表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第5章:絵が繋ぐもの

美術館の片隅に、小さな特設展が開かれていた。

タイトルは《匿名作家による“祈り”の絵》。

主催者すら作者の素性を明かさず、ただ一言だけ添えていた。


「この絵は、人の心を描いている。

 それだけで、十分でしょう?」


ゆずは、絵の前で立ち尽くしていた。

涙が、頬をつたって落ちた。

それは、少女の頃と同じだった。


――あのときも、そうだった。

両親の離婚、学校での孤立、自分には何の価値もないと思っていたあの頃。

机の引き出しの中、誰かが置いてくれた一枚のポストカード。


空を見上げる少女の絵。

どこか寂しそうで、それでも光を諦めていない――そんな瞳だった。


その絵を見て、彼女は泣いた。そして、生きようと思った。


「ありがとう……って、ずっと言いたかったんだよ。

 あなたの絵が、私をこの世界につなぎとめてくれた」


彼女は、大人になった今、その絵の空気をもう一度感じていた。

タイトルも、署名もない。だけど――“わかる”。

この絵は、あの時の作家と同じ人が描いたものだと。


「このタッチ……目の奥にある感情の揺れ……絶対に、あの人だ」


柚はその日から、“Hoshino”という名前を手がかりに、作者を探し始めた。

炎上の痕跡、AI騒動、そして失われた連載。

ネットの海の中に埋もれた情報を拾い集め、ひとつずつ繋いでいく。


ようやくたどり着いたのは、都心から離れた郊外にある、静かなアトリエだった。


扉の前に立った柚の手は、震えていた。

けれど、心は不思議と穏やかだった。

まるで、何年も前からこの瞬間を待っていたように――。


ノックの音が、静かな空気を揺らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