87.文化祭という名のきっかけ
87.文化祭という名のきっかけ
週明け、教室に入ると黒板にでかでかと「文化祭実行委員募集!」の文字が貼られていた。
「おー、もうそんな時期か」
陽翔がぽつりとつぶやくと、由愛も机にカバンを置きながら頷いた。
「うん。今年は一年生も出し物やるんだって」
「そうなんだ。クラスで何やるのかな……」
そのとき、クラスの中心的存在の女子・田中が、ぱん、と手を叩いて立ち上がった。
「はいはーい! 出し物、決めようよー! 実行委員も募集ね!」
陽翔は静かに気配を消そうとする。目立つのはあまり得意じゃない。
が、ふと視線を感じてそちらを見ると、由愛が少し口元に手を当てて笑っていた。
「どうした?」
「ううん。陽翔くん、委員とか絶対やらなそうだから」
「いや、やらないし……」
「でも……」
由愛はいたずらっぽく陽翔に顔を寄せる。
「もし、私が委員やったら?」
「……!」
陽翔は一瞬で察した。
「まさか、お前……やるの?」
「わかんない。でもね、ちょっと楽しそうじゃない?」
陽翔は口を開きかけて、やめた。
(……そうだな。由愛が楽しそうなら、それでいい)
そう思っていると、田中が名簿を持って近づいてくる。
「藤崎くーん! 橘さんも! 一緒に実行委員やらない?」
由愛は陽翔をちらっと見て、わずかに目を細める。
「私は、やってもいいかな」
陽翔は心の中で深いため息をついた。
「……俺も、やるよ」
「えっ、まじで!?」
由愛が嬉しそうに目を丸くする。
陽翔はそっぽを向きながら答えた。
「お前が一人でやるのは不安だしな。……それだけだよ」
由愛はくすっと笑った。
「……ありがと、陽翔くん」
こうして、文化祭実行委員としての新たな日々が始まった。




