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デタラメ幸福論(主人公とヒロインがいちゃつきつつ能力バトルとかするだけ)  作者: 赤石アクタ
第二章 洋館探索編

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第十九話 自分のため

──海蜘蛛


 姿かたちは通常の蜘蛛と同様だが、大きさが人間程ある全身白色の生物。


 五感を頼りにしたような動きを見せるが、体内には内臓器官が存在せず、青い体液が循環するのみ。


 人間を積極的に襲って捕食し、体液で分解するのだが、身体構造的に食事は必要ないことが分かっており、目的は不明。


 領土を問わずどこにでも生息しており『全身白色』『青い体液』『人間への攻撃性』はどの個体も共通だが、それ以外は場所によって様々な進化形態が確認されている。




──洋館東棟。アカネ、ヒビキチーム──




「撃破⋯⋯」



 ヒビキが斬り裂いた海蜘蛛の切断面をなんとなく眺める。


 機械的で、綺麗な断面。



 既にかなりの数を倒しているが、依然として彼女の能力は理解できていない。


 それに加えて予想よりも海蜘蛛の数が多く、一部屋ずつ調べていることも重なって、既にかなりの時間が経っていた。



「ごめんヒビキ。戦闘を任せきりにしちゃって」


「気にしないで、これが一番合理的だもの」


「⋯⋯ありがとう」


「それに、アカネは以前海蜘蛛一体相手にもボロボロになっちゃったって聞いてるし?」


「うっ⋯⋯お恥ずかしい⋯⋯」



 金色の髪を揺らしながらこちらを振り向き、無表情のまま告げるヒビキにいたたまれない気持ちになる。


⋯⋯戦闘に加わったとしても大して役に立てないというのは事実だった。



「ふふ、ごめんなさい。からかっただけ」


「はは⋯⋯いや、ヒビキの言う通り──」



「──すごいと思うわ」


「⋯⋯え?」



 ヒビキの真剣な声色に、思わず目を見開く。



「ボロボロになって⋯⋯それでも頑張れるって、すごいことだと思う」


「⋯⋯ヒビキ⋯⋯?」



「⋯⋯ねぇ、どうしてそこまでできるの?」



 彼女の瞳は、真っ直ぐにこちらを捉える。



「──碧さんのために」


「⋯⋯っ」



──碧雫。


 俺が『妖怪探偵事務所』に加わり、今こうして洋館を調査している理由。



「事務所で知ってからずっと、聞いてみたいって思ってたの」



⋯⋯そういえば、鵺が大声で俺の胸中をバラした面接の日、彼女もその場にいたのだ。


 あの時は一切反応を示さなかったはずだが、彼女の中では疑問として残っていたらしい。



「⋯⋯大した理由じゃない⋯⋯単純に一目惚れしたっていうのと、あの人が提示した約束に魅力を感じたってだけで⋯⋯」


「約束?」


「⋯⋯⋯⋯俺を、主人公にしてくれるって」


「⋯⋯え?」



 目を逸らして告げた言葉に、彼女はぽかんと大口を開けている。


⋯⋯橘に言った時にも同じような反応をされたが、そこまで変だろうか⋯⋯いや変か⋯⋯



「⋯⋯アカネ⋯⋯」


「そっ、そういうヒビキは?」


「え、私?」



 気の毒そうにこちらを見るヒビキに耐えきれず、こちらからも質問を投げかける。



「なんで傭兵なんかやってるんだ?俺と同い年⋯⋯なんだよな?」


「それは⋯⋯」



 子供が傭兵として活動するのは『夏』でもそこそこ珍しいことなのだ。



「もちろん無理に詮索するつもりは無いが──」


「──私、両親が行方不明なの」



 こちらが予防線を張る暇もなく、ヒビキはいつもと変わらない単調な声色で告げた。



「二人とも、海蜘蛛に関する研究をしていたわ」


「⋯⋯なるほど」



⋯⋯復讐、もしくは両親の手がかりを求めて⋯⋯といったところだろうか。


