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あおはる  作者: 米糠
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85.踏み出す勇気

 85.踏み出す勇気



 昼休み。


 陽翔は教室を出て、ノートを手に持ったまま廊下を歩いていた。

 由愛にノートを渡すため——というのは建前で、本当は少し二人きりで話したいと思っていた。


 由愛はどこにいるだろうかと考えながら階段を降りていくと——ちょうど廊下の先で、由愛の姿を見つけた。


 彼女は窓際に立ち、何かを考えているようだった。

 その横顔がやけに綺麗で、思わず足を止める。


(……なんか、こういうのズルいよな)


 ただ立っているだけなのに、自然と目を引く。

 彼女の存在が、自分の中でどれほど大きくなっているのか——今さら思い知らされる。


 陽翔は小さく息を吸い、意を決して歩み寄った。


「——由愛」


 声をかけると、彼女はゆっくり振り向いた。


「あ、陽翔くん」


「ノート、持ってきたぞ」


「……ありがとう。でも、本当はそんなに急がなくてもよかったのに」


 由愛は微笑みながら、ノートを受け取る。


「別に、ついでだしな」


「ふふ、そういうことにしといてあげる」


 そんなやり取りをしながらも、由愛の表情はどこか柔らかい。

 二人とも、もうお互いの気持ちは確認し合っている。

 それなのに、こうして普通に会話をしているだけで、胸が温かくなるのが不思議だった。


「……なんかさ」


 ふと、由愛がぽつりと呟いた。


「最近、前よりずっと陽翔くんのことを考えてる気がする」


「え……?」


 不意打ちの言葉に、思わず言葉を詰まらせる。


「前から好きだったけど、ちゃんと気持ちを伝えてからは、もっと……」


 言いかけた由愛は、少し恥ずかしそうに口をつぐむ。


 その様子を見て、陽翔は自分の顔が熱くなるのを感じた。


「……それ、俺も同じかも」


「え?」


「なんか、普通にしてるつもりなのに、由愛のことばっかり考えてるんだよな」


「……そっか」


 由愛はふわりと微笑んだ。


「じゃあ、もうちょっと一緒にいよっか?」


 そう言って、彼女はそっと陽翔の袖を引いた。


 それだけのことで、心臓が跳ねる。


「……お、おう」


 二人で、並んで歩く。


 もう隠す必要はない。


 だけど、こうして過ごす時間の中で、改めて——好きだと実感してしまうのだった。

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