、『秋』は紅葉組によって一応の秩序が保たれているが、他の領土と比べて明らかに殺伐としているのも事実なのだった。



「そのため、紅葉組が今最も優先すべきなのはここから脱出し、いち早く『秋』に戻ることです。わざわざ私達と争う理由も余裕も、既にないんですよ」



「遭遇したら流石に殺されてしまうでしょうが」と雫はまたもなんでもないように告げる。



「しかしこちらにジェイソンがいる以上、遭遇のリスクは向こうにもあります。それが分かっている以上、彼女達は見取り図の通り進んでくれるでしょう」



『不死身能力者であるジェイソンと遭遇する』というのは、時間を気にしなければいけない紅葉組からすれば避けたい脅威だろう。


⋯⋯しかし今の言葉からすると、雫さんは見世物小屋の構造だけでなく、紅葉組が通るルートすら把握しているということだろうか?


 ナギサは改めて雫に底知れなさを感じた。



「ふふ、もし今本気で紅葉組を潰したいのならば、不可能ではありませんね」


「ぇ⋯⋯」



 とんでもないことを言う人だった。



「へぇ?やってやればいいじゃんかよ。アイツら気に入らねぇしな」


「ヴィクトリア⋯⋯!?」



 とんでもないことを言う魔神だった。



「いえ、興味ありません」



 しかし雫さんは本当に興味無さそうに告げ、それとほぼ同じタイミングで足を止めた。


 気づけばかなり奥まった場所まで進んでおり、サーカスのカラフルな色彩は多少落ち着いてきていた。


 そして、目の前には一目で上質と分かる扉。



「ここはいったい⋯⋯?」


「座長の私室です」



 雫は数秒扉を見つめると、そこから距離を取ってヴィクトリアの方を振り返った。



「ヴィクトリア、破壊をお願いします」


「⋯⋯あぁなるほど。このために嬢ちゃんを連れてきたのか」



 ヴィクトリアは嫌味っぽく返すが、珍しくそれ以上の言葉を重ねることはしなかった。



「よッ──」



 軽い調子に反して洗練されたフォームで打ち込まれた拳は、轟音と共に扉を吹っ飛ばした。


 ナギサは反射的に目を閉じ耳を塞いだが、雫は笑顔のままにぱちぱちと拍手を送る。


 かくして扉は開かれ、三人は座長の私室へ⋯⋯既に亡き見世物小屋トップの聖域へと足を踏み入れた。




──────────────────




「ここが⋯⋯」



 最初に抱いた感想は『本』だった。


 壁際を大きな本棚が埋めつくし、床にも本が散乱している。本以外にあるのは執務机くらいだったが、この机にももれなく本が山を成していた。


 雫は器用に床の本を避けながら興味深そうに本棚へと歩みを進め、そこに並べられた本の背表紙をひとつずつ撫でていく。



「彼は読書家だったようですね。幻想文学に学術書、幅広いジャンルの⋯⋯おや」



 雫さんが一冊の本を手に取る。そのタイトルは、ナギサにとっても馴染みのあるものだった。



「『紅月(あかつき)との邂逅』⋯⋯」


「ふむ⋯⋯かなり読み込まれていますね」


「なんだよ、その本がどうしたんだ?」



 ぱらぱらと本を捲る雫に対して、ヴィクトリアが興味深げに質問する。



「この本は『冬』を統べる『劇団』のトップ『シェイキッド・ウィリアムズ』の著作です」


「また『四季』かよ⋯⋯」



 ヴィクトリアの吐くようなジェスチャーを横目に見ながらも、ナギサは考える。



──紅月(あかつき)との邂逅。


『冬』を統べる組織『劇団』の現トップであるシェイキッド・ウィリアムズが十八歳の時に発表した演劇台本、及びそれを元にした小説本。


 発表から今日まで爆発的な人気を誇り、これがきっかけで彼は四季のトップとなったらしい。



「⋯⋯」



 見世物小屋の座長は元々『劇団』出身だと雫さんは言っていた。


⋯⋯既に除籍処分を受けているとも。


 彼はいったいどんな気持ちで、この本を繰り返し読んでいたのだろう。



「──ナギサ」


「っ⋯⋯は、はい!」



 雫の透き通るような声で意識が引き上げられる。



「私はこの部屋を調べるので、入口で警戒をお願いします」


「分かりまし⋯⋯え?」


「⋯⋯用済みってか⋯⋯」




──────────────────




「⋯⋯碧さんは、鵺とは全然違うね」


「あ?」



 扉の外、ヴィクトリアと並んだナギサは小さく呟いた。



「ほら、鵺は何かを説明する時、すごく楽しそうにするでしょ?きっと説明するのが好きなんだと思う。でも碧さんは⋯⋯」



 ナギサは数秒、言葉を選ぶように逡巡してから再度口を開く。



「──なんて言うか、ずっと何かを我慢してる感じがするの⋯⋯」


「そうか?言われても全然分かんねぇけど」


「⋯⋯前から思ってたけど、ヴィクトリアって他人に興味無いよね」


「魔神だからな」


「元は人間でしょ?」


「人でなしだったのさ。生前からな」



 ヴィクトリアはぶっきらぼうに告げる。



「⋯⋯」



 ナギサは、自分で自覚している程度には他者の表情を読み取ることが得意だったが、この時ヴィクトリアが何かを誤魔化そうとしたのか、それとも本心からそう言ったのかは判断がつかなかった。



