82.恋をしている
82.恋をしている
帰り道、陽翔はふとスマホを取り出した。
画面には由愛とのトーク履歴が並んでいる。
(……別に、何か送ることもないよな)
けれど、今日はずっと一緒にいたはずなのに、なぜかもう彼女の声が聞きたくなっている自分がいる。
そんな自分に気づいて、思わず苦笑する。
(俺、完全に由愛のこと……)
認めたくないわけじゃない。
もう、とっくにわかっていたことだ。
でも、改めて実感すると、なんだか少し恥ずかしい。
「……バカみたいだな」
自嘲気味に呟きながら、ポケットにスマホをしまう。
けれど、その瞬間——
ピロンッ
メッセージの通知音が鳴った。
開くと、そこには由愛からの短いメッセージがあった。
『陽翔くん、もう家着いた?』
たったそれだけの言葉なのに、心臓が跳ねる。
すぐに返そうとして、指が止まる。
(……どうしよう)
「まだ歩いてる」だけじゃ、素っ気ないだろうか。
「由愛は?」と聞き返すべきか。
——いや、こんなことで悩むのもおかしい。
少し迷ってから、指を動かす。
『今歩いてる。由愛は?』
送信ボタンを押して、スマホの画面を見つめる。
すると、すぐに既読がつき、返信が来た。
『私も、ちょうど家着いたところ!』
『今日は本当に楽しかったね』
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
『ああ、俺も楽しかった』
送ったあと、少し間が空く。
由愛は返信を考えているのか、それとももう終わりなのか——。
そんなことを考えていたら、また通知が鳴った。
『また一緒に出かけようね』
『おやすみ、陽翔くん』
そのメッセージを見た瞬間、心臓がギュッと締めつけられる。
(……ほんと、ずるい)
こんな短い言葉なのに、胸がいっぱいになる。
スマホの画面を見つめながら、陽翔はふっと息をついた。
『おやすみ、由愛』
そう返して、スマホをそっと閉じる。
——夜風が少しだけ温かく感じた。




