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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第三章 見世物小屋編

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第三十一話 見世物小屋

──『見世物小屋』


 表向きには移動式のサーカス団として活動する、どの領土にも属していない組織。


 団員の能力者が芸を披露したり、希少な『マジックアイテム』を用いたパフォーマンスなどが行われる。


 しかし、裏では『マジックアイテム』の売買や、奴隷を用いた過激なコンテンツをスポンサーに向けて提供しており、これが主な収入源となっている⋯⋯らしい。




──────────────────




「──その『マジックアイテム』ってなんなんですか?」


「不思議な道具だよ〜」


「⋯⋯」



 聞きなれない言葉について質問してみるも、隣のジェイソンから帰ってきたのは適当な返事だった。



「語源という意味では『魔力を用いて作られた道具』の事です」



 前を歩く先輩がこちらを振り返って説明をしてくれる。


⋯⋯『魔力』とは魔神が扱うエネルギーだったか。通常、人間には扱えないとも聞いた気がするが、先輩の口ぶりから考えるに、道具として加工するのは可能なのかもしれない。



「しかし、現在は科学技術で魔力を生成できるようになったので、単純な工業製品を指しても使われる言葉ですね」


「え、魔力って作れるんですか?」


「『春』では魔力についても盛んに研究されているんです。といっても、『春』以外では未だ馴染みのない言葉ですけどね」



 先輩は当然のように『春』の情報を暗唱する。



「魔神が生成する魔力を『自然的魔力』と呼ぶのに対して、科学技術で作られたものは『人工的魔力』と呼ばれます」



 曰く、『自然的魔力』の方が質が高いらしい。



「『人間の感情や思いをエネルギーに変換する』というのが『魔力』の定義です。この機構が備わった道具を『マジックアイテム』と呼びます」



 魔神は『人間の感情を魔力に変換する』という特性を持っているのに対し、『人工的魔力』はそれを科学技術で再現した成果物⋯⋯ということだろうか。



「実は、事務所にも一つだけ『マジックアイテム』があるんですよ」


「え!?本当ですか?」


「ふふ、良かったら探してみてくださいね」



 頭の中で事務所を思い返してみるが、全く心当たりがない。



「でも元々は、『魔法使い』の作った道具の事を『マジックアイテム』って呼んでたんだよね?雫さん」


「あら、博識ですねジェイソン」


「やった、褒められたっ!」


「くっ⋯⋯!」



 羨ましい⋯⋯!



「⋯⋯それって、魔法使いも本当にいるってことですか?」



 隣を歩いていた橘が、不思議そうに質問する。



「確かに、昔は存在していましたね」


「⋯⋯?昔ってことは⋯⋯」


「──魔法使いは、既に全員死亡したとされているんです」


「え⋯⋯」



 突然の言葉に、思わず絶句してしまう。



「そもそも魔法使いという呼称は、魔力の探求を目的とした組織『ほうき星』の構成員を指す言葉なんです」


「あっ!『ほうき星』!私覚えてたよそれ!!ほんとだよ雫さん!」


「ふふ、流石ジェイソンです」


「やった!」



⋯⋯どうやらジェイソンは、だいぶ先輩に懐いているようだ。



「『春』の技術力は現状、『ほうき星』の作った『マジックアイテム』には遠く及びません」


「だから『ほうき星』の作ったマジックアイテムはすっごく貴重なんだよ!ほぼ都市伝説だけど!」



⋯⋯なるほど。


『ほうき星』が既に壊滅しているということは、それを作れる存在がもうこの大地にいないということか。


 つまり、『ほうき星製のマジックアイテム』はロストテクノロジーということになる。



「『ほうき星』の技術力は本当に凄まじく、未だ科学技術で再現できないものも少なくありません」


「すごい集団だったんですね⋯⋯」


「魔力に対する知見や技術力もそうですが、彼らは面白いエピソードにも事欠きません。調べてみると楽しいですよ」


「へぇ、例えばどんな?」



 面白いという言葉に反応したのか、橘と契約している魔神⋯⋯ヴィクトリアが姿を現す。



「そうですね⋯⋯例えば『魔眼』のお話などがあります」



『魔眼』も、未だ科学技術で再現できないアイテムのひとつらしい。



「むかしむかし⋯⋯とある魔法使いが、魔力をより精密に視認するための魔眼を作成し、自らの両目を取り替えました」



 自らの目を指さして、軽くウインクをする先輩が可愛らしい。



「しかしその後、彼は目に映る魔力の美しさに感涙し、涙が止まらなくなってしまったのです」


「ヤバそいつ」


「彼は仲間に協力を仰ぎ、涙をエネルギーに変換する機構を魔眼に組み込んでもらいました」


「涙を⋯⋯?」


「エネルギーに⋯⋯?」



 どうなるんだそれ⋯⋯?



