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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第三十九話 例外ではない魔神

「⋯⋯魔神?」


「その通りでございます⋯⋯このようなご無礼をお許しください」



 目の前に浮かぶ本⋯⋯いや、メモ帳だと言っていたか⋯⋯そこから発されるしわがれた、けれど穏やかな声色には、申し訳なさと必死さが滲んでいるように感じられた。


 見た目はボロボロで端も少し切れているが、それでも魔神ゆえか独特なオーラを感じてしまう。



「⋯⋯俺に、何をしたんだ?」


「建物内の空間を捻じ曲げ、お仲間と分断させて頂きました。しかし(わたくし)に敵意はありません。どうか信じていただきたい」


「分断をした理由は?」


「それは⋯⋯」



 魔神は困ったように言い淀む。



「⋯⋯流石に、目的も分からないまま信じろと言われても、困る」


「えぇ、おっしゃる通りでございます⋯⋯その、実は⋯⋯」



 魔神は恥ずかしそうにもじもじと身体(メモ帳だが)を震わせ⋯⋯



「──あなた様以外のお二人は⋯⋯恐ろしくて⋯⋯」


「⋯⋯は?」



 小さな声で、告げた。



「その、お二人とも大型の武器を持っていましたし、服装や髪型も派手で⋯⋯」


「あー⋯⋯まぁ、確かに⋯⋯?」



 ジェイソンが着ているツナギはどう見ても血が染み込んでいるし、ヒビキはパンクロックな服装に加えて明るい金髪だ。


 そんな人間が、チェーンソーや馬鹿でかカッターを手にしているというのは、確かに恐ろしくも映るだろう。うん、改めて考えるとめっちゃ怖いな⋯⋯ヒビキに言ったら怒るだろうけど⋯⋯



「⋯⋯じゃあ、それで俺を?」


「はい⋯⋯その、話を聞いていただける可能性が最も高そうだったので⋯⋯」



 喜んでいいのか分からない評価をされて微妙な気持ちだが、とりあえず目の前の魔神が敵でないことは確かなようだった。



「それで、話っていうのは?」



 多少緊張を解き、続きを促してみる。


 魔神は、警戒を解いた俺の様子に対して安堵したように息を吐きながら、姿勢を正してこちらに向き直る⋯⋯彼の姿はメモ帳のため、あくまでそう感じたというだけだが。


 なんにせよ、魔神は改めて自らの目的を口にするのだった。



「──実は、ここに囚われている『少女』を救い出していただきたいのです」




──────────────────




「──その、あなたは魔神⋯⋯なんですよね?」


「えぇ、その通りでございます。私が姿を現した時の落ち着きようを見るに、あなた様は魔神という在り方をご存知のようですね」



 目の前を漂う魔神について行く形で、見世物小屋の地下通路を歩く。


 彼の言う『少女』の場所へと案内してくれるらしいが、進むにつれてカラフルな色彩は見る影もなくなり、辺りは薄暗くなっていった。


⋯⋯『囚われている』という言葉から推測するに、先輩の目的である『見世物小屋の奴隷』である可能性は低くないだろう。


 そのため彼のお願いを断る理由もなく、こうして先導を受けているのだった。



「一応、魔神は知っているんですが⋯⋯恐らくその魔神がかなりの例外でして⋯⋯」


「ふむ?」



 改めて考えると、他者にヴィクトリアを説明するというのは難しかった。そもそも魔神についても詳しくは無いためなおさらである。



「その、俺の知ってる魔神は人型で、しかもめちゃくちゃ強いんですよ」


「なるほど⋯⋯そういうことでしたか。確かに、私は魔神としてあまり強いとは言えないでしょうね」



 歯切れの悪い俺に対して、魔神は恥ずかしそうに苦笑して説明してくれる。



「魔神の強さは元となる物体に集まった『感情の量と強さ』で決まります。強い魔神は人型として顕現することも可能でしょう。魔力を用いた変化の一種です」


「⋯⋯詳しいですね?」



 そういえば、なぜ魔神は自らが魔神だと理解しているのだろうか?


