83.隠せない気持ち
83.隠せない気持ち
次の日、陽翔が学校に着くと、すでに教室にはクラスメイトたちが談笑していた。
しかし、その中で自然と目が向かうのは——やはり、由愛の姿だった。
彼女は窓際の席で友人と話していたが、ふと陽翔に気づくと、小さく手を振った。
——それだけのことなのに、胸が高鳴る。
「おはよう、陽翔くん」
「ああ、おはよう」
普通に返したつもりだったが、少し声が上ずった気がする。
由愛は微笑んで「今日もよろしくね」と言うと、また友人との会話に戻った。
(……俺、絶対顔赤くなってる)
気づかれないように、急いで席に着く。
「……藤崎、なんか最近変じゃね?」
隣の席の友人、佐々木がニヤニヤしながら言ってきた。
「は? 何がだよ」
「いや、なんかさ、最近お前——」
「よう、おはよう!」
ちょうどその時、クラスのムードメーカーである片瀬が陽翔の肩を叩いた。
「なあなあ、昨日さ、駅前で藤崎と橘見かけたんだけど?」
「っ——!」
陽翔は思わず肩を震わせた。
「え、マジ? お前らデートしてたの?」
「ち、違う! ただ一緒に帰ってただけだ!」
「へえ〜、そっかそっか〜?」
佐々木と片瀬はニヤニヤしながら顔を見合わせる。
「でもさ、普通、一緒に帰るだけでそんな慌てないよな?」
「いや、だから——」
「藤崎、もしかして橘のこと好きなんじゃね?」
——ドクン。
一瞬、心臓が大きく跳ねた気がした。
慌てて何か言い返そうとするが、うまく言葉が出てこない。
そんな陽翔の様子を見て、片瀬がさらにからかうように言う。
「ほら、図星だから反応できてないし!」
「ちょ、うるせぇって!」
「お? これは確定か〜?」
「違うって言ってるだろ!」
無理やり否定するが、言葉にまったく説得力がない。
そんな騒ぎをよそに、由愛は少し離れた場所から陽翔の様子をじっと見ていた。
そして、クスッと微笑むと、静かに呟いた。
「……ふふ、分かりやすい」
陽翔がどんなに誤魔化そうとしても、もうとっくに隠しきれていなかった。




