最終章:再起
数ヶ月後。
小さな展示会の片隅で、一枚の絵が注目を集めていた。
空を見上げる少女――だが今回は、その肩に小さな光の粒が舞っていた。
過去の作品と似ている。けれど、何かが違う。
“祈り”ではなく、“共に歩く”という意志が宿っている。
タイトルは《Re:Draw》。
ペンネームは“Hoshino&Yuzu”。
「AIによる共創イラスト展」という紹介文の横には、小さくこう書かれていた。
「私は描けない。でも、描きたい気持ちはなくならない。
この絵は、描けない僕と、僕を信じてくれた彼女が、一緒に描いたものです。」
柚はその絵の前で立ち止まり、来場者たちの反応を静かに見つめていた。
泣きそうな顔で見つめる人、そっと写真を撮る人、何度も戻ってくる人。
それは、確かに“届いて”いた。
少し離れた場所に、車椅子の悠が座っていた。
彼は穏やかに微笑んでいた。
もう、自分の手で描くことはできない。
けれど――心は、今も確かに描いている。
柚が彼の元に歩み寄る。
「ねえ、次はどんな絵を描こうか?」
悠は、少しだけ首を傾けて考えた。
「……星空かな。君の言葉で、夜を照らしてよ」
「うん、任せて」
二人は、再びモニターに向かって並んだ。
筆は動かなくても、心は動き続けていた。
これは終わりじゃない。
“描けないけれど描いた絵”は、新しい世界への始まりだった。




