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あおはる  作者: 米糠
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81.君の隣で

 81.君の隣で



 電車の揺れが心地よく、肩にもたれる由愛の温もりがじんわりと伝わってくる。

 静かな時間が流れる中、陽翔はちらりと彼女の顔を覗き込んだ。


 目を閉じたまま、穏やかな表情をしている。


(……寝てる?)


 少しだけ緊張しながらも、陽翔はそのまま動かずにいた。

 むしろ、少しでも長くこのままでいたいと思った。


 だが、そんな願いも虚しく、電車が次の駅に到着するアナウンスが響く。


 由愛が小さく身体を動かし、ぱちりと目を開けた。


「……あ」


「起こしちゃったか?」


「ううん……ちょっと寝ちゃったみたい」


 由愛は軽く伸びをしながら、陽翔の肩を見て申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめんね、陽翔くんの肩借りちゃって」


「別にいいよ。気にするな」


「ほんと?」


「うん、むしろ——」


 言葉を途中で止める。


(むしろ、もっと寄りかかっててもよかった、なんて……言えるわけないだろ)


 そんな本音を押し殺しながら、陽翔はわざとそっけなく視線をそらした。


 だが、由愛は陽翔のシャツの裾をちょんと引っ張る。


「……じゃあ、また貸してね?」


「……っ」


 さらりとそう言う由愛の言葉に、心臓が跳ねる。


(なんなんだよ……そういうの、ずるいだろ)


 鼓動がうるさい。

 けれど、それを悟られたくなくて、陽翔はわざとそっけなく「好きにしろよ」とだけ返した。


 そんな陽翔の態度を、由愛はクスッと笑って見つめていた。


 電車が駅に到着し、ドアが開く。


「そろそろ降りる?」


「あ、そうだな」


 二人は並んで電車を降り、改札へと向かう。


 駅の外に出ると、少し冷たい夜風が吹いた。


「……少し寒いね」


「春の夜って意外と冷えるよな」


 そんな何気ない会話をしながら、二人は並んで歩く。


 つい最近までただのクラスメイトだったのに、今はこうして自然に隣にいる。


 そのことが、不思議で——でも、とても嬉しかった。


 ふと、由愛が立ち止まる。


「ねえ、陽翔くん」


「ん?」


「今日は、一緒にいてくれてありがとう」


「……何だよ、改まって」


「ただ、言いたくなったの」


 由愛はふわりと微笑む。


 その笑顔があまりにも愛おしくて、陽翔は思わず目をそらした。


(ほんと……ずるいよな)


 けれど、次の瞬間、由愛の小さな手がそっと陽翔の袖をつかんだ。


「……また明日ね」


「……ああ、また明日」


 そんな短い言葉を交わし、二人はそれぞれの帰り道へと歩き出した。


 陽翔はほんの少しだけ、名残惜しさを感じていた。

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