88.文化祭準備と、すれ違い?
88.文化祭準備と、すれ違い?
文化祭の準備が本格的に始まり、放課後の教室はいつもより活気に満ちていた。
「こっちの装飾、もう少し派手にした方がいいかな?」
「そうだね。もうちょっとキラキラした感じにしよう!」
陽翔と由愛は、実行委員としてクラスの出し物——喫茶店の準備に追われていた。
「橘さん、ここ手伝ってくれる?」
クラスメイトの男子が、由愛に話しかけた。
「うん、いいよ」
由愛は笑顔で答え、陽翔の隣を離れる。
(……最近、こんなことが増えた気がする)
由愛は誰にでも優しい。そこが彼女のいいところでもある。
けれど、恋人になってからは、それが少しだけ気になるようになってしまった。
「藤崎、こっちの作業お願い!」
「あ、ああ!」
考え事をしているうちに、陽翔も作業へと引っ張られていった。
⸻
その日の帰り道。
「……最近、あんまり話せてない気がする」
由愛が、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
「文化祭の準備で忙しいのは分かってるけど……なんだか、前みたいに自然に話せなくなってる気がして」
陽翔は少し驚いた。由愛も同じことを思っていたのか、と。
「それは……」
自分でも言葉にしづらかった。
単なるすれ違いなのか、それとも——。
「……ごめんね。私、陽翔くんともっと一緒にいたいのに」
夕暮れの光の中で、由愛がそっと陽翔の袖を掴んだ。
「お前が謝ることじゃないだろ」
「でも……」
陽翔は少し考えたあと、由愛の手を優しく握り返した。
「じゃあ、文化祭が終わったら、どっか行こうぜ」
「え?」
「最近、まともにデートとかしてないしな」
由愛の顔が、ぱっと明るくなる。
「……約束だよ?」
「おう」
繋いだ手の温もりが、すれ違いかけた気持ちを確かめ合うように伝わってきた。




