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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第三十八話 ジェイソンはカクテルを作れる

──『鏡』は『中と外』で完全に隔絶されている。


 それはつまり、中に入らなければ『魔法少女都市』には一切干渉できないということを示しており、これは当然『能力』も例外ではない。


 このルールに加えて『鏡』を破壊し得るリスクなどを勘案した結果、突入の際には『鏡』の中に入ってから『空中でヒビキが能力を発動して着地する』という離れ技を行うことになった。


 しかし、向こう側に干渉できないというルールは当然『中から外』の場合にも適応されるため、『魔法少女都市』から『鏡』までを直接ヒビキの能力で繋ぐことはできない(そんな事をすればそもそも『鏡』が破壊されるだろうが)


 では、帰りはどうするのかというと──




──────────────────




「──よし、掴んだ!!」


「うわぁ!?たかっ、高い!?」



──まずは、俺の手首から伸びた血液のロープを辿って『鏡』の位置を特定。


 ジェイソンが言うには、『鏡』には認識阻害がかけられており内側からは視認すらできないため、俺から伸びるロープが文字通り命綱となった⋯⋯マジで先輩がいてくれて良かった⋯⋯



 次に『鏡』のすぐ傍までをヒビキの能力で繋げ、ジェイソンが全員を抱えた状態でそこへと移動する。


 この場合だと移動先は『空中』なので、移動が完了した瞬間にジェイソンが『鏡の縁であろう部分』を掴む。


⋯⋯そして、一人ずつ『鏡』の向こうへと移動する。



「よし、一人ずつ移動してくれる?」


「⋯⋯」



⋯⋯この作戦はつまるところ、ジェイソンが高校生三人を片手で抱きかかえ、もう片方の手のみで空中にぶら下がる状態を長時間維持できなければ成立し得ない。


 ヒビキは大型の武器も持っているため、重量はかなりのものだろう。



「あの、ジェイソン⋯⋯大丈夫ですか⋯⋯?」


「え?うん!ゆっくりでいいよ!!」


「⋯⋯」



⋯⋯⋯⋯かっこよすぎる。




──鏡の外側──




「──先輩!ただいま戻、り⋯⋯先輩⋯⋯?」



 魔法少女都市で橘を発見し無事に鏡の外側へ戻ると、俺の運命が血を流して倒れ込んでいた。



「⋯⋯は?え、あっ⋯⋯あ、れ⋯⋯?」



 目の前の状況が理解できず、意味の無い文字列だけが口から滑り続ける。



「ただいまー!雫さん聞いてよっ!この鏡の中ってうわ雫さんが死んでる!?!?」


「死んでない!!!」



 とんでもないことを言うジェイソンに思わず叫んでしまう⋯⋯しかしそのおかげで、少し冷静さを取り戻すことができた。


 慌てて先輩に駆け寄り、状態を確認する。


 外傷は三箇所。その全てが銃創で、特に腹部の出血が酷い。



「──」



 紅葉椛(こうようもみじ)だ。あの女絶対に殺──



「──アカネ」


「っ⋯⋯先輩っ!」



 沈んでいた思考が先輩の声で引き上げられる。


 顔色こそ悪いが彼女の声ははっきりとしており、それに加えて撃ち抜かれた腹部を両手で圧迫し出血を抑えていた。



「アカネ、能力で止血をお願いします。このままだと私、あと十分と保たないので」


「え゛」



⋯⋯あまり具体的な数字を出さないで欲しかった。


 しかし、彼女の言う通り俺の能力ならば傷口を塞げる。まずは出血の酷い腹部、を⋯⋯



「⋯⋯それって、もしかして⋯⋯俺が、先輩のお身体に⋯⋯?」


「はい、お願いします」


「ちょ、ちょっと待ってくださうわぁっ!?」



 先輩は着ているドレスを躊躇なく破き、腹部の傷がよく見えるようにしてくれる。


 しかし、そんな尊いものを俺如きが直視できるわけがなかった。



「ちょっ、まっむりっ⋯⋯あぁジェイソン変わってくださいっ!!」


「え?私自分以外は再生できないよ?ジェイソンは他人の傷を治したりしないからね!」


「あぁはいはいすごいすごい!!」



 ジェイソンは頼れそうにない。



「っ⋯⋯」



 やはりっ、俺がやるしかないのか⋯⋯っ



「⋯⋯で、でででではその⋯⋯失礼します⋯⋯っ」


「はい」


「う、ぁ⋯⋯せんぱいの、ろっこつ⋯⋯っ」


「え、きも」



 ジェイソンから厳しい言葉が飛んでくるが、それに反応する余裕は無い。