 ある程度の予想はできるが、しかし彼女の表情からは言葉の真意を読み取ることができなかった。



「⋯⋯でも結局、私が傭兵をやっているのは全部自分のためよ。生活費を稼ぐっていうのと──」



 ヒビキは話しながらもこちらに背を向けたまま、なんでもないように調査を続けている。



「──生活の中で海蜘蛛と関わり続けることで、両親への感情を忘れずにいられますようにって」



 やはりその声色から感情は読み取れなかった。



「⋯⋯そう、か⋯⋯」


「まぁ、あまり上手くはいってないのだけれど」



 そこでヒビキは、やっとこちらに振り返った。



「だから、自分じゃなくて他者のために本気で頑張れるアカネはすごいと思う。それって、私にはできない事だもの」


「⋯⋯ヒビキ」


「──そんなアカネのこと、応援したい」



⋯⋯彼女は柔らかな表情で告げるが、その言葉を正面から受け取って良いものか、俺には判断がつかなかった。



「⋯⋯俺だって、自分のためだよ」


「⋯⋯?碧さんのためじゃなくて?」


「そもそもあの人には、俺みたいな才能の無い人間なんて必要ないんだ」



 分かっていたはずの事だが、実際口にすると胸が痛かった。



「──俺は結局、あの人をダシに幸福感を得ようとしてるだけなのかもな」



──どこまでも傲慢で、浅ましい生き方だ。




──洋館西棟。鵺、ナギサ、ヴィクトリアチーム──




「よっし、撃破ッ!」


「お疲れ様〜」


「海蜘蛛、予想より多いですね⋯⋯」


「何体いても、ヴィクトリアには余裕な気もしちゃうけどね」


「当たり前」



「うんうん、ところでさ──」


「⋯⋯?」



「──ナギサちゃんはまだ戦えないの?」


「⋯⋯ぇ」



 不思議そうに聞いてくる鵺に、言葉が詰まってしまう。



「⋯⋯それは⋯⋯」


「おい鵺ッ!嬢ちゃんは戦う必要なんてねぇんだよ!」


「でも、それでクロックにボコボコにされたんでしょ?」


「⋯⋯っ」



 苦い敗北の記憶が蘇る。


 訓練はここ数日も行っていたが、正直なところ未だヴィクトリアに頼りきりというのが現状だった。



「あのなァ!嬢ちゃんは今まで普通の高校生だったんだぞ?数日で化け物と戦えるようになるわけねぇだろ⋯⋯!」


「⋯⋯⋯⋯」



⋯⋯ヴィクトリアは庇ってくれるが、それでも心苦しい。



「ふーん、ほんとに?」


「あ?」


「──ヴィクトリアさ、ナギサちゃんに魔力の使い方、教えてないんじゃない?」


「⋯⋯え?」



 鵺の言葉に目を見開いて固まってしまう。



⋯⋯魔力の使い方?



「⋯⋯口を挟むな。それはこっちの問題だ」


「契約者として最低限の自衛手段くらいは教えてあげてもいいでしょ?もしものためにさ」


「そんな機会は訪れな──」



「──ヴィクトリア!私、挑戦してみたい!!」



 ほぼ反射的に、言葉が口をついて出ていた。



「えぇ⋯⋯?」


「すごく嫌そう!?」



 ヴィクトリアはあからさまに顔を顰める。



「クロックと訓練して弱点は理解したと思ってたけど、もしかして行き詰まってる感じなの?」



 鵺は手に持ったノートを軽く見返しながら、依然不思議そうに聞いてくる。



「それは、そうなんですけど⋯⋯」


「あっ、分かった。どうせヴィクトリアは『オレサマが強くなれば全部解決だ!』とか考えてんじゃない?」


「ぐっ⋯⋯!コイツ⋯⋯!」



⋯⋯一言一句、同じ内容を言われたことがある。



「それじゃ流石に可哀想だよ、ナギサちゃんだって戦えるようになりたいって思ってるんだから」


「⋯⋯だが、嬢ちゃんは⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯あのさ、罪悪感を感じてるのかもしれないけど、君はもうナギサちゃんを巻き込んでるんだよ?」