 ふと湧いた疑問を投げかけてみる。



「それは、集まった感情のおかげです。魔神は顕現する際、感情だけでなくそこに付随する知識も自分のものとして吸収するのです。そのため、生まれた時からある程度の集合知を得ているのですよ」


「なるほど⋯⋯」


「私はこの見世物小屋から出たことはありませんが、そんな私も『四季』や『海蜘蛛』など、この大地の一般常識は持っているのです」


「⋯⋯」



⋯⋯ヴィクトリアは『四季』について知らなかったが、恐らくそれはヴィクトリアがおかしいのだろう⋯⋯最初が例外だとこういうのがややこしいな⋯⋯



「──ところで、見世物小屋は既に壊滅したという認識で良いのでしょうか?」


「え?あっ、はいその通りです」



 沈んでいた思考が引き上げられる。



「構成員は恐らく全滅しています」


「⋯⋯ふむ。もしかして、あなた方が⋯⋯?」


「い、いえ違います⋯⋯!彼らを殺したのは『紅葉組』です」


「なんと⋯⋯!?ということは、『秋』が今ここに⋯⋯?」



 魔神は驚いてこそいたが、特に感傷は見て取れなかった。



「⋯⋯む?ではあなた様はどうしてここに?」


「あー、それは⋯⋯」



 俺は少し悩んだが⋯⋯



「⋯⋯好きな人の、役に立つためです」



⋯⋯誤魔化しも特に思いつかず、結局は正直に答えることにした。



「はは、なるほど」


「すみません⋯⋯大した理由じゃなくて」


「何をおっしゃいます。他者への思いで行動するだなんて、素敵なことではありませんか」



 狭い通路に、しわがれた笑い声が響く。



「そう、ですかね⋯⋯」



⋯⋯なんだか、自らの生き方を肯定されたようで、どこかこそばゆかった。



「狭い道で申し訳ありません。この建物は酷く複雑なのです」


「いえ、大丈夫ですよ」



⋯⋯しかし目的と言うのなら、彼の目的こそ気になるというものだ。


 一応、ある程度の想像はできるが⋯⋯



「⋯⋯あの、もしかしてあなたの契約者は⋯⋯」


「む?あぁいえ。救って欲しい少女というのは、別に私の契約者というわけではありません」


「え、そうなんですか?」



 予想を裏切られ、つい間抜けな声を上げてしまう。



「⋯⋯実は、私の契約者は既に死亡しているのです」


「え⋯⋯」


「私は元々彼女の持ち物でした。それゆえ溜まった感情も多くはなく、魔力もほとんど扱えないのです」



 そう告げる魔神は、どこか寂しそうだった。



「件の少女は、私の契約者が生前気にかけていた存在でして⋯⋯私はどうしても、契約者の心配事を放っておけなかったのです」


「⋯⋯大切に思っているんですね」


「私は『彼女の物』でしたから。彼女の思いを、誰より感じられる立場だったというだけです」


「⋯⋯」



⋯⋯少し、羨ましいと思った。


 大切な人の考えを同じように理解できれば、自らの行動に疑問を抱くことも無くなるのではないだろうか。


⋯⋯俺がもし、先輩の考えや目的をはっきりと理解できたら、その時俺は安心感を覚えるのだろうか⋯⋯きっと、そうなのだろう。


──たとえ彼女の考えが、どのようなものであったとしても。



「ですが、あなた様も同じでしょう?」


「え?」


「『大切な人のためにここにいる』とおっしゃっていたではありませんか」


「それ、は⋯⋯」



⋯⋯それは違う、と思った。


 俺のうちにある感情は、きっとそれ程美しくはない⋯⋯むしろ醜いものだろう。



「⋯⋯大切な人の『役に立つ』ためですよ。結局僕は、成果を上げて褒められたいだけです」


「⋯⋯ふむ」



⋯⋯自らを、肯定されたいだけなのだ。


 それを与えてくれるのが、偶然先輩だっただけ。



「結局全部、自分のためです」


「それでよいではないですか」


「⋯⋯たとえよくても、美しくはないでしょう」


「⋯⋯潔癖なのですね」