 集中だ⋯⋯これは医療行為⋯⋯医療──



「──あ、できれば優しくお願いしますね」


「──ぎゃあぁっ!?!?」


「ちょっと雫さんっ!からかわないであげてよ!!」



⋯⋯飛び退いてしまった。


 ジェイソンが先輩を窘めてくれるが、目の前の彼女は可愛らしくころころと笑うだけ⋯⋯ほんとびっくりするくらい可愛い。



「あ、あぁ⋯⋯っ」



⋯⋯しかしやばい。今ので完全に心が折られた。


 手が震え、呼吸は荒くなり、緊張でどうにかなりそうになる⋯⋯いやほんとに。


 不味い、こんな状態じゃ正確に傷を塞ぐなんて──



「──アカネ」



 瞬間、細くしなやかな指に髪を撫でられた。


 驚いて顔を上げるも、先輩の腕が壁となって左右の視界が遮られる。


 俺の目には、碧雫しか入らない。



「何も不安がる必要はありませんよ。あなたは私の言う通りにしていれば、それでいいんですから」


「っ⋯⋯せん、ぱい⋯⋯」



 先輩の言葉に目を見開く。


⋯⋯そうだ、俺は傲慢にも自分の感情に振り回され、先輩からの指示を疎かにしていた。


 ただ、先輩の正しさに従えばいいだけだというのに。



「⋯⋯いや、そもそも雫さんがからかったのが原因だよね?」



 先輩のおかげで手の震えは消え、視界と意識が冴えてくる。



「──ありがとうございます、先輩」



 そうして決意を固めた俺は、迷いなく先輩の傷へと手をあぁめちゃくちゃ肌が綺麗⋯⋯




──────────────────




「──よし⋯⋯っ」



 三箇所の銃創。その全てを塞ぎきった俺は、その達成感から思わず声を漏らした。



「ありがとうございます、アカネ」


「は、はい!今はかさぶたっぽくなってますけど、数日すれば跡も残らずに剥がれるのでご安心ください!」



 といっても、あくまで傷を塞いだだけだ。ダメージが消える訳じゃないし、精神的な摩耗も当然残っているだろう。


 傷口を気遣って立ち上がる先輩から目を逸らすようにして、少し離れた位置にいるヒビキへと視線を移す。



「ヒビキ、橘はどうだ?」


「ダメね。アカネが言った通り、全身の筋肉がダメージを受けてるみたい。本人も相当の無理をして動いたと自白したわ」


「面目ありません⋯⋯」



 床に突っ伏したままの橘が弱々しい声を上げる。


『相当の無理』というのは、十中八九鏡の中でクリーチャーを倒した時のことだろう。


 何をしたのかは知らないが、あの時の動きは人間離れしているとしか言えないものだった。


⋯⋯何故かクリーチャーを食ったりもしていたし、いったい何があったというのだろうか。



「⋯⋯俺は、ドーピングだと思うんだけど」


「私は⋯⋯自傷デメリット付きの強バフだと予想するわ」


「やめて⋯⋯私がこうなった原因を考察しないで⋯⋯っ」




──数分後。アカネ、ヒビキ、ジェイソンチーム──




「──建物の内部は、やっぱりまだぐちゃぐちゃね」


「この空間拡張は、団員の能力じゃなくてマジックアイテムの影響だったってことだな」



 ヒビキとそんな会話をしながら、先頭を楽しげに歩くジェイソンへと着いていく。



 先輩が一応の復活を遂げた後、俺達は二グループに分かれることになった。といっても、本命は向こうの先輩と橘チームである。


 目的へと一直線に向かうらしい先輩達に対して、こちらは『建物内の探索及びこの空間を維持しているマジックアイテム探し』を指示された。


 先輩曰く、見世物小屋が壊滅した今、この建物が残ったままなのは色々とよくないらしい。



「そういえば、ジェイソンって『春』出身なんですか?」


「んー?」



 ふと、紅葉組と相対していた時のことを思い出した。


 あの時、確かにジェイソンは自らが『春』の出身だと言っていたのだ。



「うんそうだよ!言ってなかったっけ?」



 ジェイソンは相変わらず楽しげに周囲を見回しながら、あっけらかんと答える。



「⋯⋯なんて言うか、意外ですね」


「私はてっきり『秋』辺りの出身かと⋯⋯」


「え、ひど」



 ネットスラング的なニュアンスで言うと『秋の出身』は乱暴者、血の気が多いといった意味になる⋯⋯ちなみに『夏の出身』は単純な罵倒だ。


⋯⋯しかし、『春の出身』なんてそれだけで勝ち組コースではないのだろうか⋯⋯?どうしてジェイソンはなんか⋯⋯なんかこういう感じ、なのだろう⋯⋯?



