第四十話 『メモ帳』が生まれた日
──あら?⋯⋯もしかしてあなた、私のことを知覚しているの?
⋯⋯⋯⋯こちょこちょ〜。あっ!やっぱりそう!ふふ⋯⋯こんにちは、メモ帳の妖精さん?
⋯⋯えぇ、もちろん分かっているわ。あなたが『魔神』という存在だってことはね。
これってつまり、私の感情があなたを産んだってことよね?まぁ⋯⋯!まさか母親になる日が来るなんて思いもしなかったわ!とっても良い気分!
だけれど⋯⋯ごめんなさい。私はあなたに良い生活を与えてあげることはできないの。
ここは『見世物小屋』で、私はここの『見世物』だから⋯⋯そう、この身体が原因でね。私の血液はとっても青くって、身体も人間とはかけ離れたモノに変異しているわ。
⋯⋯海蜘蛛って分かるかしら?私の身体には、海蜘蛛の細胞が埋め込まれているの。
だから、私はあなたと契約してあげることはできても、それ以上のことはきっとしてあげられないわ⋯⋯なのにあなたは、ここで私と契約できなければ消えてしまう。
ごめんなさい。あなたの親として、あなたに多くの選択肢を与えてあげられなくて⋯⋯
きゃっ⋯⋯!?ちょ、ちょっと⋯⋯!?身体をくすぐらないで⋯⋯あははっ!もうっ、さっきの仕返し?分かった、分かったわ降参よ!ふふっ、あはははっ⋯⋯
⋯⋯⋯⋯ふふっ、えぇ。これからよろしくね。『メモ帳』さん。
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っ⋯⋯あぁ大丈夫よ、少し痛むだけ。
もうっ、あんなに私を傷つけるなんて、失礼しちゃうわよね!私はこれでもレディなのに!
⋯⋯⋯⋯私の姿が人間に見えないから、みんな攻撃や暴言に躊躇が無いのかしら⋯⋯
⋯⋯きゃっ!?あははっ⋯⋯!もう!あなたはすぐそうやって私をくすぐる!誰に似たのかしらっ!
⋯⋯⋯⋯ありがとう。
私がこうして笑顔でいられるのは、あなたのおかげよ⋯⋯話し相手がいることがどれだけ嬉しいか!
それにね?あなたは私にとって希望でもあるの。だって、『魔神』は感情が蓄積して生まれるものでしょう?私があなたを形作ったってことは、私に感情がちゃんとあるってことじゃない?
⋯⋯だからあなたを見ると、私は感情を持つ人間なんだって、信じていられるの。
⋯⋯暗くなっちゃったわね!今日はもう寝ましょう!
⋯⋯えぇ、おやすみなさい。
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──ねぇ、良いことを思いついたの!
あなたはふわふわと浮かんで移動できるでしょう?それに、小さいから鉄格子をすり抜けられる!
それでね?私の他に見世物として捕らえられている子がいるでしょう?そう、二人の女の子。
いちばん地下にいる身体の大きい子とは演目前に運良く一度だけ話す機会があったのだけれど、もう一人の小さい子とはまだ話せていないの⋯⋯
だから、あなたを行ったり来たりさせて、あの子とやり取りできないかなって⋯⋯あっ!もしかしてこれって文通かしら!
⋯⋯あの子の牢屋は少し離れているけど、届きそう?っ⋯⋯本当に!?えぇ、お願い!あっ!先に文章を書き込まなきゃ!ほら、暴れないのっ!
⋯⋯⋯⋯あ、帰ってきた!どうだった⋯⋯ってえぇ!?大丈夫!?ふらふらしている⋯⋯のはいつもの事だけど、端が切れちゃってるわよ!?
⋯⋯うーん、まさか近づくことすらできなかったなんて⋯⋯近づいたものを全て斬っちゃうなんて、演目で見たあれはやっぱり本物の技術なのね⋯⋯
⋯⋯⋯⋯そうせざるを得ない環境で、生きてきたのかしら⋯⋯
あっ⋯⋯えぇ、ごめんなさい。今回は無茶をさせちゃったわね。ゆっくり休んで?今日も子守唄を歌ってあげるから。
⋯⋯⋯⋯あの子達にも、あなたにも⋯⋯いつか救いが訪れますように。
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⋯⋯ん?そこにいるの⋯⋯?
⋯⋯⋯⋯ふふ、やっぱり分かっちゃう?
えぇ⋯⋯私、もう長くないみたいなの⋯⋯
目もよく見えないし、手脚の感覚も無い⋯⋯
⋯⋯まぁ、人体実験の産物にしては、よく生きた方よね?ふふ⋯⋯
ねぇ⋯⋯私が死んだら、あなたは自由に生きて。
ほら、私と違ってあなたは飛べるじゃない?蝶のようにふわりと浮かぶあなたを見ていると、私まで羽を得たようで幸せだった⋯⋯
⋯⋯私はもう、自由も愛も得ることはできないけれど、私から生まれたあなたはそうじゃない。
⋯⋯ここから飛び出して、良い契約者を見つけるの⋯⋯あなたならできるわ。
げほ、げほっ⋯⋯!大丈夫⋯⋯大丈夫だから⋯⋯
ねぇ⋯⋯最後に、あなたのためだけに歌わせてくれる?
⋯⋯ふふ、ありがとう⋯⋯本当に、ありがとう。私の希望でいてくれて。
──これはきっと、これからあなたが得る自由を祝福する歌になるわ。




