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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第三十五話 魔法少女都市

──鏡の内側。ナギサが呑み込まれた直後──




「──うぅ⋯⋯」



 ぼんやりとした意識が段々と鮮明になっていく。



「嬢ちゃん!目を覚ましたか!」


「⋯⋯ヴィク、トリア⋯⋯?」



⋯⋯どうやら気絶してしまっていたらしい。


 聞こえてくる安堵の声とともに、目の前で自身の意識とリンクしたような⋯⋯いや実際リンクしている魔神の姿が形を成していく。



「落下するまでよく意識を保ったな!おかげでオレサマが落下の衝撃を殺せたぜ!」



⋯⋯そうだ、確か『見世物小屋』で爆発に巻き込まれて⋯⋯そして、爆風で飛んできた鏡にぶつかりそうになった。


 咄嗟にヴィクトリアが前に出てガードしてくれたけれど、何故か二人とも鏡に吸い込まれてしまって、そして気づいたら空中を落下していたのだ。



「着地した時の衝撃で少し気を失ってたけど、恐らくそこまで長時間じゃねぇ」


「守ってくれたんだね、ありがとうヴィクトリア」


「嬢ちゃん、着地した時『ぐべっ』て言ってたぞ」


「その情報はいらなかったかも」



 身体を起こしながら、周囲を見渡す。



「ここは、どこなんだろう⋯⋯?」



 周りは普通の住宅街のようだが当然見覚えは無く、また少し寂れているように感じられた。


 あの鏡の影響でここに転移したのだとしたら、果たして戻れるのだろうか。



「──嬢ちゃん、恐らくここは『魔法少女都市』だ」


「『魔法少女都市』⋯⋯?」



 聞いたことの無い単語だが、ヴィクトリアはこの場所に心当たりがある様子だった。



「色々調べてた時に知ったんだ。『魔法少女』と『魔法少女都市』についてな」


「⋯⋯」


「嬢ちゃん?」


「⋯⋯私、その情報共有されてない」


「⋯⋯⋯⋯こ、コホン!まず『魔法少女』についてだが!」



 誤魔化すように咳払いをし、ヴィクトリアは説明を始めた。



「嬢ちゃん、見世物小屋に入る前、ゴスロリ女が魔力の種類について説明してたのを覚えてるか?」



『ゴスロリ女』は恐らく碧雫(あおいしずく)さんのことだろう。



「うん、確か『自然的魔力』と『人工的魔力』だよね?」



 今でこそヴィクトリアとの契約によって多少は魔力を扱えるナギサだが、『夏』の人間である彼女にとってやはり魔力は縁遠い⋯⋯というか、契約する以前は存在すら知らないものだった。


