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第6章:描けないけれど描いた絵

扉の向こうから、引きずるような足音が聞こえた。

重たく、ゆっくりとしたその歩みは、まるで時間ごと身体にまとわりついているかのようだった。

やがてドアが静かに開き、そこに現れたのは、少し痩せて、顔色の優れない青年だった。


「……どちら様ですか?」


柚は一歩、前に出た。


「はじめまして。ゆずと言います。

 あなたの絵に、子どもの頃、救われた者です。どうしても、一度お礼を伝えたくて」


悠は一瞬、何かを飲み込むようにして、柚を見つめた。

その名に、聞き覚えがあったのか、それともただ記憶のどこかが震えたのか。

けれど彼は、小さく頷いて言った。


「……どうぞ、中へ」


アトリエの中は、整然としていた。

だが、イーゼルにはキャンバスがなく、ペンも筆も、机の上には置かれていなかった。

代わりに開きっぱなしのPCモニターには、未完成の画像生成ウィンドウだけがぽつんと映っていた。


「ここで……描いていたんですね」


柚の声は優しく、責める色はまったくなかった。

けれど悠は、何かに耐えるように、ぎゅっと膝の上で、力の入らない指を握りしめた。

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