「⋯⋯ッ」



 なおも渋るヴィクトリアに、鵺は冷たい口調で告げた。



「──戦い方を教えるっていうのは選択肢じゃない。背負うべき責任だって分かってる?」


「⋯⋯⋯⋯」



 ついにヴィクトリアは閉口してしまった。



「⋯⋯ヴィクトリア」


「⋯⋯嬢ちゃん、オレサマは⋯⋯」



 ヴィクトリアは気まずそうにこちらを見つめている。



「⋯⋯ヴィクトリア、そんな顔しないで。あの日、私は手伝いたいって言ったでしょ?」


「⋯⋯だが⋯⋯」


「私が私のために選んだことなんだから、罪悪感も責任も、感じる必要ないんだよ」


「⋯⋯ッ」


「⋯⋯でも──」



 初めて会った日と同じように、決意を込めて一歩踏み出す。



「──手伝うための精一杯をさせてくれないっていうのは、ちょっと悔しい⋯⋯かも」



「⋯⋯嬢、ちゃん⋯⋯」


「手伝うなら、全力で手伝いたい⋯⋯!だからヴィクトリア、私に遠慮しないで!」


「⋯⋯ッ!」



 ヴィクトリアは元人間で、魔神として契約するのは当然私が初めて。


 だからこそ、彼には『契約者』という存在を『ハンデ』と認識して欲しくなかった。


 少しでも今の関係を、今の存在を良いものとして記憶に残して欲しかった。



「だから、教えて欲しい⋯⋯ほら、やってみたら私、案外役に立つかもしれないでしょ?」


「⋯⋯⋯⋯ハハッ、そうだな」



 思いが通じたのか、私の言葉にヴィクトリアは調子を取り戻して頷いてくれた。



「⋯⋯よし、じゃあ嬢ちゃん。今から基本的な魔力操作を一つ教える」


「よ、よろしくお願いします⋯⋯!」


「──よろしくお願いします!!」



「⋯⋯え?」



 いつの間にか、鵺が私の隣で瞳を輝かせていた。



「⋯⋯は?鵺、何してんだ⋯⋯?」


「よろしくお願いします!!!」


「ゴリ押そうとすんな!は!?何お前!?」


「えへへ。ほら〜、早く教えてよ〜。『遠慮』すんなって〜」


「こっ、コイツまさか⋯⋯ッ!?」



 楽しげな様子の鵺にヴィクトリアは顔を引き攣らせる。



「⋯⋯テメェ責任だなんだ言っといて、自分が魔力について知りたかっただけだろッ!!?」


「ぎゃー!?ヴィクトリアが突然暴力的に!?」


「うるせぇッ!!⋯⋯クソッ!ちょっと落ち込んだオレサマがバカみたいじゃねぇかッ!!」




──────────────────




「とりあえず教えるのは遠距離技だ。これなら自衛だけじゃなく攻撃もできるからな」



 言いながら、ヴィクトリアは握られた手の人差し指と親指だけを立てる。



「とりあえず手をこんな形に」


「あっ、うん⋯⋯!なんか小さい頃お父さんとやったガンマンごっこを思い出すなぁ⋯⋯」


「思い出がかわいい」


「よし、それを前に向ける」


「うん⋯⋯っ!」


「そしたら、指先に魔力を集める」


「⋯⋯魔力を、集め⋯⋯?」


「これが魔力だ」



 ヴィクトリアが軽く腕を振ると、キラキラとした粒子が腕の周りを漂う。


 どこか神秘的な光景だった。



「嬢ちゃんの身体は既にだいぶ魔力に馴染んでる。この粒子が身体を巡っている感覚をイメージするんだ」


「や、やってみる⋯⋯!」


「⋯⋯⋯⋯」



(⋯⋯やっぱり、ヴィクトリアが纏う魔力は『エレメンタル』に近いな⋯⋯魔神は基本『エレメンタル』を扱えないんだけど⋯⋯生前に関係があるのかな⋯⋯?それとも──)



「──鵺?大丈夫ですか?」


「⋯⋯え?」



 どこかぼーっとした様子の鵺に気づき声をかけると、彼女は驚いたようにこちらを見る。



「⋯⋯あ、あぁごめんナギサちゃん。それでどう?魔力使えそう?」


「あ、はい一応⋯⋯」


「一応じゃない!完璧だぜ嬢ちゃん!!」



 はしゃいだ様子のヴィクトリアに笑顔を返しながら、もう一度魔力を指先に集めてみる。


 淡く輝きを放つ指先と、そこに感じる仄かな温かさ。



「──ッ、来たぜ。嬢ちゃんの初陣だ⋯⋯!」


「⋯⋯っ⋯⋯海蜘蛛⋯⋯」



 ヴィクトリアがこちらを見てニヤリと笑う。



「大丈夫さ、難しいことじゃない。指先に集めた魔力を放つだけだ⋯⋯相手を直線的に、線で貫くイメージ⋯⋯!」


「へー、指先から撃てるってこと?羨ましー」


「⋯⋯っ⋯⋯直線的、に⋯⋯っ」



 頭の中に、訓練で見たクロックの戦い方が蘇る。


 クロックは石を用いて、直線的に私達を攻撃していた。


 能力の性質上、微調整も可能な様子だったが、それでも一直線に飛んでくる石というイメージに本能的とも言える恐怖を感じたことが思い起こされる。



「いけるか?嬢ちゃん」


「⋯⋯うん⋯⋯!絶対勝利してみせる⋯⋯!!」

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