 そのため、科学技術で魔力を作れるなんて話は彼女にとっても驚きだったのだ。



「⋯⋯落ち着いて聞いてくれ。『魔法少女』っていうのは『人工的魔力を用いて改造された少女』を意味する」


「っ⋯⋯!?それっ、て⋯⋯」


「──『魔法少女』は、人体実験の産物なんだ」



 絶句してしまうナギサを気の毒そうに眺めながらも、ヴィクトリアは説明を続ける。



「⋯⋯そして『魔法少女都市』っていうのは、『魔法少女』の試験場⋯⋯実験室だな。外部とは隔絶されてるっぽいが、この都市も『夏』のどこかに実在するはずだ」


「⋯⋯っ」



⋯⋯土地が広大な『夏』は、『春』が行う大規模実験に使われることも少なくない。



「じゃあ、この都市にもその『魔法少女』が⋯⋯?」


「⋯⋯どうだろうな。見た感じ整備されてる感じもしないし、既に放棄されてる可能性もある」



 ヴィクトリアは辺りを見回し、薄暗い路地裏の方向を睨みつける。



「だが、敵はいるみたいだ」


「⋯⋯敵?」


「さっき実験って言ったろ?戦闘能力を測るために、これまた『人工的魔力』で作ったクリーチャーを用いることが多いらしい。人体実験と生物実験を同時に行う訳だ」



 ヴィクトリアは吐き捨てるように告げる。



「敵っぽい魔力は感じられるが『魔法少女』っぽい魔力は感じられないな」


「⋯⋯分かるものなの?」


「魔力を扱う生物は当然魔力を纏ってる。人型かそうでないかの見分けは簡単につくぜ」



 未だ魔力を捉えることも難しいナギサにとっては不思議な話だった。



──轟音。



「──ッ、なんだ!?」


「ヴィクトリア!あそこの鉄塔!」



 突如響いた轟音に振り向くと、鉄塔に巨大な化け物が絡みついていた。


 イグアナに似たような身体から幾つもの触手が伸びている上、触手が動く度に体液のようなものが噴き出しており、それを本能的におぞましく感じてしまう。



「あれが、クリーチャー⋯⋯?」


「⋯⋯あぁ」



 身体から生えた触手が、手当たり次第に周囲を破壊している。



「な、何とかしないと⋯⋯!」


「待て嬢ちゃん!今優先すべきはここからの脱出だ!目立つ行為は避けよう!」


「でも⋯⋯!」


「大丈夫だ!さっきから人っ子一人いないだろ?あれが出てパニックになってる様子も無い!ここに人間はいないんだ!」



 言われて気づく。この都市には人の気配が一切無い。つまり被害を被る人そのものがいないのだ



「⋯⋯」



⋯⋯ならば確かに、リスクを負って戦いに行く必要は無い。



「⋯⋯分かった。じゃあヴィクトリア、とにかくあの鏡を探して──」


「──」


「⋯⋯え?」



──少女だ。


 いつの間にか、隣に青髪の少女が現れていた。


 隣に立たれるまで全く気づけなかった程の静けさ⋯⋯しかしその理由はすぐに分かった。


──その少女は、一切の音を発していなかったのだ。


 足音から服の衣擦れ音、そして──



「──歌ってる、の⋯⋯?」



 必死に開いた口からも、一切の音が聞こえてこなかった。


 虚ろな目をした少女はナギサに気づいた様子すら無く、ただ鉄塔のクリーチャーに向かって歩を進めている。



「ぁ⋯⋯ま、待って⋯⋯!そっちは危な──」


「──やめろ嬢ちゃん」



 ナギサは呆気にとられた身体を奮い立たせて声をかけようとするも、ヴィクトリアが遮るようにそれを制した。



「──『魔法少女』だ」


「っ、さっきはいないって⋯⋯」


「あぁ、見つけられなかった⋯⋯あいつ、魔力量が少なすぎる」


「それって──」



 ナギサが言葉の意味を問おうと振り返る瞬間、もう一つの人影⋯⋯赤髪の少女が視界に映る。



「っ、もう一人いる⋯⋯!」


「『魔法少女』が二人⋯⋯」



 もう一人の方は建物の屋上を跳び、素早い動きでクリーチャーに飛びかかる。そのまま接触すると、クリーチャーが苦しそうに悶え始めた。



「何、してるんだろう⋯⋯?」



 遠くからではよく見えない⋯⋯!



