84.隠しきれない
84.隠しきれない
陽翔は、からかう友人たちを適当にあしらいながら、内心焦っていた。
(やばい、完全にバレる……!)
今まで特に意識したことはなかったが、こうして他人から指摘されると、途端に自分の態度が気になってくる。
普段の何気ない仕草や、由愛と話すときの表情——自分では普通のつもりでも、周りから見たら違っていたのかもしれない。
(っていうか、由愛に聞かれてないよな……?)
チラッと視線を向けると、彼女はまだ友人と話している……が、どこか楽しそうにこちらを見ている気がする。
(……もしかして、全部聞こえてた?)
そう思った瞬間、心臓が跳ねた。
そのとき、由愛がすっと立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「——陽翔くん」
近くまで来ると、彼女は軽く微笑んで言った。
「次の授業、ノート貸してもらってもいい?」
「え? あ、ああ、いいけど……」
「ありがとう。じゃあ、あとでね」
そう言って、由愛は何事もなかったように去っていく。
(……いや、待て)
その一連のやり取りに、何か違和感を覚えた。
ノート? 由愛が?
彼女はいつもきっちり授業を受けているし、ノートを忘れるようなタイプではない。
なのに、わざわざ自分に借りに来た——しかも、今このタイミングで。
(……もしかして、助け舟を出してくれたのか?)
友人たちのからかいから逃がすために、話しかけてくれた——そう考えると、妙に納得がいった。
由愛が自分を見ていた理由も、それなら説明がつく。
(……俺、どんどん彼女に惚れてるな)
無意識に苦笑する。
もう、誤魔化すことすらできなくなってきている。
これ以上、気持ちを隠し続けるのは——もう、無理なのかもしれない。