「先輩や鵺とも『春』で知り合ったんですか?」


「そだよん、鵺にスカウトされたんだ〜。これでもクロックと神威より先に入社してるんだよ?」


「えっ、そうなんですか?」



 先輩と鵺を除けば最古参ということか。



「懐かしいなぁ〜、あの時の鵺──」




──数年前、『春』のバー ──




「──お酒ちょうだい。酔えるやつ」


「⋯⋯お嬢さん、他所から来たの?『春』じゃ飲酒は二十歳からだよ」


「むっ⋯⋯私は大人ですーっ⋯⋯大学の卒業資格も持ってますーっ⋯⋯べーっ」


「ふふっ、へぇ?」



 後ろで髪を一本に結んだバーテンダーは楽しげに目を細めると、洗練された動きで少女の前にグラスを置いた。



「⋯⋯何これ?」


「オレンジジュース。美味しいよ」


「⋯⋯」



 少女は不満げにグラスを見つめるが、結局は何も言わずにそれを一気飲みした。



「⋯⋯これじゃ酔えない」


「そう?私にはもう酔ってるように見えるけど」


「え⋯⋯」



 少女は驚いたように視線を上げる。その瞳には、目の前のバーテンダーに対する興味が浮かんでいた。



「⋯⋯お姉さん名前は?」


「ジェイソンって呼んで」


「⋯⋯本名?」


「偽名だよ。そのうち本名になる予定だけど」


「⋯⋯?」


「バーテンダーの名前なんて重要じゃないってこと。お嬢さんの名前は?」


「私は鵺、本名だよ」



 ジェイソンは絶対嘘だと思ったが、追求はしなかった。



「鵺ちゃん、何か悩んでるなら聞くよ。バーは愚痴を吐くのにうってつけだからね」


「⋯⋯お酒は出してくれないくせに、悩みは聞いてくれるんだ?」


「お酒と違って、悩みに年は関係ないからね」


「⋯⋯へぇ」



 その言葉に鵺は突っ伏していた身体を起こし、考え込むように顎を触る。


 動きが大きくて楽しい少女だ、とジェイソンは思った。



「良いね!子供の悩みを軽視しないその姿勢が良い!ジェイソンは良い大人なんだね!!」


「ふふ、ありがと。子供も法律も、軽視すべきじゃないよね」


「むぅー、だから私は未成年じゃ⋯⋯」



 鵺は子供のように頬を膨らませる。それが可愛らしくて、思わずジェイソンは声を上げて笑ってしまった。



「あー!笑わないでよ!!」


「ごめんごめん、これサービスするから許して」


「オレンジジュースじゃん!!」



 言いながらも鵺はグラスを掴む。しかし、今度は先程の一気飲みを反省してか、一口ちびっと口をつけるだけだった。



「⋯⋯」


「⋯⋯」



 しばらく無言が続いた。


 鵺はゆっくりとオレンジジュースを飲み、ジェイソンは次々とグラスを磨いていく。



「──私ね、とっても仲良しのお友達が二人いるんだ」



 オレンジジュースが半分になったあたりで、鵺が口を開いた。



「でも、その一人と最近お別れをしたの」


「⋯⋯そっか」



 ジェイソンは静かに、しかしはっきりと応えた。



