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デタラメ幸福論  作者: 赤石アクタ
第一章 アルバイト面接編
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第四話 魔神についての説明

「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ」


「⋯⋯橘さん、本当に大丈夫ですか⋯⋯?」


「⋯⋯高槻、君⋯⋯大丈夫、ですよ⋯⋯お水、ありがとうございます⋯⋯」



 橘さんは、手渡したコップを思いっきり傾けて一気に水を飲み干す。



 椅子に座らせ、部屋の換気を行い、冷蔵庫にあった水を飲ませた結果、少しは体調が回復したように思うが、やはり橘さんは辛そうだった。



⋯⋯それに、橘さんも当然心配なのだがもうひとつの懸念も⋯⋯



「──ど、どどどうしようっ!?ナギサちゃん、ほんとに死んじゃわないよねっ!?顔真っ白なんですけど!?」


「そいつが死んだらまた魔神が出てくるな。安心しろ、今度こそ速攻で決める」


「決めるなぁ!いいからナギサちゃんの看病をしろ!全力でっ!!」


「僕は他人を看病したりしない。僕自身が他人の看病を必要としないからだ」


「はいはいすごいすごい!」



「⋯⋯どうしたんですか鵺⋯⋯?さっきからキャラがぶれぶれですよ⋯⋯?」



 目の前でパニックに陥っている鵺に対して、若干引きながら尋ねる。



 さっきまでは、妖しげな雰囲気を纏って橘さんに責め苦を与えていたくせに、何故か急に狼狽え始めたのだ。


⋯⋯じゃあさっきの態度はなんだったんだよ、橘さんめっちゃ苦しそうだったんだが⋯⋯?



「⋯⋯うぅ、だってぇ⋯⋯ナギサちゃん、すっごい具合悪そうだったからぁ⋯⋯でも、見ちゃった以上魔神のことは聞き出さないといけないしぃ⋯⋯それでぇ⋯⋯」


「⋯⋯それで?」


「⋯⋯⋯⋯自らの心を殺すために、雫の真似を⋯⋯」



「⋯⋯あぁ、なるほど⋯⋯」



⋯⋯言われてみれば、橘さんの喉を弄んでいた際の鵺は少し先輩に似ていた。


⋯⋯セリフも⋯⋯うん、普通に言いそうだ。


 それにあの人なら、人の首を絞めるのにも眉一つ動かさないだろうし、理に適ってはいる。


 なんだか、急にかなり似ていたような気がしてきた⋯⋯もう一回やってくれないかな?



「うぅ、ごめんねナギサちゃん。ケーキ食べる⋯⋯?」



⋯⋯それらを踏まえると、最初に満面の笑みを浮かべながら握手を求めてきたり、今目の前で半べそをかいていたりする少女こそ、鵺の素なのだろう。



「⋯⋯鵺の素って字面だけ見ると、幻の調味料みたいだな⋯⋯」


「うわーん!アカネ君がなんか猟奇的なこと考えてるー!!」



 実に感情豊かな女の子だった。



「⋯⋯はぁ、でも鵺?流石に魔神を完全スルーしようとしてたのは見逃せないよ?ナギサちゃんが部屋に入ってきた時から気づいてたよね?」


「全くだな、イカれた行動をとるのは碧雫だけにしてくれよ」


「うぅ⋯⋯」



 ジェイソンと神威に容赦なく口撃を食らい、鵺はぎゅうっと縮こまってしまう。


 どうやら鵺は、魔神のことに気づいていながらも、橘さん本人から申告されない限りはスルーを決め込むつもりだったらしい。



⋯⋯プライベートを尊重、みたいなノリなのだろうか⋯⋯?



「ごめんねぇ⋯⋯ほらナギサちゃんケーキだよケーキ」


「やめろ、その子の不調は魔力酔いによるものだ。食欲は関係ない」



 無理やりケーキを口に押し込もうとする鵺に、スーツを着たサラリーマン、クロックが頭痛をこらえるようにこめかみを揉む。



⋯⋯魔力、というのが橘さんを苦しませている原因なんだろうか⋯⋯?


⋯⋯というか、魔神とは結局なんだったのだろう?


 皆当然のように話しているが、もしかして知らなかったのは俺だけなのだろうか⋯⋯?



