95.夜風と二人の帰り道
95.夜風と二人の帰り道
校門を抜けると、通りにはもうほとんど人の気配はなかった。
夜の風が少し肌寒くて、由愛はそっと陽翔の腕に寄り添った。
「……なんか、夢みたいだったね」
「うん。……ずっと今日が終わらなければいいのになって思った」
ぽつりとこぼれた陽翔の言葉に、由愛は少しだけ目を丸くする。
「……そういうの、陽翔くんのほうがずるいよ」
「え?」
「そういうこと言われると、もっと好きになっちゃう」
照れくさそうに笑う由愛の横顔を、陽翔はまっすぐ見つめた。
信じられないくらい、近くにいて。
それでもまだ、信じられないくらい、胸が高鳴る。
「……あのさ、由愛」
「うん?」
「来年も……再来年も、ずっと一緒に文化祭まわれたらいいな」
由愛はふっと目を細めて、優しく笑う。
「うん。来年は、二人でカップル参加、しよ?」
「……マジで言ってる?」
「うん。来年は、陽翔くんと一緒にクラスの出し物も、もっと頑張るし」
「……やばい、また好きになりそう」
「もう、なってるでしょ?」
二人は顔を見合わせて、小さく笑いあう。
何気ない帰り道も、いまはただ——この時間すべてが宝物のように感じられた。
「……あ、ちょっと寄り道して帰ろうよ。公園、通ってさ」
「いいよ。でも、手……つなご?」
「……うん」
静かな夜道に、二人の影がぴたりと寄り添って伸びていく。
今日という一日を、大切に抱きしめるように——。