「──それより嬢ちゃん。あの女には気をつけてくれ」


「え?」



 ナギサが言葉を返すよりも早く、話題を切り替えるようにしてヴィクトリアがはっきりと告げた。


 その様子からは、やはり意図が読み取れない。



「⋯⋯警戒する理由があるってこと?」


「⋯⋯⋯⋯いや、無いんだ」


「⋯⋯?」



ヴィクトリアは戸惑うように応える。



「⋯⋯オレサマは、何故かアイツを嫌いになれない」


「⋯⋯複雑な感情模様?」


「違う!自分でもよく分からないんだ!なんか、親しみを感じるっつうか⋯⋯」



 恋愛漫画みたいなことを言い出すヴィクトリアにナギサはやはり首を傾げてしまう。



「とにかく⋯⋯!理由は分からないが、オレサマはアイツを正しく警戒できない可能性が高い。だから、嬢ちゃんが見定めてくれ」


「⋯⋯もちろん。元々そのつもりだよ」



 ナギサは力強く頷いた。そもそも人を見定めるのを他人任せにしようだなんて思ったことなど無い。彼女にとって、ヴィクトリアの提言は当たり前のことだった。



「⋯⋯」



⋯⋯それに碧さんは、アカネ君の──



「──嬢ちゃん、誰かが近づいてきてる」


「──っ」



 ヴィクトリアの声で、思考が引き上げられる。



「しかも、二方向から同時にだ」


「すぐに碧さんを呼ぼう⋯⋯!」



 ナギサが扉に手をかけたのと同じタイミングで、向こう側から扉が開かれた。



「おや⋯⋯」



 雫は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、しかしすぐに柔らかな笑みに戻る。


 そして、ヴィクトリアへと視線を移した。



「⋯⋯誰かがこっちに向かって来てる。向こうから二人、反対側から一人。挟み撃ちの形だな」



──逃げるにせよ、どちらかとはぶつかる。


 傷を負った状態で、果たしてこの状況を切り抜けられるのだろうか⋯⋯そもそも誰なのだろう。紅葉組のルートは碧さんが把握しているはず。サーカス団員も全員殺されている今、一体誰が⋯⋯


 ナギサは焦りから再度思考に沈むが、その思考はすぐに引き裂かれた。



「──最も避けなければならないのは、このまま挟まれることです」



 雫は凛とした声で告げると、通路を見据える。



「私が二人組の方に対応します。ヴィクトリアはナギサの安全を第一に、もう片方に対して時間稼ぎを行ってください」


「え?でも⋯⋯」


「お前めっちゃボロボロだろ、大丈夫か?」



 紅葉組との衝突で、雫もかなりの傷を負っているはずだ。心配からつい声を上げてしまう。



「問題ありません。それではお願いします」



⋯⋯しかし、その心配は露ほども刺さらなかったらしい。雫は短く答えると、素早く通路の奥へと走り出した。



「⋯⋯なんなんだあの女⋯⋯」



ヴィクトリアはげんなりとした様子で吐き捨てる。



「──『妖怪探偵事務所』の皆さんかな?」



 しかし、雫が向かった方向とは反対側の通路から響いてきた優しげな声で、ナギサとヴィクトリアはすぐに警戒した態度に戻る。


 影からゆっくりと歩み出てくるその姿は、長身の男性だった。その背中には、あらゆる武器が背負われている。



「おや、子供⋯⋯いや、『魔神憑き』か。はぁ⋯⋯面倒だな」



 男は剣を一本背中から抜き取ると、眼鏡の位置を軽く直してからこちらを見据えてぼやいた。



「⋯⋯あなたは、誰ですか?」


「ん?あぁ、自己紹介がまだだったか⋯⋯すまない、もう歳でね」



 男は恥ずかしそうにはにかみながら頬をかく。背負う数多の武器が無ければ、ひと目で心を許してしまいそうな、人の良い笑顔だった。


 男はこちらを数秒見つめると、背中に背負った盾を取り出す。


 片手には剣、片手には盾。彼の優しげな印象に反して、それらの武器は酷く手に馴染んでいるように感じられた。



「──僕は傭兵団『ギャクバリ』の傭兵だ⋯⋯分かって欲しい。君達と敵対するのは、あくまで仕事だからだと」

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