「あの、すみません⋯⋯その、魔神ってなんなんですか⋯⋯?」



 勇気を出しておずおずと聞いてみる。



「情弱なガキ」



 神威から厳しい一言が飛んでくる。


⋯⋯まあ、これは想定内だ⋯⋯



「あ、そっか。アカネ君は魔神知らないよね、ごめんね説明してなくて」



 幸い、鵺にとって俺が魔神を知らないという状況は不思議なことではなかったらしい。



⋯⋯本当に良かった、世間知らずなだけじゃなくて⋯⋯



「ちなみに(ひびき)ちゃんは知ってた?魔神」



 鵺は、先程から静かに部屋の隅で佇んでいる金髪のパンクロック少女に声をかける。



 彼女の名前はヒビキと言うらしい。



「⋯⋯いえ、知りませんでした。魔力、というのも初耳です」



⋯⋯本当に良かった、俺が孤独な訳じゃなくて⋯⋯



「ふっふっふ、だったら今日は、私が魔神について一から教えてあげるよ!」



 どこから取りだしたのか、伊達メガネを付けた鵺が精一杯に胸を張る。



「⋯⋯だから、その間にナギサちゃんには睡眠を取ってもらう!これはセーフ、だよね⋯⋯?」


「⋯⋯そうだな、この子ももう限界だろう。これからの事情聴取は現実的じゃない、ジェイソン」


「はいはーい、じゃあ隣の部屋のベッドに寝かせちゃうね〜、ほらナギサちゃん、頑張って〜」


「⋯⋯うぅ、すみません⋯⋯」



 ジェイソンは軽々と橘さんを担ぎ上げると、そのまま隣の部屋へと消えていった。




「よーし、じゃあまずはざっくりとした分類から始めようか」



 鵺は、目の前のホワイトボードに素早く情報を書き込んでいく⋯⋯のだが⋯⋯



「⋯⋯読めない」


「⋯⋯何のイラストですか?」


「文字だよっ!」



⋯⋯結局、板書はクロックが行い、鵺には口頭で説明してもらうことになった。



「えー、まず、魔神って言うのは簡単に言うと『付喪神』だね」


「⋯⋯付喪神?」


「神の出来損ないだ」


「神威は黙ってて」



「長年使い込まれた物体が人間の感情を吸収し、魔力に変換する。その結果、物体に取り憑くような形で自我が芽生える」


「⋯⋯なんだか、幽霊みたいですね」



 隣のヒビキさんが率直な感想を述べる。


 正直、俺も似たようなことを考えていた。



「幽霊と魔神の違いは魔力の有無だ」



 クロックが、分かりやすく箇条書きでそれぞれの特徴を書き加えていく。



「魔力について説明すると⋯⋯さっきも言ったが、魔力っていうのは人間の感情を元にして生まれる」


「魔神は、感情を魔力に変換して扱うっていうのが一番の差別点かな。幽霊とかは感情をそのままエネルギーにしちゃうんだよね」


「だから、コスパが悪くて弱い」



 クロック、鵺、神威の順で流れるように説明が展開される。



⋯⋯幽霊が実在するというのも初耳だが、彼らにとってそれらの存在は当然のことらしい。


⋯⋯ここ、探偵事務所だよな⋯⋯?



「だが、たとえ魔神として覚醒できても、結局は道具に意思が宿るだけで、できることは少ないんだ」


「そうなんですか?」


「道具に宿っただけだとな」


「⋯⋯?」


「魔神は、魔力を用いて人間と契約を結ぼうとする習性があるんだ、知性のある子達だから一概には言えないんだけど⋯⋯」


「これが特に最悪だ」



「⋯⋯人間と契約を結ぶと、どうなるんですか⋯⋯?」



 それは、まさに今の橘さんの状況そのものなのではないだろうか⋯⋯?



「基本的に魔神が提示する契約はシンプルだ。契約者の肉体を寄生先として魔神に提供する、その見返りとして、魔神は魔力を含めた力を人間に預ける」


「⋯⋯えっと、つまり⋯⋯?」


「魔力が使えるようになる」



「⋯⋯なるほど⋯⋯?」


「分かりにくいけど、これってすごいことなんだよ。自然的な魔力を人間が扱うのって、基本的に不可能だから」


「はっ⋯⋯魔力を生成して操る生物に寄生されて初めてできることだけどな。言わば寄生虫だよ寄生虫」


「魔法使いや魔女が杖とかの道具を媒介にするのも、それがないと魔力を扱えないからだな」


「⋯⋯魔法使い⋯⋯?」



⋯⋯魔法使いや魔女も実在するのか⋯⋯


⋯⋯もう何を言われても驚かなくなってきている気がする⋯⋯



「⋯⋯じゃあ結局、橘さんが具合悪そうになってたのは⋯⋯?」


「あの子はまだ契約して日が浅かったんだろう。魔神から供給される魔力に、肉体が拒否反応を起こしてるんだ。契約したての人間にはよくあることだよ」


「それなのに、ちゃんと魔神をコントロールできてて、ナギサちゃんはすごいよ!」


「できてなかっただろ」



 ついに神威のツッコミはスルーされ始めた。



「⋯⋯あー、それと⋯⋯」


「⋯⋯?他にも理由が?」


「⋯⋯あの魔神の魔力量は異常だった。量だけじゃなくて質もな」


「⋯⋯質?」



「そ、魔力には品質って概念もあるの。感情を元に生まれるもの以外に、水や草木みたいな自然のエネルギー。俗に言う『エレメンタル』からも魔力は生成できる。種類で分けるなら、魔力はこの二種類ってことになるね」


「⋯⋯」



⋯⋯こんがらがってきた。



「基本的にエレメンタルの方が魔力としての質は上⋯⋯でも、魔神がエレメンタルから魔力を生成することはほとんど無いんだけどな⋯⋯?」


「⋯⋯えっと⋯⋯」


「⋯⋯あっ!あとこれは眉唾だけど、感情も綺麗で純粋な方が質が良いって言われてるよね!」



⋯⋯一概に魔力と言っても、分類してみると多種多様らしい。



「⋯⋯ふう、こんなところかな。雫だったらもうちょっと上手に説明できるんだろうけど⋯⋯」



 鵺はホワイトボードを見つめながら、ちょこちょこと伊達メガネを弄っている。


⋯⋯一気に詰め込まれた感はあるが、まあ要点はあらかた覚えられた気がする⋯⋯気がする⋯⋯



「なにか質問ある人ー?」


「──はい」



 意外にも、隣のヒビキさんがまっすぐに手を上げた。



「はい、ヒビキちゃん!」


「⋯⋯どうして、神威さんは魔神を特別嫌っているのですか?」


「あ?」



 だるそうにしていた神威がこちらを一睨みするも、ヒビキは怖気付いたりもせず、まっすぐに神威の瞳を見つめていた。



「⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯そもそもの発生方法が気に入らない」



 純粋な瞳に圧されたのか、彼は不機嫌ながらもしっかりと答えてくれた。



「道具に蓄積する程の強い感情なんて、ほとんどが悪感情に決まってる。そう思わないか?」


「⋯⋯それは⋯⋯」


「──そんな物を養分として生まれた存在が、マトモな訳ないだろ」

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