「そうして彼は、『目からビームが出る魔法使い』となり、この大地に名を馳せることとなったのでした」



 先輩が話の終わりを告げるように、手をぽんと叩いた。



「「⋯⋯」」



⋯⋯なんというか⋯⋯



「ただの面白集団じゃないですか⋯⋯」


「めでたしめでたしじゃねぇだろ」



 俺とヴィクトリアが思い思いに感想を告げる。


⋯⋯正直、すごく興味の湧く話だった。



「──楽しそうなところ悪いんですけど、もうすぐ着くんじゃないですか?」



 ずっと沈黙していたヒビキが、タイミングを見計らったように声を上げる。



「ふむ、そうですね」



──『見世物小屋』へ潜入し、奴隷として捕らえられている人間を解放する⋯⋯それこそが、今回の目的だった。



「改めて皆さん、今回の目的は潜入だということを念頭に置いてくださいね」


「は、はい⋯⋯!」



 今回は先輩が一緒だという事実に、安心と緊張を同時に覚える。


 ちなみにメンバーは俺、橘、ヒビキ、先輩、そしてジェイソンだった。



「前回の洋館の件で、雫さんは神威とクロックから不信感を抱かれちゃってるんだよ。当然、そんな神威が鵺の同行を許すわけもないし」



 ジェイソンは困ったように告げる。



「ジェイソンは神威さん達とは違うんですか?」


「ん?もちろん!私は雫さん大好きだよ!!いつもお菓子くれるし!」



⋯⋯餌付けされている。



「一緒にスプラッタ映画も見てくれるし!」


「先輩と映画ァ!?!?」


「うわ声デカ」



 羨ましい⋯⋯!



「はぁ⋯⋯もし神威が来てくれたら、こんなこそこそしなくてよかったんだけどね〜⋯⋯」


「⋯⋯?『見世物小屋』の構成員ってそんなに強いんですか?」



 正直、ジェイソンがいれば大抵の敵には負けないと思うのだが⋯⋯



「後ろ盾の無い犯罪組織が、まだ『春』に討伐されてないんだよ?強くなきゃ無理だって」



⋯⋯確かに、移動式のサーカス団ということは、法で治安が維持されている『春』にも足を踏み入れていると考えるのが自然だろう。


 それでもなお、彼らは未だ活動を続けているのだ。



「構成員はともかく、トップである『座長』には注意してください」



 先輩がジェイソンに補足する形で付け足す。



「⋯⋯強いんですか?」


「彼は元『劇団』の所属です」


「え⋯⋯!?」



──四つに分かれた領土のひとつである『冬』を統べる『四季』


 その『劇団』に⋯⋯?



「既に除籍処分を受けているので『劇団』とトラブルになる心配はありませんが、構成員の多くは『冬』からの流れ者と見るのが自然でしょうね」


「『四季』の元メンバー⋯⋯」



 冷や汗が流れるのを感じる。


⋯⋯いや、あくまで目的は潜入だ。できる限り戦いを避ける方向で行けば⋯⋯



「──あっ、あれじゃない?」



 ジェイソンが立ち止まり、遠くを指さす。



「⋯⋯え?あれですか⋯⋯?」



──それは、寂れたビルだった。


 サーカス団なんて言うものだから、てっきり派手なテントを想像していたため、驚きの声を上げてしまう。


 正体を隠すためなのかもしれないが、パフォーマンスをするには少し小さめな気も──



「──おいおい、そこにいるのは碧雫(あおいしずく)かァ?」


「──ッ!?」



 突如響いた声に、全員の動きが止まる。


 見れば、正面から複数の人影がこちらに向かって近づいてきていた。


 かなりの距離があるにも関わらず、その声は未だつんざくように耳を刺激する。



「──雫さん、撤退する?」



 ジェイソンが素早い動きで先輩に耳打ちする。


 どうやら、彼女には既に相手の正体が分かっている様子だった。


⋯⋯『見世物小屋』の構成員では無さそうだが、一体誰なのだろう。



「⋯⋯え?」



 しかしそんな疑問は『彼女』の姿をはっきり捉えた時点で消え失せた。



「こそこそ『ウチ』を嗅ぎ回るのはもうやめたのかよ?えぇ?」



 艶やかな色彩の着物を纏い、花を模した髪飾りで髪を結った長身の女性。


 攻撃的な口調でこちらに歩みを進める彼女の後ろには、スーツを着た十数人が控えている。


──そして、何人かの身体には『刺青』が確認できた。



「あれって⋯⋯」



──俺は、彼女の顔を知っている。


 俺だけでなくこの場の全員、彼女の顔とその着物には見覚えがあるはずだ。


 しかし、なぜ『夏』に⋯⋯?



「──紅葉椛(こうようもみじ)⋯⋯」



──『秋』を統べる『四季』


紅葉組(こうようぐみ)』のトップがそこに立ち、鋭い眼光でこちらを睨んでいた。

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