90.文化祭準備と、二人の時間
90.文化祭準備と、二人の時間
保健室から戻ると、教室ではすでに作業が再開されていた。
「おーい、藤崎! 悪いけど、ポスターの仕上げ手伝ってくれ!」
「橘さん、こっちの作業お願い!」
それぞれ別の仕事に呼ばれ、また少し距離ができる。
(……さっきの、なんだったんだろ)
由愛の「久々だったかも」という言葉が、まだ心の奥に残っていた。
(俺だから、なのか……それとも、単に誰かに心配されるのが久々なだけか)
そんなことを考えながら、陽翔は筆を走らせる。
⸻
「ふぅ……疲れたー!」
時計を見ると、もう夕方。
文化祭準備のため、今日はいつもより遅くまで残っていた。
みんな片付けを始める中、陽翔は教室の隅で黙々と作業を続ける由愛を見つけた。
「おい、橘。もうそろそろ終わりにしないと、遅くなるぞ?」
「うん……もう少しだけ」
陽翔は彼女の手元を見る。どうやら、装飾用の細かい紙細工を仕上げているらしい。
「お前、真面目すぎるんだよ」
「そうかな? 陽翔くんが手伝ってくれたら、早く終わるかも」
由愛がふっと微笑む。
「……仕方ねえな」
結局、陽翔も机に向かい、一緒に作業をすることになった。
⸻
「……終わった!」
小さな紙細工を並べ、二人で達成感を味わう。
教室には、もうほとんど人がいなかった。
「結局、二人きりになっちゃったな」
「そうだね」
由愛はふっと笑い、窓の外に目をやる。
「陽翔くん、今日もありがとね」
「別に……お前が無理するからだろ」
「でも、一緒にやってくれて嬉しかった」
その言葉に、陽翔は不意に照れくさくなり、窓の外に視線をそらした。
「……俺も、たまにはこういうのも悪くねえかなって思っただけだよ」
「そっか」
由愛は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。