「うーん⋯⋯うわっ⋯⋯!?」



 必死に目を凝らしていると、急に遠くの光景が鮮明に見えるようになった。理由は分からないが、すぐさま赤髪の少女へと注目する。



「⋯⋯焼け焦げてる⋯⋯?」



 クリーチャーの身体は高温で熱されたようにぐずぐずになっていた。煙が上がる程にその熱は強力らしい。


 らしいのだが⋯⋯



「っ⋯⋯!?あの子の腕まで⋯⋯!」



 少女の方からも煙が出ている。


 ボロボロのコスチュームからちらりと見える腕は、酷く焼けただれていた。


──熱を、制御できないのだろうか。



「──」



 赤髪の少女がクリーチャーから離れた瞬間、クリーチャーの身体が引き裂かれる。


 見れば、青髪の少女がクリーチャーに向けて歌うように声を張り上げていた⋯⋯いや、実際には彼女から音は出ておらず、そう見えたと言うだけなのだが。


 連続して攻撃を浴びたクリーチャーだが、未だ決定的なダメージは通っておらず、触手をうねらせて魔法少女達の隙を伺っている。



「っ、助けないと⋯⋯!」


「待て嬢ちゃん⋯⋯!」


「このままだとあの子達が⋯⋯!」


「──あいつらはもうどうにもならない」


「──っ!?」



 震えながらも立ち上がろうとするナギサに対して、ヴィクトリアは冷徹に告げた。



「身体を見れば分かる。『魔法少女』っていうのは、定期的に身体をメンテナンスしなくちゃいけないんだ」


「え⋯⋯?もし、かして⋯⋯」


「──あいつらは長いことメンテナンスを行っていない、少なすぎる魔力量はそのせいだ」


「⋯⋯っ」



──ナギサは逡巡する。



「⋯⋯あの子達も一緒に鏡で向こうに連れていくのはどう?」


「それも無理だ、首元を見ろ」



 少女達の首元に目を凝らすと、点滅する首輪が目に入った。



「⋯⋯あれ、は⋯⋯?」


「脱走防止だろうな、『魔法少女』とは別の魔力が流れてる、恐らくはそういう『マジックアイテム』だ」



──『魔法少女都市』の外にも、連れ出せない。


 放棄されたであろう『魔法少女』に対して、逃亡阻止用の外れない首輪。


 救いの無い話だ、とヴィクトリアは思った。



「──決めた、あのクリーチャーを倒そう」



 既に見捨てることを決め、同情を向け始めていたヴィクトリアは、決意したようなナギサの声に引き戻された。



「⋯⋯は?嬢ちゃん話聞いてたか!?クリーチャーを倒したとしても、アイツらを助けるのは無理だ!」


「だとしても、目の前の光景は放っておけないよ。やれるだけやってみよう」



 強い意志を感じさせるナギサの言葉に、ヴィクトリアはため息をつく。



「⋯⋯なぁ頼むよ、ちょっと落ち着けって──」


「──洋館で戦った時」


「⋯⋯え?」


「雷で貫かれた時とか、ダメージを受けても出血が少なかったの⋯⋯きっと、ヴィクトリアが何かしてくれてたんだよね?」


「なッ⋯⋯」


「それに今も、急に遠い距離を鮮明に見通せるようになった。これもそうでしょ?」


「⋯⋯待ってくれ、嬢ちゃん」


「──きっと、魔力で肉体を強化してくれてたんだよね?」


「──ッ」



 ナギサの推測は当たっている。


 ヴィクトリアは今までにも、魔力の付与と言った形でナギサの肉体を強化していた。


⋯⋯この事実を隠していたのは、肉体強化の方法を知った場合、ナギサはきっと自ら積極的に戦おうとすると分かっていたからだ。


 そして、そんなヴィクトリアの推測もまた、完璧に当たっていた。



「お願い、教えてヴィクトリア」


「ダメだ!そもそもオレサマはあの『魔法少女』達を助けるのには反対だ!頼む嬢ちゃん、考え直し、て⋯⋯」



──ヴィクトリアは感じた。



「──ん⋯⋯覆うってよりは体内に巡らせるって感じかな⋯⋯?そっか、激しい動きに身体の内部が耐えられなかったら大変だもんね」



 自らの持つ魔力が契約者へと流れていくのを。



「──ッ」



──契約者の持つ権限⋯⋯!


 ヴィクトリアは、目の前の少女が天才的センスで魔力を操る姿を、ただ眺めることしかできなかった。



「──お願いヴィクトリア、私に協力して」



──そして、既に目の前の契約者を止める手段は残されていないことを、静かに理解した。




──────────────────




「──はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ッ」



──今日、殺される。


 鉄塔に立つ赤髪の魔法少女はそう直感した。



 自分達を作った博士に見放されてから、身体も魔力も錆び付くばかり。


 残されたのは出られない鳥籠と逃亡阻止用の首輪、そして何故か無限湧きするクリーチャーだった。


⋯⋯そもそも欠陥だらけの魔法少女なのに、こんな仕打ちはあまりにも酷ではないだろうか。



「⋯⋯いや⋯⋯欠陥だらけだから、捨てられたのよね⋯⋯」



 自嘲気味に一人呟くが、彼女は決して諦めた訳ではない。


 彼女は心配そうにこちらを見上げる青髪の少女、自らの相棒へと視線を向ける。



「⋯⋯」



──あの子には、少しでも長く生きて欲しい。


 既に都市内部には、食料もほとんど残っていなかったが、それでもどうにか生き延びて欲しいと願っていた。



「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯もしかしたら、彼女よりも先に死にたいという醜い願望を、必死に正当化しているだけなのかもしれないが。



