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あおはる  作者: 米糠
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80.触れる距離

 80.触れる距離



 電車がゆっくりと動き出し、窓の外の景色が流れ始める。

 夕暮れの街並みを眺めながら、陽翔はスマホを弄るふりをして、そっと隣の由愛に視線を向けた。


 彼女のスマホにも、先ほどお揃いで買ったストラップがついている。

 同じものを持っているだけなのに、なんだか妙に意識してしまう。


「……ねえ」


 由愛がふいに口を開いた。


「ん?」


「今日、楽しかったね」


 陽翔はスマホをいじる手を止め、少しだけ笑みを浮かべた。


「そうだな。ああいう雑貨屋って、意外と面白いもんだな」


「うん。陽翔くん、けっこう真剣に選んでたよね」


「まあな……適当に選ぶのも嫌だったし」


 由愛はくすっと笑う。


「じゃあ、今度はもっといろんなお店巡りしてみる?」


「いいけど……そんなに見るもんあるのか?」


「あるよ。私、行きたいカフェもあるし、おしゃれな文房具屋さんも気になってるんだ」


「……なんか、デートっぽいな」


 陽翔がぽつりと呟くと、由愛はぴたりと動きを止めた。


 そして、ゆっくりと陽翔の顔を見上げる。


「……ダメ?」


「いや、そういうわけじゃ……」


 由愛は少し頬を染めながら、そっと陽翔の肩にもたれかかった。


「じゃあ、それで決まり」


「……お、おう」


 不意打ちのような甘い距離感に、陽翔の心臓はやけに速く鼓動を打つ。


 由愛の髪から、ほんのりと甘い香りが漂う。


 電車の揺れに合わせて、ストラップが小さく揺れた。


(……俺たち、こうしてるのが普通になってきたな)


 少し前までは、ただのクラスメイトだったのに。

 今は、こうして自然に触れ合える距離にいる。


 そのことが、無性に嬉しかった。


「陽翔くん」


「ん?」


「……次のデート、いつにする?」


 由愛が小さな声で囁く。


 陽翔は少し戸惑いながらも、心のどこかで期待している自分に気づいた。


「……また、予定合わせて決めようぜ」


「うん、楽しみにしてる」


 そう言って、由愛はまた陽翔の肩に頭を預けた。


 電車の振動と、彼女の柔らかな温もりが伝わる。


 ストラップの揺れる音が、二人の心をそっと繋いでいるように感じた——。

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