「そのせいかは分からないけど、最近はもう一人の子も忙しそうでさ」


「寂しい?」


「寂しい、というか⋯⋯」



 鵺は机に突っ伏し、顔を見せないまま言葉を続ける。



「──二人に何もしてあげられないのが、悔しい」


「⋯⋯」


「⋯⋯やっぱり私は、祈り続けるだけのポンコツなんだぁ」



 鵺は顔を上げなかったし、ジェイソンは彼女の方を見なかった。



「それでグレてやることにしたのですよ。法律なんて知ったことかですよ」


「やっぱり未成年だったんじゃない。本当はいくつなの?」


「え〜?何歳に見えるぅ〜?」


「子供はやらないよそのノリ」



 分かりきっていた虚偽の発覚に対して、ジェイソンは呆れたようにため息をついた。



「潰そうとしないでよね、ここ友達の店なんだから。『春』で飲食店やるのがどんだけ面倒臭いか知ってる?」


「あはは、審査とか厳しいもんね〜」



 言いながら、鵺はぐでんとカウンターに突っ伏す。アルコールは飲んでいないはずだが、泥酔しているような動きだった。



「ねぇ、ジェイソンはなんでここで働いてるの?」


「友達に頼まれてね。手伝ってるんだ」


「やりたいこととかは?ないの?」


「あるにはあるけど⋯⋯」



 ジェイソンは誤魔化すように苦笑いをする。



「ちょっと遠い目標なんだ。こういう寄り道でもしてなきゃ、やってられないくらいにね」


「⋯⋯?大変な夢なら、寄り道してる暇なんて無いんじゃないの?」


「⋯⋯うん。だから、実際に叶うかどうかはそこまで重要じゃないのかもね。実際、今はそこそこ楽しいし」



──後天的に能力を得たとて、自分は果たして『ジェイソン』になれるのだろうか。


 最近は感じなくなってきていた泥のような疑問が、ジェイソンの内から顔を出す。


 彼女はそれを振り払うように、話題を変えようと──



「──疑ってるんだね」


「え?」



 話に区切りを付けた気になっていたジェイソンは、響いた冷たい声につい顔を上げてしまった。



「ジェイソンは自分の夢が叶うかどうか疑ってるんだよ。そして、他者を利用してそんな自分を誤魔化してるんだ」


「⋯⋯」



 鵺はグラスの縁を指でとんとんと叩きながら、淡々と続ける。



「優秀で決断が早いから、『とりあえず誤魔化す』という判断をすぐに選んで夢に対しての迷いを器用に誤魔化してるんだろうね」


「君は⋯⋯」


「迷わず夢を追えたらそれがいちばんなんだろうけど、頭が良いからそれより早くブレーキをかけちゃう⋯⋯そのくらい遠大な夢なのかな?」


「⋯⋯私は、疑ってなんて⋯⋯」


「疑ってるよ」


「⋯⋯鵺ちゃん、さっきから好き勝手──」


「──今、私の名前を偽名だと思ってるみたいに、ね」


「⋯⋯」



 バーテンダーとしてポーカーフェイスを保つ技術を会得していたジェイソンは、ここまであっさり内心を見抜かれたことに多少の驚きを感じていたが、当然それを表には出さなかった。