「⋯⋯ふぅー⋯⋯ッ」



 かくして彼女は決断した。


 目の前のクリーチャーを睨みつけ、なけなしの魔力と命を燃やして文字通り熱に変換すれば、焼けただれた腕にさらに激痛が走る。



「──ぐ、ぁ⋯⋯ッ」



──あたしは今日殺されるが、それはお前も同じだ⋯⋯ッ


 決意を胸に一歩踏み出した瞬間──



「──は⋯⋯ッ」


「⋯⋯え?」



 目の前のクリーチャーが、弾けた。


 それをやったのが自分でも、ましてや相棒でも無いことは一目で分かった。



「なんて、綺麗な魔力⋯⋯」



 キラキラと輝く生命力に満ちた魔力は、自分達の纏うものとはまるで別物に感じられた。


 魔力の持ち主はクリーチャーの死体の近くに立ち、こちらを見つめている。


⋯⋯彼女は誰なのだろう、私達と同じ『魔法少女』なのだろうか。



「うっ⋯⋯」



 痛みと空腹で意識が朦朧とするが、せめてお礼を言おうと踏みとどまる。


 そして口を開こうと──



「──あむっ⋯⋯!」


「⋯⋯⋯⋯え゛?」



⋯⋯思わず、呆けた声を上げてしまった。


 なにせ目の前の少女がやったのは、目を疑いたくなるような事だったのだ。



「⋯⋯もぐもぐ⋯⋯ごくんっ⋯⋯!」


「⋯⋯え、え?あんた、なにを⋯⋯?」



──彼女は、クリーチャーの死体を食べ始めたのだ。



⋯⋯え、嘘でしょ⋯⋯?あんなグロい見た目してるのに⋯⋯?そういう趣味⋯⋯?あたし達が閉じ込められてる間に、外ではああいうのが流行りだしたの⋯⋯?



 焦がれていたはずの外への憧れが少し無くなり、顔を引き攣らせて固まってしまう。


 ちらりと見ると、愛しの相棒も全く同じ顔をしていた。



「ヴィクトリア⋯⋯!どう⋯⋯!?」


「⋯⋯⋯⋯よし!大丈夫だ!毒は無し!栄養も魔力もそこそこだ!」


「⋯⋯え?」



 ゲテモノ食い少女が虚空に問いかけると、何故か金色に光る甲冑が彼女の傍に現れる。


 甲冑の言葉を聞いた彼女は心底安心したように胸を撫で下ろし、こちらを見て何故かサムズアップを決めてきた。



「──意外とイケます⋯⋯!」


「「⋯⋯⋯⋯」」



──いや何が!?



