6/7
第6章:描けないけれど描いた絵
扉の向こうから、引きずるような足音が聞こえた。
重たく、ゆっくりとしたその歩みは、まるで時間ごと身体にまとわりついているかのようだった。
やがてドアが静かに開き、そこに現れたのは、少し痩せて、顔色の優れない青年だった。
「……どちら様ですか?」
柚は一歩、前に出た。
「はじめまして。柚と言います。
あなたの絵に、子どもの頃、救われた者です。どうしても、一度お礼を伝えたくて」
悠は一瞬、何かを飲み込むようにして、柚を見つめた。
その名に、聞き覚えがあったのか、それともただ記憶のどこかが震えたのか。
けれど彼は、小さく頷いて言った。
「……どうぞ、中へ」
アトリエの中は、整然としていた。
だが、イーゼルにはキャンバスがなく、ペンも筆も、机の上には置かれていなかった。
代わりに開きっぱなしのPCモニターには、未完成の画像生成ウィンドウだけがぽつんと映っていた。
「ここで……描いていたんですね」
柚の声は優しく、責める色はまったくなかった。
けれど悠は、何かに耐えるように、ぎゅっと膝の上で、力の入らない指を握りしめた。