 目の前の少女には、まるで全てを見透かされているような気がしてしまうが、しかしそれでも冷静さを意識する。



「⋯⋯ふぅ⋯⋯だって、偽名でしょ?」


「本名だよ」


「まだそんなことを──」


「──だって本名っていうのは、大切な人に呼ばれたい、一番好きな名前のことでしょ?」


「──」



 何気ない言葉だったのだろう。


 きっと彼女は本心からそう考え、思ったことをそのまま口にしただけなのだ。


 しかしその言葉は、ジェイソンに軽くない衝撃を与えた。


 彼女が半ば自虐的に名乗ったジェイソンという偽名の意味が、目の前の天真爛漫な少女によって変わった⋯⋯変えられてしまったような熱を感じる。



「⋯⋯⋯⋯」



 冷めやらぬ興奮がジェイソンを包み、それにあてられた彼女は昔のように⋯⋯いや、本来の彼女のように一瞬で決断した。



「⋯⋯?ジェイソン?」


「ちょっと⋯⋯ちょっと待ってて」


「え?なに?え動きはや」



 鵺の返答を待たず、ジェイソンは素早くカウンターの奥へと姿を消し、そして一分も経たずに戻ってきた。



「──バイト、辞めてきた!!」


「え?」


「私、君の近くにいたい!そうすればジェイソンに近づける⋯⋯ううん、なれると思うんだ!!」


「え?え?」



 鵺は目の前で起きたスピード退職を未だ処理しきれず、疑問符だけを垂れ流す。しかし、ジェイソンはそれを待てるような人間ではなかった。


 彼女はこれから、迷いなく夢へと突き進むだけなのだから。



「⋯⋯はっ⋯⋯!ちょ、ちょっと待って!!辞めたってほんとに!?引き継ぎとか未払いのお給料は──」


「大丈夫!そもそも私正式な従業員じゃないし、お給料も貰ってなかったし!」


「それはそれで問題じゃない!?法律を軽視してない!?それにまだ私の支払いも──」


「──それも大丈夫!!私のバイト代ってことで交渉したから!」


「今まで全部の!?問題じゃないそれ!?」


「大丈夫!!!」


「さっきから何その自信!?!?」



 律儀に一つ一つツッコミを入れる鵺を脇に抱えながら、ジェイソンは楽しげにバーの出口へと走る。



「ふふ⋯⋯」



 これからの日々に、思いを馳せながら。



「──君との出会いで、お釣りがくるくらいだよ」




──────────────────




「⋯⋯よし、進もっか!」


「え゛ぇ!?今のは過去を回想してくれる流れじゃなかったんですか!?」



 とんでもないスカしを食らった。



「俺の知らない先輩を知りたかったのに⋯⋯」


「詩的ね」



 ヒビキが肩をぽんと叩いてくれる。



「ふふ〜ん、『びっくりどんどか箱』はどこかな〜」



 そんなやり取りの間にも、どうやらジェイソンはこの空間を形作っているマジックアイテムに対して勝手に名前をつけていたらしい。自由すぎる。



「この建物は複雑だし、迷子にならないように気を付けてね、二人とも!!」


「ははっ、ジェイソン。僕らはもう十六ですよ?流石に迷子になんてなりませんって」


「あははっ!それもそっか!!」


「そうですよ!はっはっは!!」


「あはははははははっ!!!」


「う゛っ、その笑い声はトラウマが⋯⋯っ」


「え、何があったの⋯⋯?」




──数分後──




「──やっべー!迷ったぁぁぁっ!!」



 迂闊だった。気づいたら普通に迷っていた。


 カラフルな色彩こそ多少落ち着いたが、薄暗い通路が入り乱れるように伸びている相変わらずの謎空間。


⋯⋯ここ程、迷ったら絶望的な場所ってあるだろうか⋯⋯普通に『春』のテーマパーク以上の入り組み具合では⋯⋯?



「⋯⋯いや」



⋯⋯いや、これは流石におかしい。


 見世物小屋内部がいくら複雑だろうと、流石にそんな簡単に二人とはぐれる訳が無い。


 俺自身、特別方向音痴ということもないし、何より圧倒的な存在感を放つジェイソンがいるにも関わらずはぐれるのは現実的じゃない⋯⋯隙あらばチェーンソーを起動させるような人なんだぞ。


 つまり、これは⋯⋯



「──そこにいるやつ、出てこい」



 通路の隅、完全な暗闇に向かって声を上げる。



「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯しかし、正直何か確信があった訳ではなく、部屋にいる時とかに意味もなく『見てるのは分かってるんだぞ』と当てずっぽうで言ってみる感覚に近かった。



「⋯⋯バレていましたか」


「え?」



 なんとなくの勘が三割、とりあえずの威嚇が七割くらいのブレンドで放った無責任な言葉は、しかし以外にも的中したらしい。まじか。



「⋯⋯ばっ、バレバレだったさ⋯⋯!さぁ、姿を見せ、ろ⋯⋯は?」



 驚きながらもなんとか声の方向に反応するが、しかし俺はその姿を見て素っ頓狂な声を上げてしまった。


 ふわふわと目の前を漂う『物体』はこちらの警戒心を忘れさせる程の神秘さに包まれており、開いた口が塞がらない。



「──本⋯⋯?」


「正確には、メモ帳でございます」



 俺の目の前に浮く端が切れたメモ帳は、礼儀を示すように空中でゆらりと回転する。


 俺はその『在り方』を知っているはずだったが、なにぶん唯一のサンプルケースがとびっきりの『例外』だったために、すぐにはその存在を理解できなかったのだ。


そのため、メモ帳から発せられるしわがれた声が自ら正体を明かして初めて、俺の疑問符は解消されることとなった。



「──更に言うならば(わたくし)、『魔神』にございます」



──こうして俺は、人生で二体目の魔神と邂逅することとなった。

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