「⋯⋯⋯⋯勝手なことだったら、ごめんなさい」


「ッ⋯⋯!?ま、待って⋯⋯!」



 彼女は何故か申し訳なさそうに謝ると、現れた時と同じように、素早い動きで消えてしまった。



「⋯⋯あの子は、いったい⋯⋯」



⋯⋯魔法少女である私達よりも魔法少女らしく、颯爽と現れて嵐のように去っていった。


 唖然としている相棒と目を見合わせる。



「⋯⋯」



 相棒はしばらくの逡巡の後、音を立てずに鉄塔を上がってクリーチャーの死体のそばにしゃがみ込んだ。



「⋯⋯あの子、食べてた⋯⋯よね⋯⋯?」


「⋯⋯」コクコク


「栄養と、魔力があるって⋯⋯」


「⋯⋯」コクコク


「⋯⋯今まで数え切れないくらいクリーチャーを殺してきたけど、食べるなんて考えもしなかったわ⋯⋯」


「⋯⋯」コクコク



 極限的状況ゆえか、無限に現れるクリーチャーを『そういう存在』としか認識できていなかったのだ。



「あと見た目キモいし」


「⋯⋯」コクコクコクコク



 相棒はしばらく死体を眺めていたが、やがて目をぎゅっと瞑り、口を大きく開けた。



「⋯⋯っ」カプッ


「えぇ!?ちょ、あんたっ、大丈夫なの!?ぺってしなさいぺって⋯⋯!」


「⋯⋯」モグモグ



 音無くクリーチャーを頬張る相棒に慌てていると、彼女は飲み込むより早く次の一口にかぶりついた。



「⋯⋯あん、た⋯⋯」


「⋯⋯っ」ポロポロ



 涙を流しながら必死に咀嚼をする相棒の姿に、彼女は形容しがたい感情を抱きながらも相棒を抱きしめる。



「⋯⋯あたし達、さ⋯⋯こんな感じだし⋯⋯いつまで生きられるかとか、全然分かんないけど⋯⋯」


「⋯⋯」グスッ


「──これで、餓死って結末は無くなった、よね?」



 彼女は愛しの相棒の目を見つめ、笑顔を見せる。


 こうして彼女を励ますのは今回が初めてでは無いが、今までは虚勢を張っているだけだった。


──しかし、今は⋯⋯



「ほら、あたしにも一口ちょうだい。全部あんたが食べちゃう気?」


「⋯⋯⋯⋯」コクコク


「いや分けろよ!!」




──────────────────




「はぁ⋯⋯はぁっ⋯⋯」


「⋯⋯嬢ちゃん、大丈夫か?」


「うぅ、口の中がじゃりじゃりする⋯⋯」


「まぁ、そりゃ美味くはないよな」


「うん⋯⋯私、かなり甘党だから⋯⋯」


「それは絶対関係無いと思うぞ」



 魔法少女達から離れた場所で、ナギサとヴィクトリアは立ち止まった。


 より正確に言うならば⋯⋯



「──う、ぁ⋯⋯ッ!?」



──ナギサの肉体が限界を迎えたのだ。


 彼女は魔力で肉体を強化し、一瞬でクリーチャーまでの距離を詰め、一撃で対象を屠った。


 魔力を身体に流す方法、また攻撃の瞬間の魔力放出。どれをとっても天才的な魔力操作だったが、それに肉体が耐えられるかは別問題である。


 肉体が破壊されないよう無意識下で出力をコントロールしてはいたが、それでも全身の筋肉にダメージが入っているのだ。


 つまり──



「──ぜ、全身筋肉痛かも⋯⋯!」


「絶対そんな単純な話じゃないと思うぞ」



 筋肉痛なのは間違いないのだが、それに加えて瞬間的な魔力放出による魔力酔いや、クリーチャーを食すというトンデモ行為による精神的疲労など、割と散々な状態であった。



「おいおい嬢ちゃん、ホントに大丈夫──」


「──私、優柔不断なんだ」


「⋯⋯え?」



 座り込んで俯いたまま、ナギサは一息に告げた。



「昔から、何かを決める時は絶対両親に相談してからだったの⋯⋯学校の部活も、元々バスケ部って決めてはいたけど、結局ギリギリまで両親と話し合ってた⋯⋯」


「⋯⋯何を、言って⋯⋯」



 ヴィクトリアにはナギサが何を言いたいのか分からず、ただ彼女の言葉を待つことしかできない。



「今までは、それでいいと思ってたの。親離れできないのはちょっぴり気にしてたけど⋯⋯私、お母さんもお父さんも大好きだし、いいかなって思ってた⋯⋯」


「⋯⋯待ってくれ、嬢ちゃん──」


「でも──」



 顔を上げ、こちらを捉える力強い瞳を見た瞬間、ヴィクトリアは確信した。


⋯⋯洋館でも感じたあの感覚の正体を。



「──これからはそれじゃ、間に合わないんだ」



──即ち⋯⋯自分が一人の少女の人生を、完全に破壊してしまったという真実を。



「嬢、ちゃん⋯⋯おれっ、オレサマは──」


「──橘ー!?いたら返事してくれー!!」



 ヴィクトリアが、何かを取り戻そうとするかのように口を開いた瞬間、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「っ、アカネ君⋯⋯!」



 聞こえてきた友人の声に、ナギサは明るい表情を見せ、声に応えようと痛む身体を奮い立たせる。



「アカネ君──」


「──さっき鉄塔で化け物食ってるのが見えたんだけど、俺の見間違いだよなー!?橘ー!?」


「はぁ⋯⋯余計なこと言わない。絶対アカネの見間違いなんだから」



「「⋯⋯⋯⋯」」



⋯⋯返事をするのは、上手い説明を思いついてからにしようと、ナギサは決意した。

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