「はっ⋯⋯ずいぶん美しい表現をしてくれるじゃないですか」



 自らの直視し難い傲慢さを誤魔化すように、ついキツイ口調で返してしまうも、魔神は特に気にした様子は無く、穏やかにふわふわ漂うだけだった。



「好意を抱いている人のために、心を燃やす。やはり私達は、似た者同士ですよ」


「⋯⋯⋯⋯そう、願っていたいです」



──願っているだけだから、駄目なのだろうけれど。




──────────────────




「──この通路を真っ直ぐ進めば、件の少女に出会えるはずです」


「分かりました。進みましょ⋯⋯どうしたんですか?」



 ようやく目的地といったところで、魔神は動きを止めた。



「⋯⋯私は、ここまでです」


「え?」



 言葉の意味を一瞬思考し、すぐにその意味へと辿り着いた。



「──っ」



──そうだ、彼は既に『契約者』を亡くしている。



「今の、あなたは⋯⋯」



 今まで接してきた魔神がヴィクトリアだけだとしても、魔神にとって『契約者』がどれほど重要な存在かは知っている。


──契約者がいなければ、魔神は存在を保てない。


 ヴィクトリアですらどうにもできないルール。目の前の魔神にとっては文字通り死活問題だろう。穏やかな様子ゆえに全く思い至らなかった。


──彼は今、死にかけているのだ。



「お、俺と契約しましょう!どうすればいいのか分かんないですけど⋯⋯っ!」


「⋯⋯はは、お優しいのですね」


「いや優しいっっていうか⋯⋯っ」



 俺はテンパりながらも慌てて魔神へと近づく。


⋯⋯ヤバい、契約ってどうすればいいんだ?橘に聞いとけばよかった⋯⋯っ



「と、とにかく契約を──」


「──これでよいのです」



 俺の慌てた声は、しわがれながらも穏やかな声に被せられた。


 目の前の魔神は弱々しく、そしてどこか恥ずかしげに漂い⋯⋯



「──実は既に、契約者から『鎮魂歌』もいただいてるのですよ」



──酷く幸せそうに、笑った。



「⋯⋯⋯⋯」


「私は幸せ者なのです」



⋯⋯彼は既に、自らの運命を受け入れているのだろう。



「⋯⋯分かりました」


「感謝致します」


「っ⋯⋯俺、高校生なんですよ」


「⋯⋯?はい?」


「多感なこの時期に、あんまショッキングな出来事とか、勘弁して欲しいんですけどね⋯⋯!いや、ほんっとーに⋯⋯!」


「⋯⋯⋯⋯はは、申し訳ありません」



 往生際悪く精一杯食い下がってみるも、魔神の決意は固そうだった。



「⋯⋯」



⋯⋯仕方がないのだろう。


 自らの死を決意した人間というのは、そう簡単には揺らがないものだ。



「⋯⋯⋯⋯」



──それに、死を決意できるというのはある意味祝福でもあるのだから。



「⋯⋯ここまで、ありがとうございました」


「こちらこそ」



 俺は短くお礼を言うと、振り返らずに通路を進み出した。



──この先に待つ鮮烈な花びらを、未だ知らぬまま。




──────────────────




「⋯⋯⋯⋯」



 通路の奥へと少年が消え、そこには浮かぶメモ帳だけが残された。



「⋯⋯(わたし)の得る自由を祝福すると、言ってくれたね」



 すると、彼の身体はまるで役目を終えたと言わんばかりにぼろぼろと朽ちていき、纏う魔力もどんどんと消え去っていく。



「⋯⋯だが、たとえ自由を手にしても、君が隣で笑ってくれなきゃ、意味が無いんだよ⋯⋯」



 ついにぱたんと地面に落ちたメモ帳は、力を振り絞って最後のページを開き、既にインクが滲んで読み取れない『名前』を懐かしんだ。



「⋯⋯不出来な魔神で、すまない」



──あぁ、我が契約者よ。



「──君を、愛している」

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