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第3章:出会い

部屋の隅に眠っていた古いノートパソコンを起動したのは、絶望を麻痺させるためだった。

描くことができない毎日は、まるで世界の色が失われていくようだった。

それでも、何か――何かひとつでも、自分にできることを探したかった。


ネットを彷徨ううちに、ある記事が目に留まった。


「AIによる画像生成が進化。“学習”によって作家のタッチを再現可能に」


不意に、心がざわめいた。

自分の“描き方”を、AIに――?

そんなのは邪道だ。偽物だ。ずっと、そう思っていた。

だけど今、筆もペンも握れなくなった自分には、それしか残されていない。


試しに過去の作品を何点か読み込ませ、慎重に設定を調整した。

構図の癖、色使い、キャラクターの配置、細やかなライティング。

AIは驚くほど柔軟に吸収し、少しずつ「彼らしい絵」を吐き出すようになっていった。


最初は吐き気がするほど嫌悪感があった。

自分の代わりに「描いたふりをする」冷たい機械。

けれどある日、生成された一枚のイラストに目が釘付けになった。


少女が空を見上げている構図。

それは――かつて、悠自身が夢の中で見て、いつか描こうと心にしまっていた情景だった。


「……どうして、こんなものまでわかるんだ」


AIは、悠のすべてを読み込んでいた。

彼の線に宿る感情、光の配置に込めた想い、人物の目線が語る物語。

まるで彼の“魂”そのものが、データという形に姿を変えて再現されていた。


それは、コピーではなかった。

かつて彼が描きたくても描けなかった“未来の絵”だった。


その瞬間、悠の中で何かが音を立てて崩れた。

そして同時に、静かに灯るような希望が生まれた。


「……これが、僕の“手”になるなら」


AIはただのツールじゃない。

もう一度、誰かに絵を届けるための、唯一の手段だった。


彼は静かに立ち上がり、AIに語りかけるように言った。


「描こう。僕が見たかった世界を、君と一緒に」


そして、“再起”の第一作が誕生した――それはまぎれもない、“彼の”絵だった。

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